第89話 鎖と真実
「やぁシヅキくん、トウカちゃん。2体とも無事みたいで良かったよ。君たちが1番の懸念だったんだ。まだ少しだけ役者が足りないけれど、あの子もすぐに来るだろうし。 ……あぁそうだ。肉体も精神もたくさんすり減ったろう? 少しだけでも腰を落ち着けたらどうかな?」
シヅキとトウカが“結界”前へと辿り着くやいなや、ヒソラは
シヅキはその光景を前にして、すぐにトウカを下がらせた。1歩、2歩、3歩。その足音を確かに確認した後に右手を前に突きだす。間もなくして大鎌が生成された。
刃先をヒソラの方向へと突き立てる。
「急だねシヅキくん。そんな呆気なく武装を始められると少し怖いな。ほら、解読型なんてのは原則的に戦闘を行わないからね。こういうシチュエーションにボクは慣れていないんだ。 ……あぁ、ところでさ」
ヒソラは
「シヅキくんが突き立てたその大鎌って、ボクのことを狙ったもの? それとも、こいつらのことかな?」
「…………」
シヅキは返事をすることなく、ただその光景を見上げた。 ……複数の赤黒い鎖で繋がれた彼らの光景を。
“結界”を中心とした少し開けた空間に、見覚えのない不自然なオブジェクトが立っていた。地面を穿ち生える赤黒に塗りたくられた5本の鎖。そのどれもがアサギの腕回りほどの太さを誇っていた。鎖は闇空へと向かって重苦しく伸びており、最後には、1つの頂点に集結されているものであった。
しかし、鎖が頂点に結ばれる過程……そこには2体のホロウが巻取られていた。鎖は彼らの両腕と片脚をキツくキツく拘束しており、酷く痛々しい。普段のシヅキであれば簡単に眼を逸らせてしまえただろう。今日に限っては、そういう訳にもいかない訳だが。眼の前に広がるコレは、確固たる真実なのだから。
「…………」
一つ息を吐き、口内の唾液を飲み込んだ。大鎌の柄を持ち直し、ゆっくりと瞬きを。
そうしてシヅキは、鎖に繋がれた2体のホロウの名前を口にした。
「ソウマ……コクヨ、さん」
切れ長の眼と縁の細いメガネが印象的な男性ホロウ、ソウマ。ホロウを“型”ごとに徹底的に差別していた男だ。この調査団なるものにおいて指示
そしてもう一体が……コクヨ。闇空よりも漆黒の長髪と、右眼に装着されている眼帯が、確かに彼女であるとシヅキに教えてくれた。ただ一つ、異なる点があるとするならば腰に差されている刀が1本足りていない。
「ソウマの杖とコクヨの刀は事前に回収しているよ。万が一に備えてね」
そんなヒソラの声にシヅキは目線を落とす。 ……確かに、彼のすぐ真横にはそれらしき棒状のモノが2本、横たえられていた。
「コレは……この惨状はお前がやったんだな、ヒソラ」
「うんそうだよ。ボク一人でやった。そう認めたら、君はどうするつもりだい?」
「…………」
シヅキが答えることなく沈黙をしていると、彼の外套がクイと引かれた。
「シ、シヅキ! ヒソラ先生は――」
「わーってる。 ……分かってるよ」
掴んだトウカの手を優しく払ったシヅキは再びヒソラに向き直る。
「ヒソラはトウカを逃してくれたんだろう? それにその鎖は初めて見たが、臭いは知っている。すげえな。煤魔法ってのは鎖を造ることだって出来るのか」
「トウカちゃんが煤を分けてくれてね。事前にトウカちゃんの
「……サラッとエグいことを言う」
「ははは、同族を
ヒソラはパチンと手を鳴らした後、地面に生える鎖の一本に近づくと、それをギュッと握ってみせた。
「今のボク達に必要な行為……それは情報の共有だ。肩の力を抜いてなんて言いたいところだけれど、実際問題そういう訳にもいかないからね。手短に済ませよう」
そう言いつつ丸みを帯び、くりくりとした瞳をシヅキ達へと向けたヒソラ。それは柔和な眼つきではあるが、奥底に光はなかった。
ヒソラはやはり、淡々と語る。
「まずは結論から。ソウマとコクヨ、こいつらは何百という単位のホロウを
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