第28話 シヅキというホロウ
ホロウとは魔素が有す“形成”の性質により造られた人間の模倣である。
人間と限りなく近しいが、決して人間ではない
――違う。全てはかつての人間を復活させる為である。それこそが、唯一のホロウの悲願であった。
シヅキも、そんなホロウの悲願を達成するために造られた1体だ。体内魔素の操作に優れていたシヅキは、魔人を刈る浄化型としてアークで働くこととなった。
彼は自身の魔素を削ることで、大鎌を生成した。それを振るい、何十・何百という規模の魔人を
「シヅキというホロウはね……“ホロウ”として、かなり理想型なのよ」
静かな声で言ったソヨ。彼女はトウカの返事を待たずして、話を続ける。
「あいつは、魔人を浄化してくれる。雑務型が指示した内容を、愚直に、一切の反論なくこなしてくれる。それは、帰還率が低いと言われる、単独の任務であっても同じ。 ……躊躇なくやってくれるのよ」
「……それは、シヅキが望んでやっているのですか」
「一緒に行動していたトウカちゃんなら分かると思うわよ」
トウカはふるふると首を振った。
「魔人を刈った後シヅキは……苦しそうな顔をしていました。自分の掌をずっと見ていて……」
「……なるほど。喧嘩の原因はソレね」
「え?」
「トウカちゃん、そのことをシヅキに指摘したでしょう?」
「……はい。その、思わず」
トウカが思い返したのは、つい数日前の出来事だった。今になっても、激高したシヅキの表情は思い浮かべることが出来た。
トウカは力弱く笑いながら言う。
「……分かるものなのですね」
「前にも言ったと思うけれど、シヅキとは一緒に製造されてからの付き合いなのよ。だから18年になるかしら? 何やったら怒るかくらいは分かる。 ……トウカちゃんのことはまだ分からないけどね。変なことを企んでいるし」
「それは……」
トウカはまともにソヨの眼を見ることが出来なかった。ただ、応接室の扉を見つめるだけだ。そんなトウカに向けて、ソヨは細い眼を向けた。
「……あまりあなたを追い込むようなことはしたくないんだけれど、一応訊いておくわよ。シヅキに『
『虚ノ黎明』……その言葉を聞いたトウカの表情は分かりやすいほどに変化した。
「まさか……」
「い、言ってません! 不意にソヨさんがその名前を出すから……驚いちゃって」
「そういうことね。 ……表情に出すぎね。トウカちゃんは」
「うう……」
顔を引き攣らせるトウカ。それを見たソヨは、頬杖をつき、鼻で笑って見せた。
「まさか、中央からやってきたホロウからその名前が出るとは思わなかったわ。 ……ボロにしては出し過ぎね」
「……ありがとう、ございます」
露骨に嫌味を言ったつもりなのに、そんなお礼が返ってきたのだから、ソヨは眉を潜めざるを得なかった。
「何でお礼を言うのよ」
「だって、色々と秘匿にしてくれているので。 ……きっと、通告されていたら私はもう」
「……様子見してるだけよ。現に、シヅキを監視役にしているでしょ」
「まぁ、そうですね」
肯定しながらもその頬に笑みを浮かべるトウカ。ソヨは肩を竦めた。
「ほんと、変な子ね……まぁいいわ。今はシヅキとのことをどうするか、ね」
「そう、ですね……」
「あー……急にテンション下がらないでほしいわ。やり辛いのよ」
「ご、ごめん――」
「いい、いい! いいから謝罪は。とにかく、これからのトウカちゃんの対応だけど」
「は、はい」
ソヨはスッと息を吸い、言った。
「いつも通り、ね」
「……え?」
ただでさえまん丸の眼を、さらに丸くするトウカ。その半開きの口を見て、ソヨはフフと笑った。
「なんだかんだで、シヅキも気にしている部分があると思う。ずっと怒ってばかりなんてなんて居られないもの。だから、トウカちゃんに出来ることはいつも通り接することね。変に謝罪したりすると、きっとムキになるよシヅキは」
「いつも、通りですか……」
「あー、もちろん喧嘩のことを掘り返したりなんてしないようにね」
トウカは返事することなく小さく頷いた。
「いつも通りって……でも、どうすれば」
「口癖でも連発すればいいんじゃない? 『うひぇ』みたいな」
「わ、私! そんなこと言ってませんよ!」
「そう? わたしの中でトウカちゃんは結構
「へ、変キャラ……」
ははは…‥と空笑いをするトウカ。コロコロと変わる表情……それこそがトウカのいつも通りだと、ソヨはあえて言わなかった。
「……まぁ、あと数日もすれば元通りになるって。 ……そうだ。仲直りしたら今度の休みにでも2体で港町にでも行ってきたら?」
「に、任務ですか?」
「休み、って言ったでしょ。買い物して、何か甘いものでも食べてきたらどう? シヅキ、意外と好きだから。甘いものね」
「なる、ほど……」
自身の顎元に手を当てて、考える素振りをするトウカ。 ……素振りというか、実際に考えているとは思うが。
(良い傾向、かな。何とか
満足げに前髪の先端を
――まさかその翌日。どうしようもないほどの絶望を見ることになるとは、この時のソヨは思いもしなかった。
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