第27話 変な子
目の前に並ぶ2体を交互に見やった後、茶色の癖っ毛が印象的なホロウは露骨に怪訝な表情を浮かべた。
「……あなたたち、何があったのほんと」
サポートが主な役回りの雑務型……その1体であるソヨは、心底呆れた声で訊いた。
「シヅキとトウカさん……2体がチームを結成してから数日が過ぎて、そろそろ慣れだしたかなー? なんて思っていたけど。蓋を開けてみたら、あらあらまあまあ」
「……チッ」
「あー! 今シヅキ舌打ちしたよね? いいのかなー? ソヨさんにそんな態度とっちゃって」
「うっせーよ黙れ。虫酸が走んだよ!」
ドスの効いたシヅキの声はオドのロビー中に響き渡る。2Fの連絡通路から数体のホロウが覗き込んだ。
「……クソがよ」
吐き捨てるように言ったシヅキ。彼が頭上を睨み付けると、すぐに野次馬たちは顔を引っ込めた。
「シヅキねぇ、もうちょっと低圧的な態度にしてくれない?」
「あ? 低圧?」
「高圧的の対義語。雑務型の中で流行ってるのよ。嘘だけど」
「……今日の任務はこなしてんだ。俺はもう帰んぞ」
「ちょっと、シヅキさぁ」
「……付き合ってやる義理はねーんだよ」
漆黒のフードを目深にかぶったシヅキ。睨むようにしてソヨを見た後に、そそくさとロビー奥へと消えていってしまった。
「あー……もう」
額に手を当てて、首を横に振るソヨ。シヅキを呼び止めることも諦めてしまったようだった。
「……ごめんなさい」
そんなソヨを見て、小さな声で謝罪するホロウが1体。両手にギュッと握られた錫杖は小刻みに震えていた。
「初めにオドを訪れたときは、あなたたち……相性は悪くないかなって思ったんですけどね」
「あまり、良くなかったみたいで……」
「今のシヅキはちょっと会話出来ないみたいで。厄介なんですよ。あそこまで怒ってしまうと」
そう言いながら、シヅキが消えていったロビー奥を一瞥したソヨ。視線を戻した先にあったトウカの表情は、今にも泣き出してしまいそうだった。
「私の、せいで」
「トウカさん……」
すっかりと、どんよりしてしまった雰囲気。ソヨは自身の頬をポリポリと掻いた。
(どうしたものかなぁ)
心の中で呟いたソヨ。こればかりは2体の問題であろう。雑務型という役職は、他の型のサポートはすれど、個人間の友好関係にまでは踏み込まない。
トウカから提出される魔素は、他のホロウと比べて別段少なすぎる訳ではなかった。魔人を浄化して、魔素を回収する……そんなやるべきことはやっているわけだ。任務の遂行に支障は出ていない訳だから、ソヨとしては、2体の問題に我関せずの態度を取ってしまっても問題ないわけだが。
「……」
改めてトウカを見た。白銀の髪が少しだけ掛かった琥珀色の瞳は、ひたすらに足元を見つめている。 ……というよりは前を見られないのかもしれない。本当にシヅキとのことについて落ち込んでいるのだろう。
(いい子なんだろうなぁ)
それは、数回会話を交わした程度のソヨにでも分かることだった。そこに関しては演技でも何でもない、性格なんだろうなと。
――だからこそ、企みを抱きオドへとやって来た彼女の動機が気になるのだが。
ソヨは、トウカが溢してしまった“あの言葉”を思い出しながらそう思わざるを得なかった。
「ハァ」
どこかの誰かのように溜息を一つ吐いたソヨ。兎にも角にも、対話しなければ分かるものも分からないだろう。
「……変な子が入ってきたなぁ」
「え」
「あ、やば。口に出てた」
ソヨは口元にサッと手を当てたが、当然それは意味のある行為ではない。ソヨを見上げるトウカの表情は訝しげだ。
そんなトウカを見て、ソヨは明るい口調でこう提案した。
「トウカさん、少しだけお話しましょうか」
「お、お話ですか?」
「ええ。 ……ですが、雑務型は個人間の問題まで踏み込むことはできません。プライバシーと呼ばれるもののせいで、です。なのでここは業務をサボろうかと思います」
「え……?」
呆気にとられたようで口を半開きにしたトウカ。それをを気にすることもなく、ソヨはトウカの手を強引にとった。そしてニッと笑う。
「ガールズトークでもしようか! トウカちゃん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます