第49話 愛し合った記憶を思い出そう

陸翔の提案を聞かされた翌日、晴夏は真琴とこれについて相談した。


「ハルの気持ちはどう?」

「もちろん、仕事としてはありがたい話ですよ。でも…」

「でも?」

「陸翔とまた関わるのは嫌…」

「嫌じゃなくて、怖がっているでしょう?」

「それは…」

「さっきから聞いた話では、ハルはまだ陸翔に気持ちがあるってもうバレてるよ。今は多分残り火の程度かもしれないけど、もう一度彼と一緒に時間を過ごしたら、その気持ちはまた強くなることを怖がっているでしょう?」

「そうだよ。ようやく彼と別れたのに…」

「もしこの仕事を引き受けたら、彼から逃げる自信がないんだ」


まさにそうだ。特に昨日の再会で、晴夏は陸翔のことをまた意識し始めて、そして自分の気持ちを認めなければいけないと思った。だけど、また同じ過ちが繰り返したら、せっかくここまでの努力は台無しになる。


「ハルはさあ、素直になったらいいじゃん。仕事面では、このチャンスは二度と来ないかもしれないよ。だから、引き受けてみたら?陸翔の件は、自然に任せればいいよ。抵抗しても無駄の時だってあるから」

「そううまく切り分けたらいいだけど…言うのは簡単だけど」

「でも、もし陸翔とまた一緒になったら、それでもいいじゃない」

「じゃ、逆に聞くけど、マコはどう?」

「何でいきなり私の話になるの?」

「慎也さんからもしもう一度一緒に…」

「再婚は絶対あり得ないから」

「付き合いだけでも?」

「11年も結婚しただから、もうあの人と…」

「最近、慎也さんはよくここへ来るね。仕事は忙しくないのかね?」

「未希に会いに来るためでしょう、それに私は彼の仕事のことを聞いてないし」

「マコみたいに揺るがない決心があれば、楽でしょうね」


そう聞いた真琴は苦い笑いしかできなかった。慎也は確かに前と比べて、よく真琴と未希に会いにくれたけど、これってただ未希のためなのか、真琴は時々混乱していた。今年に入っていつも3人で会ったけど、未希は中学生になってから、すぐ友達が出来て、時々友達と会いに行くことを優先し、真琴と慎也を二人きりにさせた。もちろん、未希は以前より活発になり、そして新しい学校で友達ができることは、親としてはうれしく思った。それと同時に、娘の巣離れがもうすぐ来ることが見えて、二人はちょっと寂しく感じていた。


慎也と二人きりで過ごすことは真琴にとって居心地いいとは言い難い。最初は二人の話題は未希と関連することがメインだけど、次第にお互いのことを聞くようになった。慎也は以前より真琴のことに興味を持っているようで、仕事の話から段々プライベートのことまで聞くようになった。二人きりの会話は久しぶり過ぎて、真琴にとってこれはかなり新鮮な体験だった。


結婚前でも結婚後でも、真琴と慎也は会話をする時、話題はいつも慎也のことばかりで、彼はあまり積極的に真琴のことを知ろうとしなかった。今になって、真琴は初めて感じたのは、慎也は人の話をうまく聞けるタイプで、そしていつもいいアドバイスをしてくれることだ。しかし、二人の話が深く進めるうちに、真琴は慎也に対する敵意も段々弱くなっていった。このままだと、晴夏と陸翔みたいのシチュエーションになったらやばいと真琴はそう思った。



晴夏は散々悩んだ末、5月の中旬に陸翔と連絡して、映画化のオファーを正式に受けた。映画化の同時に単行本の出版もしなければならないので、晴夏は両方の作業を同時に進めることになった。そして、慎也さんの法律事務所で契約した日に、晴夏はもう一つの事実を初めて知りすごく驚きました。


今回の映画化は陸翔は主演俳優だけではなく、出資者の一人でもあった。いったいなぜここまでして、自分の小説を映画にしたいのか、晴夏はどう聞こうとしても、陸翔は理由をはっきりしなかった。


陸翔は晴夏に言えない理由がちゃんとあった。


静岡での再会後、陸翔は確信したのは、晴夏も自分と同じ思いで、まだお互いのことを愛していた。だけど、今の晴夏は絶対に自分と復縁なんかしたくないはず。それで、この映画化の話は二つの意味があった。まず、晴夏と一緒に初めての共同作業をして、そして二人の作品を世に送ることだ。


最も重要なのは、晴夏のストーリーを演じているうちに、二人が昔愛し合っていたころの記憶を彼女に思い出させたかった。


もちろん、この作戦は成功できるかどうかはまだ分からない。それでも、陸翔は自分の金で出資しても、この映画を実現したかった。そして、一緒に仕事をしている時、晴夏に自分の生まれ変わった姿を彼女に見せたかった。


契約してから、晴夏はずっと静岡で準備作業をしていた。秋までの3か月では、台本の仕上げと単行本のことをまとめてしなければいけなかった。そして、来年の冬ごろからクランクインする予定だ。店のことはマコや従業員たちに任せられるので、晴夏はこの映画の仕事に集中することができた。


この期間中、陸翔は何度も静岡へ足を運んだ。いつも事前連絡がなく、閉店時間に晴夏の店にふらっと訪問し、勝手に料理の注文していた。呆れた晴夏は文句を言いながらも、彼のためにいろんなものを作った。陸翔は晴夏の手料理を楽しんだ後、二人は台本について話し合っていた。そうしているうちに、二人はまるで大学時代に戻り、演劇部の公演を準備していた時のことを思い出した。あの時の二人は意見が合わないといつも大喧嘩になったが、今の二人はもうそういうことはしなかった。二人は暗黙の了解があったように、一緒にいられる時間は限られたので、その残り僅かの貴重な時間を喧嘩で無駄したくなかった。


そして、クランクインの前に、予想外のことが起きてしまった。

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