セルフ甘やかし
シヨゥ
第1話
「何をやってもダメな時はダメだ」
失敗続きだと愚痴ると親父はそんなことを言う。
「そんな時はどうしているんだ?」
「スパっと諦めて別なことをする。しがみ付いて失敗を繰り返すと心に来るからな。終いには何をやってもダメなんだ。なんて思うようになってくる。そうしたらその作業以外にも影響が出てくる。時期が悪い。相性が悪い。そう割り切ってしばらくの間は手を付けないことにしているな」
「なるほど。でも、どうしても今やらなきゃならない。そんな時はどうしているんだ?」
「100点満点の基準を下げる」
「基準を下げる?」
「そう。例えばだ。完璧にこなせた時が100点満点とする。でもどうしても今日は30点ぐらいしか出せない。そんな時に今日は60点が満点だと設定する。するとどうだ。30点でも100点満点で言ったら50点をたたき出しているのと同じになるんだ」
「それは自分を甘やかしているに過ぎないんじゃ」
「自分なんて甘やかしてなんぼだぞ」
親父は平然と言い放つ。
「社会人になったら甘やかしてくれる人なんてそういう商売の人だけだ。金払ってまで甘やかしてもらうのも馬鹿臭いだろ? なら自分で自分を甘やかせ。それで心が落ち着くなら安いもんだ」
価値観が壊れていくようなそんな感覚。
「親父も?」
「そうだ。遅刻した時なんて、無事出社出来た俺偉い、なんて思って自分をほめたもんだ」
思い描いていた社会人らしさとは何だったのだろうか。
「社会に出てからが人生の本番だ。普通に生きたら死ぬまでがクソ長い。そんなクソ長い時間を社会に責められて生きるような感覚を味わい続けるんだ。そんな辛い人生ちょっとは力を抜いていたいだろ。その一歩目が自分を甘やかすだ。覚えとけ」
「分かったよ。なんだかスッキリした」
「良かったな。そしたら歯磨いてさっさと寝ろ。寝ることでよりスッキリするぞ」
「そうするよ」
うだうだ考えていたことが馬鹿臭い。寝たらもっといい考えも浮かぶかもしれない。まずは夢の中へ逃げる。そこから自分に甘え始めようと思う。
セルフ甘やかし シヨゥ @Shiyoxu
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