第18話 食料の運送依頼を完了

 冒険者ギルドに食料を届けているところだ。


「こ、この記載されている量をですかっ!? まさかそんな……」


「信じないのなら、別に構わない。この食料は持って帰って適切に処分しよう」


 俺は彼女に背を向け、冒険者ギルドの出口に向かう。


「ちょ、ちょっと待ってください! 信じます! 信じますので、ここに出してください!」


 慌てて止めてくる受付嬢。


「わかったわかった」


 俺は言われた通り、食料を出していった。

 カウンターの上に、食べ物の山ができる。

 今にも崩れそうだ。


「こ、こんなにもたくさん……!?」


 驚愕する受付嬢。

 彼女は恐る恐るという様子で食料に手を伸ばす。

 俺はガシッとその手をつかむ。


「ひゃあっ!」


 可愛らしい悲鳴を上げる受付嬢。


「何をするんですか!」


「いや、手つきが怪しかったからな。盗み食いはよくないぞ」


「違いますぅ~。これは、ちゃんとした仕事ですぅ~」


「ほう。仕事をしている人間が、どうしてよだれを垂らしながら食料に手を伸ばす?」


 ハッとした表情で、受付嬢が口元を拭う。


「それは……」


 言い淀んでしまう受付嬢。


「やっぱり怪しいな」


「し、仕方ないじゃないですか。ここ最近、食べるものが非常に不足しているのです」


「結局はそれが問題なのだな。それで、食料不足の原因は何なんだ?」


 スラム街のグリズリー。

 先ほどのCランク冒険者ガンツ。

 そして、盗み食いをしかけた受付嬢。

 根は悪い奴らではないのかもしれないが、空腹により善悪の判断基準が狂ってしまっている感じか。


「その原因というのは……」


 受付嬢が語り始めた。

 どうやらこの港町の近海に、巨大なサメが住み着いてしまったらしい。

 その影響で、漁船を出せなくなり、輸送船も来れなくなってしまったという。


「ふーん。でも、陸路で食料を運べるだろ? 今回俺がそうしたみたいに」


「この港町は、陸路は非常に限られているのです。カエデさんが来た方向も、まっすぐ進もうとすると深い谷があったでしょう? かなり迂回する必要がありますし、強力な魔物もたくさん生息しています」


 確かに大きな谷があったな。

 ユーリの飛行魔法により、無事に飛び越えることができたが……。

 普通なら、迂回する必要があったところだ。


「なら、他の方向で別の町に……」


「多方面も似たような事情で、行き来は楽ではありません。そのため、この街への食料の輸送依頼には、多額の費用が発生します。それでも餓死するよりはマシですので、各方面に依頼は出しておりますが……」


「なるほど。そのうちの1つを俺が受注したわけだな」


「はい……。本当に助かりました。この食料があれば、街の人々もきっと喜ぶことでしょう」


 深々と頭を下げる受付嬢。


「気にすることはないさ。それよりも、その巨大ザメとやらは、放置しておいていいのか?」


「そうですね……。ギルドとしては討伐してほしいところですが、ムリでしょう。今のこの町に高ランク冒険者は不在です」


「それなら、食料輸送依頼だけじゃなくて討伐依頼を出せばいいじゃないか。根本要因を解決しないと、ジリ貧だろう」


「そんなことはわかっています。しかし、海中の巨大ザメを倒せる者など非常に限られているのです。高ランク冒険者の中でも、特殊な技能を持った者を探す必要があります」


「ふむ。それはそうか」


 海中もしくは海上での戦闘を想定して鍛えている冒険者など、稀だろうな。


「なので、しばらくはこのままで……」


「わかった。ならば、俺が倒してくるよ」


「えっ!?」


 驚く受付嬢。


「そんな、不可能ですよ。カエデさんのランクはDでしょう!? アイテムボックスの容量の多さには驚きましたが……」


「俺の実力はさっき見ただろう? ガンツとかいうCランク冒険者など相手にもならない、俺の実力がな」


「そ、それもそうですね。確かに、ガンツよりもずっと強い。でも、無理なものは無理なんです! 海上で巨大サメに挑むなんて!」


「大丈夫だよ。無理なら諦めるさ。まあ、期待せず待っていてくれ」


 俺は受付嬢に軽く手を振り、外へ出た。

 あの食料があれば、当面の食料問題は解決するだろう。

 だが、できれば根本原因を解決しておきたいと思う。

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