第3話 世界樹の精霊ユーリ

 俺は道を進んでいく。

 しばらくすると、脇に逸れた方向に森が見えた。


「フィレントにはこのまま真っ直ぐ歩けば着くだろうけど……。あの森からは不思議な魅力を感じる」


 何とも言えない感覚だ。


「とりあえず、あの森の中に入ってみるか」


 俺は森へと足を踏み入れる。

 森の中に入った途端、空気が変わった。

 なんというか、魔力(?)みたいなものが渦巻いているような感じだ。

 奥へ奥へと進んでいく。


「これは、すごいな……」


 思わず声に出てしまう。

 森の木々は巨大で、見たこともないほど太い幹をしている。

 しかも、葉っぱも大きい。

 そして、その葉は色とりどりに輝いていた。


「まるで、宝石みたいだ」


 俺は興味本位でその葉の一枚に手を伸ばす。


「えっ!?」


 一瞬でその葉が消えてしまった。

 それと同時に、頭の中に声が流れ込んでくる。


(我に触れようとするとは無礼者め!)


「誰だ!?」


(我は、世界樹の精霊! この森を司る大いなる存在よ!)


「……………………」


 俺は絶句してしまった。

 脳内に直接響く不思議な女性の声。

 それは、明らかにおかしな現象だった。


「どういうことだ?」


 俺は混乱してしまう。

 それにしても、彼女はこの森の神様的なポジションにいるらしいな。

 女神よりは少し格が落ちるかもしれないが……。

 この世界に直接関与できるという点では、女神よりも影響力は大きいだろう。


(むむっ! 妙な格好をしている小娘よ。そなた、魔力がやたらと多いな?)


「え? ああ、この装備の影響かな……?」


 女神の話では、身体能力や魔力が向上するらしい。


(気に入った! 我に名を与えることを許そう! )


「え? 名前?」


(左様! それが汝との契約となる!)


 契約?

 よくわからんが、せっかくだし試してみるか。

 どうせ、この世界で生きていくしかないんだ。

 なるようになるだろう。


「よし、決めた。お前の名前は……、ユーリだ!」


 女の子の名前っぽい響きにしてみた。

 それと同時に、雄大な自然っぽさも感じる。

 『ユーリ』という名前に反応して、また声が聞こえてくる。


(おおっ! すばらしい名前だ! 今こそ我の真なる姿を見せよう!)


 ふと、俺の体から何かが吸われている感覚があった。

 そして……

 ポンッ!

 俺の目の前に、全裸の少女が現れた。

 緑色の髪をした美少女だ。


「いい名と魔力に礼を言うぞ。ええと、お主は……」


「ああ。俺の名はカエデだ。それよりも、体を隠せ!」


「む? 人族には異性に体を隠す風習があることは知っておるが……。同性同士じゃし、その必要もあるまい?」


「いや、俺は男だ!」


「どう見ても女にしか見えぬが……。どれ」


 ユーリがそう言って、俺に近づいてくる。

 彼女の手が俺に伸びる。


「ちょっ、やめろって」


「やはり、胸は小さいのう」


「う、うるさいな」


 俺はつい言い返してしまう。

 元は男なので、自分の胸のサイズなどどうでもいいはずなのだが……。


「まあよい。それで、カエデよ」


「なんだ?」


「実は、最近困ったことが起きていてな」


「へえ、どんなことだよ」


「この森にゴブリンが住み着きよってな。我は自然の摂理には基本的に手を出さぬのじゃが……。あまりにも好き勝手するのでな。このままでは、森全体がダメになってしまいかねん」


「それは大変そうだな」


「そこで、お主に頼みがある。この森のゴブリンを退治して欲しいのじゃ」


「はあ!?」


 俺はつい大きな声を上げてしまった。


「なに、難しく考えることはない。ただ、そこら中にいる雑魚を蹴散らすだけで良いのだ」


「ちょっと待ってくれないか。心配な点がある」


「なんじゃ? ゴブリンなど、お主の魔力を以ってすれば大したことはあるまい」


「いや、俺はこの世界の人間じゃないんだ。つまり、俺は異世界人だ」


 この世界のことをほとんど何も知らない。

 言われるがままにあれこれ暴れるのはマズい可能性がある。


「だから?」


「えっ!?」


「異世界人の存在は知っておる。だが、我にとっては何の関係もない」


「どうして?」


「我は、世界樹の精霊。森を愛している」


「…………」


「我の役割は森の保護。お主が異世界人だろうと、我がすべきことに影響はないのじゃ」


 俺は言葉が出なかった。

 彼女にとっては、異世界人の出現よりも森の安寧の方が大切なようだ。

 彼女は俺が想像していたよりも遥かに深く森を愛している。

 それは理解できた。


「わかった。俺も協力するよ。せっかくこの世界に来たんだ。俺も何かしたい」


「おお、そうか! それは助かる! 期待しておるのじゃ!」


「ああ。任せておけ」


 こうして、俺は不思議な少女ユーリとゴブリン退治に向かうことになった。


「ところで、なんでずっと裸のままなんだ?」


「服を着ると動きにくいからの」


「それだと風邪ひかないか?」


 今は極端に寒いわけではないが、さすがに全裸だとそれなりに冷えるはず。


「このくらい平気じゃ!」


「そうなのか……」


 ユーリは寒さに強いらしい。

 全裸のまま、歩みを進めていく。


 ちなみに、俺は猫の着ぐるみを装備している。

 女神いわく、最強の装備らしいからな。

 うかつに脱げない。


 それに、身体能力と魔力(?)が向上している実感もある。

 これなら、おそらくゴブリンとやらも倒せるだろう。

 俺の異世界無双の幕開けだ!!!

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