第2話 最強の猫耳装備
視界が白い空間から切り替わった。
俺の目の前には、草原が広がっている。
ここが異世界か。
「とにかく、これからのことを考えることにしよう」
ん?
今の高い声はだれだ?
「近くに人がいるのか?」
俺はそうつぶやく。
まただ。
また高めの声が聞こえた。
「……って、これは俺の声じゃねえか!!」
おかしい。
俺は男だ。
声変わりもとっくに終えており、もっと低い声だったはずだ。
「異世界に来た影響で、声質まで変わっちまったのか? まるで女子みたいな声だぜ」
にわかには信じがたいが、現実としてこうなっているので信じざるを得ない。
アニメで聞いたことがあるような可愛らしい声だ。
自分の声帯でこんな高い声が出せてしまうことに、違和感バリバリだ。
「まあ、気にしてもしかたがない。まずは、この世界のことを知っていこう」
俺はそうつぶやき、歩き出す。
しばらく歩くと、街道らしきところにたどり着いた。
「ここが街道か。馬車が通ってこないかな?」
そう思った矢先、ちょうどよく荷車を引いた馬が通りかかった。
「すみませーん。この辺りで街へ行くにはどちらへ行けばよいのでしょうか?」
俺は馬に乗っている男性に話しかける。
「おお? お嬢ちゃんが1人で、こんなところで何をしているんだ?」
「実は俺、この街道を歩いていたんですけど迷ってしまいまして……」
「おお、そうだったのか。それは大変だっただろう」
「ええ。それで、最寄りの街はどこにあるのか教えていただきたいのですが……」
「そうだな……。ここからなら、北にあるフィレントの街の方が近いぞ」
「わかりました! ありがとうございます!」
普通に教えてくれた。
親切な人だ。
彼と別れ、言われた方角へ向かい始める。
「あれ?」
おかしい。
足に違和感ある。
「疲れてきたな。まだ大して歩いていないのに……」
もしかして、この世界は重力がきつめなのか?
もしくは、俺の筋力が落ちている?
何だか声も高いし、転移したときに変な力が作用したのかもしれない。
俺がそんなことを考えていたとき……
ピコン!
目の前に、突然画面が開いた。
ゲームのステータス画面のような感じだ。
『女神です。重要な連絡事項あり』
そういう表題のメール(?)が届いていた。
画面を操作し、そのメールを開く。
『申し訳ありません。こちらの手違いで、転移時に少女の体に変質してしまったようです。テヘッ』
「おいこらっ!!」
つい、突っ込んでしまった。
「どういうことだ!?」
俺はメールの続きを読み進める。
『私がミスをしてしまい、楓さんの性別を間違えてしまいました。なので、異世界では女の子として生きてもらうことになります』
「ふざけんなよ! なんで、いきなり男から女になるんだよ!? そんなこと、普通できないだろ!」
『女神の力ならできるのです』
まるで俺の思考を先読みしていたかのように的確なメール文面だ。
「そんな力があるなら、元に戻す方法を考えろよっ!」
『…………』
メールに続きはない。
「くそったれぇ~」
俺は天に向かって叫んだ。
俺は自分の体を確認する。
着ているのはいつも来ているTシャツとジーパンだ。
「良かった。服まで女物になっていたら、どうしようかと思ったぜ」
ほっと胸を撫で下ろす。
体が少女に変わってしまったのは受け入れがたい。
この上服装がスカートだったりしたら、精神に多大なダメージを受けるところだった。
まあ、体の変化に比べれば服装なんて些末な問題だけどな……。
「はぁ……、これから先、どうしたらいいんだ?」
さっきから、ため息ばかりついている気がする。
ピコン!
またメールが届いた。
女神からだ。
『せめてものお詫びとして、最強のチート装備を送ります。本当は肉体自体を強化できればよかったのですが、そちらに存在する生命や物体への直接的な干渉はできませんので』
「おおっ! こういうのを求めていたんだよ!」
俺はさっそく、メールに添付されていたデータを解凍する。
ポンッ!
俺の目の前に、装備が具現化された。
「……って、何だこれ?」
猫だ。
猫の着ぐるみだ。
猫耳付きのフードに、モコモコしたボディ。
さらに、肉球付きの手袋と足袋まである。
『これが今のカエデさんにとってもっとも役立つ装備だと思います。見た目はアレですが、攻守に秀でています。さらにサポート機能まで幅広くカバーしていますので』
「こんなの武器でも防具でもないじゃないか!」
俺はそう突っ込みつつも、一応着てみることにする。
まずは、猫の着ぐるみを着て、さらに手袋と足袋を装着した。
「うわー、やっぱり恥ずかしいな」
鏡がないので確認できないが、こんな屋外で猫の着ぐるみを着ていると変人にしか見えないだろう。
百歩譲って、日本の秋葉原や日本橋ならギリギリセーフかもしれない。
もしくは、自宅や友人宅でパジャマとして着るのもなくはない。
しかしここは異世界で、しかも街道だ。
通行人に見られたら、変人扱い間違いなしである。
脱ぎたいところだが、最強の装備らしいし使わないわけにもいかないだろう。
せめて、俺の顔が美少女なことを祈る。
多少変人でも、顔が良ければ全てが許されるのだ。
俺の声と体つきが少女化しているのは自覚したが、顔はどんな感じなのだろう?
「うーん、なんか変な気分だな」
『それでは、その装備を着たまま街に向かいましょう。相当に強力な装備ですので、一度そこらの魔物と戦闘しておくといいですよ。では、ご健闘をお祈りしていますね』
女神からのメールはそこで終わった。
まだまだ聞きたいことがあるのだが、頭の中で問いかけても返信はない。
このメール自体にも、返信機能はないようだ。
「とにかく、街に向かうとするかな」
俺は街道に沿って歩き出す。
前途多難な幕開けだったが、いったいどうなることやら……。
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