第4話 名前を決めてみた
ボク――――いや、わたしが生まれてから3日がたった。
朝も夜もないこの霧に閉ざされた世界で1日というのも厳密なものではないが、3回長く眠ったから3日だ。
3日間何をやっていたかといえば、精霊の女の子とと天使の女性と遊んでいた。
さすがにかくれんぼをこんな広大な世界でやったら待ちぼうけしてさみしくなってしまうので、主に追いかけっこだ。
どうも魔法とは魔素に命令を与えることで引き起こす現象であるようで、別にスキルがなくともいろいろなことが出来る様だ。
例えば追い風を起こして走る速度を上げる。例えば土を隆起させてツルツルの滑り台を作る。
さらには体の周囲を魔素で満たして命令すると、自在に空を飛べたりする。
ついでに言うと、魔素さえ吸収していれば、寝食の必要さえないようだ。
そんな魔法――――ひいては魔素の扱い方を、わたしは遊びながら学んでいった。
そして、この3日間での変化はもう一つある。
「ねえねえ、それは何してるの?」
白銀の髪に蒼銀の目を持つ精霊の少女が話しかけてくる。
そう、彼女たちは実は日本語が話せたのだ。
その知識はわたしに由来しているようで、たとえば英語はカタコトもいいところ。スワヒリ語なんて論外であった。
なんでも思念でやり取りできるなら会話はいらないと考えていたらしい。
もっとも、思念のみではいろいろ不都合が出てくるだろうと考え、彼女たちには会話で意思疎通をとるようお願いしている。
「これは、わたしのステータス」
言いながらステータス画面を見せてあげる。
ちなみに言葉でやり取りすると決めた時から、わたしは口調をやや改めた。
以前ゲームでロールプレイしたことのある、クーデレ魔法使いの女の子をイメージしたものにしてみた。
というのも、ステータス画面で見る限りでは、今の自分はややきつめの目つきをした美人さんだ。
しかも結構背丈もある。あと胸もそれなりにはでかい。
さすがにこの女の子の姿でボクっ子はないだろう。
のじゃのじゃ言ってババアムーブするのと迷ったが、やはりミステリアスなこっちのほうがいい。
「ここはなに?」
そう言って精霊の女の子はこちらの腕を抱き込みながら聞いてくる。
ひたすらに柔らかい幸せな感覚が腕に伝わってくる。彼女のそれはわたしよりさらに大きい。
この体になって性欲というものはまだ感じていないが、そのことを感謝せざるを得ない。
でなければわたしはとっくに彼女を襲っていたに違いない。
そんなことを考えながら、彼女が指した部分――名前について考える。
「そこはわたしの名前が入る場所」
そう、未だステータスの名前は空欄だった。
以前の
だが、これだと思い浮かぶ名前もなく今に至っている。
それでも困らなかったのは、なんとなく誰に話しかけているのか伝わるからと、ほかの二人も名前が無かったからだろう。
「決めるの?」
「そう」
まあ、いい機会だろう。そろそろきちんと考えたほうがいいとは思っていたのだから。
「月をベースにした名前がいい」
「月、ですか?」
わたしの呟きに、精霊の少女とは反対側から声が返ってくる。
そこにいるのは黒髪黒目の天使の少女。今のわたしより少し年上っぽい雰囲気で、背丈もわたしより少し高い。
ちなみにとある部位については、ほどほどの良い大きさとだけ言っておこう。
「吸血鬼といえば月」
「いえ、言ってることは分かるんですけど」
「月なんてないもんねー」
少女たちにはわたしの知識が共有されているから、当然月については知っている。
だがこの世界には月がない。実際に目にしたことがない物だから、彼女たちにはいまいちイメージがしづらいようだ。
「ムーン、ルーナ、ユエ、セレーネ……」
月の外国語名を呟いてみるが、やっぱりしっくりこない。
まあ意識は日本人のままなのだし、外国人の名前がしっくりくるほうがおかしいか。
「使っているうちになれるのではないですか?」
「そーそー」
「じゃあ、ルーナで」
そうつぶやいた途端、ステータス画面の名前欄にルーナと記載が加わった。
「ルーナ、ルーナ、ルナ―」
そう口ずさみながら、精霊の少女が抱き着いてくる。
「なあに?」
「わたしも名前、ちょうだい?」
キラキラと期待に目を輝かせて彼女は言う。
「あら、でしたら私にも」
天使の少女も反対側から抱きしめられる。
両側から美少女に抱きしめられて、幸せな気分になれどもドキドキはしないことに、変わってしまったことを実感する。
「じゃあ、あなたはソル」
太陽をイメージした名前を、天真爛漫な精霊の少女に贈る。
「あなたはステラ」
天使の少女には、星をイメージした名前を贈る。
「あなたはソフィア」
そして世界樹に、知恵を意味する名前を贈った。
「ソル、ソル、ソル」
「ステラ……」
感じ入るように、二人の少女――――ソルとステラはそっと目をつむり、抱きしめる力を強める。
同時に暖かな思念――――ソフィアからの感謝の想いが体を包んだ。
「ソル」
「ルーナ」
「ステラ」
「はい、ルーナ」
「ソフィア」
(――――)
二人の背中にそっと手を回し、世界樹へと笑顔を向ける。
そして暖かな感謝の想いを込めて言葉を紡いだ。
「これからも、よろしく」
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