第2話 キャラクリエイト
目の前に開かれた青いウインドウ。
そこにはこう書かれていた。
『初期設定を開始しますか? Y/N』
――――ここはパソコンの中の世界なのかな?
ますますヴァーチャルめいた世界に愕然とするも、ようやく訪れた変化だ。逃す手はない。
――――イエス!
コンソールなんてないので念じてみると、あっさりと次の画面が表示される。
『世界軸を設定してください』
なんだそりゃ、と思いながら画面を進めてみる。
『岩』『樹』『塔』……
よくわからない候補が並んでいた。
試しに樹を選んでみると、まさに世界樹と言わんばかりの雄大で神秘的な巨大樹が表示される。
しかもこの樹、地面から浮いているのだ。
広がった根っこの先がすぼまるように集まり、申し訳程度に地面についている。
――――いいな、これ。
そう思った瞬間決定されてしまったようで、画面が次に行ってしまった。
『循環を司るものを設定してください』
――――循環?
疑問に思うもののヘルプシステムなんかは無いようで、画面に変化はみられない。
表示されるのはさっきのような単語の羅列。
なんとなくだが、初期設定とはこの真っ白な世界の設定のことだろうと当たりをつける。
ここで樹を選んだら植物だけの世界になるのかな、なんて考えつつも、候補をスクロールしながら眺めていく。
――――精霊?
ふと目についたその語句に惹かれる。世界を自然と捉えるなら、その循環役に精霊なんてまさにファンタジーだ。
早速選択してみると、今度はキャラクターエディット的な画面が開いた。
3Dで表示された素体は球体だが、その姿は球体以外にも人間のほか、動物や虫などからも選べるようだ。
――――姿は人間で、性別は女にしよう。美人というよりかわいい系がいいな。
実のところ顔つきだとか髪の長さだとか、細かい設定はできなかった。
胸の大きさなんか念じに念じてみたものの、ピクリとも動かせなかった。
仕方なく属性とか体の大きさなんかを設定していく。
――――背丈はやや小さめの中高生くらいで、属性は……こんなに選べるの!?
大きさはそれこそ親指姫をイメージするような小人から、10メートル級の巨人まで設定できるようだった。
さらに属性は火、水、みたいなメジャーなものから空間、時間なんてものまであり、しかも思いついた分だけ増えていっているようだった。
――――あんまり多すぎてもよくない。
なんとなく直感だが、ここは基本を大事にしたほうが良い気がする。
――――循環っていうぐらいだし、陰陽五行を基本にして火、水、土、風、木に光と闇でどうかな。
7属性も詰め込んで大丈夫なのかな、とも思ったが、司るっていうなら基本的な属性は全部持っておくべきだろう。
そうして出来上がった精霊は、透き通るような白銀の髪と蒼銀の瞳を持つ小柄な女の子として表示されていた。
そして人間との違いを示すかのように、虹色に光る4つの結晶を羽根のように背中に浮かべている。
――――うん、いいんじゃないか?
芸術のセンスがないと自覚している自分が設定したにしては、これ以上はないと断言できるだけの外見だ。
むしろ下手にいじらないほうがいいに決まっている。
決定と念じると、次の画面が開かれた。
『セキュリティを設定してください』
そして三度表示される単語の羅列。
世界の守護者って考えるとやっぱり――――
――――あった!
そう、単語をスクロールしていくうちに見つけたのは『天使』のワード。
――――やっぱり守護者っていうなら天使だよね!
そう、世界の危機に対して表に裏に働き、ラスボスの前にもうだめだ―、と一掃される……。
雑念が混じった。やられちゃだめだ。
ゲームに毒されすぎだな。いや、今やってるのもゲームのキャラクリエイトみたいなもんだけど。
むしろプレイヤーが20レベル前後の中で、100レベルくらいの絶対者として世界を守護するGM専用キャラをイメージして。
――――うん。完璧すぎる。
目の前のキャラクターエディット画面には、黒髪黒目の美人なお姉さんが4対の白い翼で浮かんでいた。
髪の色に関しては、7属性全部持たせたら黒くなってしまったのだ。
精霊の女の子とは逆になってしまったのはなぜだろう。光の配色と絵の具の配色の違いかな。
女性を選んで背丈のやや高めにしてお姉さんっぽくしたのは完全に趣味だ。
――――さて、次は、と。
決定を念じ、次の画面を表示させる。
『主体を設定してください』
そのメッセージの後にキャラクターエディット画面が開いた。
そこには、今までにはないほどの設定項目が表示されていた。
――――主体?
表示されたメッセージへの疑問投げかけようとするも、やはり返答はない。
まあ、字体からして自分の体なのだろうけど。
とりあえず画面に集中してみる。
まずは種別。四足動物や魚なんて選んでもまともに体が動かせそうにないので却下。
軟体生物、スライムなんかに心惹かれるものの、実際になりたいかといわれるとやはり却下するしかない。
アメーバ状の体なんて動かせるわけがないからだ。
というわけでヒト種を選んでみたのだが――――
――――あれ?
種族がかなり偏っている。
吸血鬼、サキュバス、鬼女、ライカンスロープ……
どう見てもモンスターのラインナップです。本当にありがとうございました。
しかもなぜか全部性別が女性固定。
なんとなくこれが自分の体になるんじゃないかと思って気合を入れていたのだが……。
――――しかも全部人間を食料とするものばかりだ。
知らないものがない、ということは自分のイメージから候補ができているのだろう。
しかしこのラインナップ、下手したらさっきまで自分で作っていた天使や精霊と敵対するのではないだろうか。
種族をいくらスクロールさせても物騒かつ不穏なラインナップは変わらない。
――――せめて性別が男性ならまだましなんだが。
女性の体に興味はあっても自分が女性になりたいわけではない。
自分が女体化して男と交わることを想像し、今は存在しない背筋がぞっとするような錯覚を覚える。
――――でも選ばなきゃ、なんだよなあ。
スキップできそうになければ、戻るボタンもない。
試しに吸血鬼を選んでみれば、さらに表示されるのはのっぺらぼうのマネキンのような素体。
――――外見も自分で細かく決めるの!?
正直自分の絵心はないに等しい。下手にいじくってバランスが崩れた化け物が生まれてもおかしくはない。
――――でもランダム設定とかも怖いよな。せめて『おまかせ』みたいな最適化ボタンがあれば――――
そう思った矢先、画面右下に『おまかせ』ボタンが表示される。
――――そうそう、こういうの。でもこういうの表示できるならまずヘルプが欲しかったかな。
愚痴りながら『おまかせ』ボタンを押す。
次の瞬間、モニターの電源が消えるように視界が闇に閉ざされた。
思えば、ここが大きな分岐点だったのだろう。
ボクは気にしておくべきだった。素体画面ではなくキャラクターエディットの右下、つまり『次へ』などが表示されるべき場所に『おまかせ』が表示されたことを。
吸血鬼という種族以外のキャラクターの全てが『おまかせ』となってしまったことを知るのは、これよりずっと先の話。
そして目を覚ました時、世界は一変していた。
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