ひとでなし
星埜銀杏
#01
もう少しだけ……、いいかな?
ああ、あと少しだけならばな。
これは彼女との別れが近づいた時の悲しい会話。
この後、彼女は死ぬのだ。俺の手にかかってな。
だが、俺は知っていた。こうなる事は最初から。
何故ならば俺が俺であり、彼女が彼女であるからこそ、そういった結末になるのは始めの始めから理解(わか)っていたんだ。もはや運命だとも言えるし、予定調和だったのだとさえも言える。さて、どこから話そうか。そうだな。始まりは……、
俺が、間抜けにも死んだ所からでいいだろうか。
どうやって死んだのかは、恥部を晒すようなものだから詳細だけは勘弁してくれ。
兎も角、
俺は死んだ。そして、そののち彼女と出会った。
確かに、死んだにも拘わらず。
いや、むしろ死んだからこそ彼女と出会ったとも言えるだろうか。
神という存在が、この世に在ると知り、その神が、俺と彼女を巡り合わせたのだ。
始めは、歓喜したよ。彼女が在る、この世界の存在を知ってだな。
自分という人間が強くなった気にもなったし、実際に強くなっていたからこそだ。
それは死を経験してメンタルが強くなったという意味も含め、あらゆる意味で俺は強さというものを、この時、初めて手にした。そして、運命は巡り巡って俺と彼女の出会いというものを実現する。彼女を初めて目にした時、強く、こう思ったよ。
嗚呼ッ、女の子だったんだ、キミは……、とな。
もちろん、嗚呼という表現を使った通り、……俺は後悔している。
こんな結果になるのならば初めから出会わなければ良かった、と。
そのまま素直に死んでいれば良かったと、だな。
兎に角、
彼女と出会ったあと、俺は、直ぐに、ためらわずに襲いかかった。
そうする事が正しいと思っていたし、彼女は、この世に在ってはならない存在だと聞かされていたからこそだ。無論、襲いかかるとは性的な意味でではない。ストレートに殺しにかかったという事。繰り返すが、殺す事が正義だと信じていたから。
当然だが、彼女とて俺に黙って殺される事を良しとはしなかった。
ゆえ、長い時間、俺たちは、死闘を繰り広げた。
それはもう、後世へと語り継がれる伝説になるとも言えるほどの戦いぶりだった。
それを、ここに詳しく記しても良いが、俺と彼女の物語を語る上で必要とは思えないから激しくも苦しい殺し合いだったとだけ。そして彼女との喧嘩とも言える死闘が終わった。二人とも精も根も尽き果て倒れ込む。そして彼女から、こう言われた。
あたし、友達がいなかったの。誰も。……一切。
そうか。
とだけ答えたよ。いや、そうとしか答えられなかったんだ。俺は。
なんだか、彼女が深い悲しみを抱えているような気がしたからだ。
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