夢日記
京
第1話 なのなのだ
ふわふわとしたパステルカラーの空間。見覚えのない景色のはずなのに不思議と心地よく、安らぎを感じていた。家具などはあったので、室内だったのだろうか。
夢の中にいたその子はもこもこした枕の上で寝そべりながら本を読んでいた。私はそれを眺めている。私も何か本を読んでいたところだったようだ。どんなタイトルだったかは忘れた。
その子は名前をなのと名乗った。気づいたら私はその子と話をしていたようだ。読んでいた本はいつの間にか消えていたが、それは夢の中ならよくあることなのだろうと妙に納得していた。夢の中だと私はいつしかこの世界のことを認識していた。
「名前に意味などないのだ、だから好きに読んで欲しいのだ」
そういうとなのはうつ伏せのまままた本を読み始めた。おかっぱの黒髪がページを捲るたびに揺れる。相当読書家らしい。
本が好きなのかいと聞くと、なのはぶっきらぼうに返す。会話には一応付き合ってくれるようだ。
「そうでもないのだ」
ここではこれしかやることがないのだ、と続けた。
しばらくそんな感じで話をしていたが、突然なのは本を読むのをやめた。パタンと読んでいた本を閉じ、そのまま枕に突っ伏して寝始める。
「恋はなんだろう」
私はふと心に思い浮かんだ疑問を口にした。こんな風に先程から気の赴くままに質問をしてはそれに答えてもらうといった会話とも呼べない質問と答えの応酬を続けていた。質問の中身は2と3ならどちらが綺麗だ、とか、朝と夜ならどちらがいいとか、特に意味のない物ばかりだった。それに対するなのの答えは、大半は忘れてしまっていた。
「恋は苦しみなのだ」
なのはそういうとうつ伏せの姿勢のまま枕から顔を上げて前を見た。私とは最後まで目が合わないまま。
「なのは恋をしたことがあるの?」
その質問には、なのは答えなかった。
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