第5話 背中にドーン!
翌日、出勤して早々に外回りに出た俺は、さっさとその日の分の仕事を終えて定時まで喫茶店で執筆。続刊するしないに関わらず、何かしら書いてないと何かあった時に対応できない。
それと新作のプロットも何本か作らないと。今のが終わってそこで作家終了なんて嫌だからな。
「おいコラそこの変態作家」
「誰のことだコラ」
「大きい胸は?」
「素晴らしい」
「ほらお前だよ」
「くそ、嵌められた」
そんなやりとりをしながら俺の目の前の椅子に腰をおろしたのは、高校からの友人で
「で、先輩と数年ぶりに連絡をとったら飯食う約束までするほどに距離を縮めた上に、金髪美少女絵師に飯奢ってもらったラブコメ主人公は俺を呼んで何の用だ? 自慢か? 自慢したいのか?」
「待て。その言い方は待て。事実だけども。事実なんだけどもその言い方はなんか嫌なんだが!? つーかお前はもう結婚してるだろうが!」
「はいはい。で、その金髪美少女はお持ち帰りしたのか?」
「するわけないだろう! あの子はそういう目で見ちゃいけない」
「キモイ」
「ひどいっ!」
なんてやつだ。ホントに。まぁ、昔からだけども。
「で、要件は?」
「実はだな? その先輩との飯なんだが、どこに行こうかと思ってさ」
「えー、適当に良い感じのとこ予約して飯食って適当に酒飲んでしっかり抱けばいいんじゃね?」
コラやめろ。
「おい、最後は適当じゃないんだな」
「当たり前だ。とまぁ、それは冗談。久しぶりに会ってそれじゃさすがにな。とりあえずお前と先輩は趣味が合うんだろ? アキバ辺りで探しておけば会話も止まることなく過ごせるんじゃねぇか?」
「それ採用」
「はえーなおい」
確かにそうだ。先輩と俺は趣味が合う。見てたアニメも結構一緒だったしな。昔先輩が好きだったキャラのグッズがありそうな所にでも行けば盛り上がりそうだ。
「ナイス隆平。一気に解決したわ」
「それは良かった。で、最新刊の方は売れ行きどうなんだ? 重版行けそうか?」
「それがなー、わからんのよ。担当さんから何も連絡来なくてな。一回聞いてみたけど、なんか今忙しいらしくてさ」
「ふーん。コミカライズでも決まったのかね?」
「それはないだろ。コミカライズしたいけども。めちゃくちゃしたいけども」
そう。コミカライズはマジで夢。そんなことになったら泣く。絶対泣く。
だけどなー。無理だろうなー。同期で続刊してる作家はほとんどコミカライズしてるけど俺だけしてないもんなー。結構売れてるとおもうんだけどなー。えちすぎるからかなー? ……ちくしょう!
「なら担当が変わるとか? その準備とか?」
「そんな悲しいこと言うなよぉ! あの担当さんのおかげでここまでこれたんだからさぁ!」
「あっはっは。まぁ、頑張ってくれ。俺は今から愛娘のお迎えに行かなきゃならんからそろそろ行くぞ」
「あぁ、あのお前の天使か。可愛いもんな」
「手を出したらお前でも潰すぞ」
「しねぇよ!」
隆平が店を出てからもしばらくパソコンとにらめっこ。はと時計を見ると三時半。
「少し早いけど戻るか」
そう決めると俺はすぐに店を出て会社に向かって歩き出す。本当は直帰でもいいんだけど、今日は少しまとめる書類あるしな。
そしてその帰り道。何故か今日は横断歩道に何度も足を止められ、そのことにため息をついていると背中に伝わる柔らかい衝撃。
「ドーン♪」
「んなっ!?」
「空園せんせ、こんにちわ」
「あ、繭梨せ……じゃなくてリア先生。あれ? どうしたんですか?」
後ろを振り返ると、そこには俺の背中にダイレクト可愛いアタックをしている繭梨先生の姿。やめて。勘違いしちゃう。
「いま買い物の帰りなんですよ〜。そしたら空園先生の姿が見えたので声かけちゃいました♪」
かけちゃいましたか〜。
「そしてなんと! 空園先生にご報告があるのですっ! あ、でもコレ言ってもいいのかな? 別にダメとも言ってなかったし……まぁいっか」
え、え、何? 何のご報告? もしかして俺のイラストレーターおりるとか? そんなの聞いたら膝から崩れ落ちるんですけど。
「ご報告?」
「はいっ! なんと! なんとなんと! 空園先生の作品のコミカライズの候補がワタシに決まりましたぁ〜!」
「…………へ?」
「まったく、空園先生もイジワルですよね? 一ヶ月も前からコミカライズ決まってたんなら昨日教えてくれても良かったのに」
「コ、コミカライズ?」
「そうですよ? 今日担当さんから打診があって、後は空園先生のOKが出たらすぐに動き始めるそうです」
コミカライズ? 誰が? 俺? は?
繭梨先生の言ってることが理解できないうちに信号は青に変わり、また赤になる。
「空園先生? 信号変わっちゃいましたよ?」
「………てない」
「え?」
「僕、その話聞いてないんだけど」
「……え?」
いや、『え?』は俺のセリフなんだけど。
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