わたしはあくまで人間です
野水はた
――――
プロローグ
現実を絵の具に例えたら、黒か白を連想するのかな。
それならきっと、塗りつぶしたいのかもしれないね。
水色や黄色みたいな、明るく前向きな色を選べるようになれたら、もっと軽やかな足取りで自分の行きたい場所へ行けるかも。
無色が白色や灰色を含まない限り、手を伸ばして掴めませんでしたじゃいけないんだ。キャンパスほど、現実は広くはないから。
もう、絵本に描かれた物語を信じちゃだめなんだってば。言ったでしょ? そこにあるのは夢や憧れが腐敗して滲み出した染み。到底信じられるほどの色じゃない。
臭いのは苦手だよ。
真っ黒の部屋で絵本みたいに愛を語ってみせても、すぐに死んでしまう。でも、頭蓋から溢れだした現実は餌にしか過ぎないから、余すことなく吸い尽くさなきゃ。
おかしいね。
本当はこんなことしたくないのに。
王子様とお姫様みたいに白と青に囲まれた世界で、永遠の愛を語りたいだけなのに。
勇気なんてものじゃ抗えないほどの惰性があるのだとしたら、それはきっと動かす手足に興味を持たない俯瞰した自分なのかも。
生きることを選択するたびに体躯は衰弱して、塗りつぶすことを選択すればまた息をする。
やっぱり、黒色かもね。
目の前に横たわる裸体は、ひどく汗ばみ、穢らわしい。
嫌だ。
こんな生き方は望んでない。
誰か助けて。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
滴る汁に、舌を這わせる。
「おいしい」
ぐちゃ。
今日もこうして。
命に現実を塗りたくる。
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