第11話 発見

 滅多に入らない図書室の中を感心した様子で見て回る冬葉。放課後の図書室は静寂に包まれ、勉強する者のペンの音や本を読む者のページをめぐる音が時折響くのみだ。


 そんな中、めぼしい本がないか見て回る冬葉。しかし、どこまで本の背表紙を目で追ったとしても、冬葉が感じた不自然を解決するようなものは見当たらない。図書館に何かヒントがあるわけじゃないのか~...。と困ったようにため息をつく冬葉。


 本の背表紙を見続けて疲れた首をほぐすように回していると、ある光景を目にする。それは、1人の少女が本を借りようとする、なんてことのない光景であった。少女は、これまた図書委員の少女に借りたい本を差し出す。そして、図書委員の少女は、奥から図書カードを持ってくる。冬葉はここで電撃に打たれた。


 そうだ、図書カードだ。冬葉は長い間図書館で本を借りてこなかったため、図書カードの存在を完全に忘れていた。冬葉は、本を借りてくれた少女に感謝をしながら、ずんずんと図書委員の少女に近づく。目的は、もちろん有の図書カードだ。そして、たった今、本を借りようとして図書カードに記入をしている少女の後ろにぴったりとくっつく。


 冬葉による謎のプレッシャーにおびえる、本を借りようとしている少女と、図書委員の少女。図書カードの記入を終えた少女は、逃げるように図書室を後にした。そして、ドンとテーブルに手をつく冬葉。図書委員の少女は小さく悲鳴を上げた。


「いいかしら。私の目的はただ一つ。有識有の図書カードを私に見せなさい。」


 突きつけられた要求に対して静かに首を横に振る図書委員の少女。個人情報の保護の観点からも当然の拒否である。しかし、冬葉はまったく引こうとしない。


「あんた、うちのクラスの図書委員よね?あたしに立てついていいと思ってるのかしら?」


 冬葉は、さらに追い込むように図書委員の少女にすごむ。図書委員の少女は知っていた。というより冬葉と同じクラスの人間は皆知っている。堂島冬葉という少女の厄介さを。かねてよりこのクラスでは冬葉は問題児であった。見ているだけであれば、美少女と呼ぶに相応しい様な容姿である冬葉。


 しかし、クラスメイトの有識有に対する、あまりにも露骨な好意と常軌を逸した行動、およびその行動力。クラスメイトにとって、冬葉はあまり関わり合いになりたくないと思うような人間であった。もちろん、図書委員の少女も冬葉と下手に関われば絶対にやっかいな事になると考えており、この時間がすこしでも早く終わるように心の中で神に祈っていた。

 

「そんで、どうするのかしら?有の図書カードを見せるの?見せないの?」


 うつむく図書委員の少女に対して、下からえぐりこむような視線で見つめる冬葉。図書委員の少女は心の中で、ごめんね...。有くん。と深く謝罪し、奥から有の図書カードを持ってくる。ひったくるようにそれを奪い、血走った目で図書カードを見つめる冬葉。人間とは思えないような冬葉のその雰囲気に、図書委員の少女は恐怖のあまり涙ぐんでいた。


 そして、恐怖はまだ続く。突然、ひゃははははははは!!!!と笑い声をあげる冬葉。ひっ...。と声にならない悲鳴を上げる図書委員の少女。冬葉は突然笑い声を止めると、図書委員の少女の目前に有の図書カードを突きつける。


「今すぐに、この本を持ってきなさい。」


 冬葉が指さしているのは『願いを叶えるための悪魔の呼び出し方大全』であった。ちょうど有が返した物が手元にあった図書委員の少女は、恐る恐るその本を冬葉に差し出す。満足そうに本を受け取る冬葉。


「あと、この図書カードはもらっていくから。有のは再発行しときなさい。」


 そう言い残して、図書室から去っていく冬葉。あとには、ぽかんとした表情の図書委員の少女だけが取り残されていた。

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