王都防衛戦・4

 戦いは姫ちゃんといっしょが圧倒的な優勢で進んでいきます。ドラゴンも既にかなりのダメージを負っていますからね。


 その上、彼等は実に見事な連携でドラゴンの攻撃を封じていきます。ジェイソンさんを始め、多くの騎士達がドラゴンを挑発して気を引き、魔術師達が強力な魔法を叩き込みます。盗賊が華麗な身のこなしでドラゴンを翻弄ほんろうし、とにかく多くの職業の冒険者達がそれぞれの持ち味を活かした戦い方でドラゴンを一方的に痛めつけています。


「がんばれ~!」


 そんなギルメン達を後方から応援するアディさん。彼女は特に何もしていません。強化ぐらいすればいいのに。まあ回復に振り切っているのかもしれませんね。まだ全然怪我人も出ていませんし。


「勝ったにゃ。お茶にするにゃ」


 ミィナさんがアリスさんにお茶会を要求し始めました。いやまあ、この状況なら姫ちゃんといっしょが負けることはないでしょうけど、そういうことを言われると途端に不吉な予感がするからやめましょうね?


『グググ……ガッハァアアア!!』


 ドラゴンが苦し気に息を吐きます。ついに仕留めたか……と思った瞬間、凄まじい圧力を感じました。


「なにこれ~!」


 姫ちゃんといっしょの面々も同じく圧力を感じているようです。まるで、空から巨大な見えない手で頭を押さえ付けられているような……。


『貴様ら、よくも我が子を傷つけてくれたな』


 そう来ましたか。


 あのドラゴンは小型だとカトウさんが言っていました。ユーリの過去話でもありましたよね。子供だったユーリは、マンティコラの子供を成獣と勘違いしたと。


「っ!!」


 ユーリが息を吞む音が聞こえました。これはまずいです。モンスターの子供を退治して、怒りに燃えた親に襲撃される。完全に、彼が父親を失った過去の事件と同じ状況です。しかも相手はマンティコラとは比較にならないほど強力な怪物。ユーリのトラウマを刺激するのも当然のことと言えます。


「あのドラゴンは最初から王都を襲撃してきたでござる。我々人間が負い目を感じる理由はないでござるぞ!」


 カトウさんが力強く言いました。おそらくユーリの気持ちを落ち着かせるために。


「総員、迎撃態勢を取れぇっ! 姫ちゃんに近づけるな!!」


 ジェイソンさんがギルドに指示を出しました。そうです、今はまだ姫ちゃんといっしょが戦う番。私達は控えです。


「親と子で強さの違いはあれど、基本的な戦い方に違いはないでしょう。落ち着いて戦いの態勢を」


 アリスさんもティアリスお茶会事件の面々に指示を出しました。たぶん私達も戦うことになるだろうことを確認して、気合を入れなおすためでしょう。


 私もメイスを構え、空を見上げました。


 上空にいたのは、先ほどまで暴れていたドラゴンを、更に数倍大きくしたような巨体です。それが、コウモリのような翼を広げて、空中からこちらに口を開いています。


 って、口を開いている!?


吐息ブレスだーーーーーーっ!!」


 二つのギルドに所属する、全ての司祭が防御術を使いました。私も含めて。


 ゴウッ!!


 次の瞬間、視界が赤く塗りつぶされました。先ほどより遥かに強い圧がのしかかり、一気に熱さが襲ってきます。何十人もの司祭の防御術を重ね合わせても、なお体力を奪い去っていく強力な熱気。本能的に分かります。先ほどまで対峙していたドラゴンは、本当に幼い子供だったのだと。


「くうっ……反撃だ! 魔法と矢で撃ち落とせーー!!」


 ジェイソンさんの号令で無数の魔法と矢がドラゴンに向かっていきます。


『ふんっ、人間の分際で』


 ドラゴンが怒りを込めたさげすみの言葉と共に、地上に降り立ちました。子ドラゴンの上に覆いかぶさるように。これで接近することはできますが、先ほど放たれた大量の攻撃は全て空を切って無駄になりました。


『おお、こんなに傷ついて、可哀想に』


『グルルル……』


 親ドラゴンが子ドラゴンを愛おしそうに撫でます。まさに親子の愛情を感じさせる仕草なのですが……私の頭に、さっき見た光景が浮かんできました。


 ドラゴンに仲間を殺されて、泣きながら撤退していった薔薇の朝露の姿が。


――何を都合よく被害者ぶっているのよ!


 目の前で家族愛のようなものを見せられるほどに、私の心で怒りが膨らんでいきます。


――お前の子供が襲ってこなかったら、誰も死なずに済んだのに。その子供だって傷つかずに済んだのに!


「かかれぇっ!」


 ジェイソンさんの号令で、一斉に斬りかかる勇士達。その後ろ姿を見ながら、私はメイスの柄を握りしめていました。

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