王都防衛戦・3

『グガアアア!』


 外に出ると、ドラゴンの咆哮が聞こえてきました。だいぶご立腹のようです。ゴッドフェニックスでダメージを受けたのか、騒がしい連中にイラついているのかは定かではありません。


「ちょうど神聖十字軍が撤退するところみたいだ。急ごう」


 ユーリが私の手を取って走り出しました。そこまで張り切るほど見たいわけではないんですけど。手のぬくもりにちょっとドキドキ……とはなりません。ガントレットをつけた手は冷たくてゴツゴツしています。残念。


「点火!」


 ん?


 ドゴオオオオオオオン!!


『グガアアアアア!!』


 なんと!? 神聖十字軍が門に入ると同時にドラゴンの足元で大爆発が起こりました。ちょうど外壁の上にのぼったところなので見ることができましたが、これが闇を渡る者達の奇襲なのでしょうか。ちょっと想像と違う!


「フーハハハハー! ドラゴン退治と言えば爆弾よ! 我等が気を引いている間に闇を渡る者達が奴の足元にセットしたのだ!」


 あ、説明ありがとうございます。神聖十字軍のギルドマスターと思しきクルセイダーの方が勝ち誇っています。ギルド間で連携を取るとは、初見の印象と違って知的な戦い方をする人達なんですね!


「ダメだ、あれでもドラゴンは倒せない」


 ユーリの真剣な表情。ドラゴンの方を見ると、確かに生きています。ところどころ鱗が剥がれてボロボロになったドラゴンが怒って暴れ始めました。比較的軽装の暗殺者達がドラゴンの尻尾に薙ぎ払われています。


「くっ、刃が通らない!」


 暗殺者が使うのは短剣のような武器が多いのですが、斬りつけてもまだ残っているドラゴンの鱗に弾かれてしまっています。更に――


『ガアアアア!』


 ドラゴンが口を開くと、そこから炎が吐き出されました。司祭達が張った防御壁のおかげで死者は出ずに済みましたが、闇を渡る者達は既に半壊状態です。奇襲で倒せないと職構成的にやはり厳しいですね。


「総員退避!」


 すぐにギルドマスターが撤退の指示を出します。判断が早い!


「戻りましょう、ユーリ。私達も控えに入らないと」


 次は姫ちゃんといっしょが戦う番です。前のギルドが戦う時には次のギルドがすぐに出ていけるように門で控えておく必要があります。ギルドが交代する間にドラゴンが王都へ侵入してこないようにしなくてはいけません。


「任せてくれ、俺達がヤツを仕留める!」


「きゃ~カッコイイ、頑張ってー!」


 私達のすぐ下から、彼等の声が聞こえてきました。いつの間にかジェイソンさん達が臨戦態勢で外壁の外側にいたようです。


「こっちにゃ、ユーリ、ティア!」


 ミィナさんに呼ばれ、私達も外壁の外側に降りていきます。


「アデランスには期待できませんが、取り巻き連中の実力は本物です。あれだけ傷ついたドラゴンなら彼等が倒してくれるでしょう」


 アリスさんが余裕の表情で私達を出迎えます。なんか、さりげなくアディさんのこと呼び捨てにしてましたよね? どんな関係なのかは聞かない方がいいのでしょうか。


「ただ男性達にチヤホヤされている女が気に入らないだけです」


 私の表情を読んだのか、アリスさんが変わらぬ笑顔で教えてくれました。その笑顔が逆に怖いんですけど……!


「女の戦いとはげに恐ろしきもの。近寄らぬようにするでござる」


 そうですね。司祭の女性はよくチヤホヤされるらしいのですが、私は殴りプリなのでそんなことはありません。殴りプリでよかったと心の底から思いました。はい。


「何を言っているんですか、。サブマスター同士、アデランスの相手はカトウさんにお任せしますよ?」


「理不尽でござる!」


 なんと、そのためのサブマスター指名だったんですか!?


「さあ、行くぞ!」


「我等が姫に勝利を!!」


 姫ちゃんといっしょが戦い始めました。なんか既視感のある戦い方ですが、大丈夫なんでしょうか?


「大丈夫にゃ。アイツら頭はわいてるけど実力は本物にゃ」


 うーん、ノーコメントでお願いします。


 この様子なら、本当に私達の出番はなさそうですね。ユーリのこともありますし、これでよかったのでしょう。


 何となく嫌な予感がするのですが、気のせいですよね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る