王都防衛戦・1

 もう既に他のギルドが交戦しているみたいです。街道を行く私の耳に、戦闘の音が届きました。


「だいぶ苦戦しているようですね」


「不甲斐ないにゃ。さっさと倒してみぃ達に楽させるにゃ」


 そんなことを言われている現在交戦中のギルドは遠目から見えるギルドフラッグによると『薔薇ばら朝露あさつゆ』ですね。どんな意味が込められているのか気になりますが、うちが他ギルドのギルド名に何か言える立場ではないですね。ギルドの規模は中ぐらい。所属する冒険者数は約50人。


「べリリア王国内にあるギルドでは下から二番目の規模のギルドですね。言うまでもなく一番下は我々です」


 はい。アリスさんの説明では規模の小さい順に交戦して、最後はうちになるみたいですね。それでも倒せず、追い返せもしなかったらローテーションでまた薔薇の朝露が出てくるという話です。そう考えると、うちが最後なのはバジリスク戦の労いの意味もあるのかもしれません。


「あれはドラゴンの中でも小型の部類でござるな。それでも相当な手強さでござる」


 カトウさんはドラゴンにも詳しいのでしょうか? どうやらドラゴンの中では小さい方のようです。ここから見てもかなり大きいのですが。以前戦ったストライプシープの変異種の倍はあります。


 あっ、薔薇の朝露の皆さんが撤退を始めました。


「どうやら死者が出たようですね。いくら司祭がいても、回復が間に合わなければ犠牲者がでます。あちらの司祭も決して手を抜いたり失敗したわけではないでしょう。それだけドラゴンというモンスターは強力なのです。我々はなおのこと注意しなくてはなりません」


 アリスさんが淡々と警戒を促しています。前方では次のギルドがドラゴンに攻撃を仕掛け、薔薇の朝露の人達は犠牲者の身体にすがって泣いている様子が見えます。先日の出来事を思い出し、辛くなって思わず目をそらしてしまいました。


「次に出てきたギルドは『神聖十字軍クルセイダーズ』だね。あそこは防御に秀でたクルセイダーが多く在籍している。防衛戦はお手の物だ」


 ユーリが次のギルドの説明をします。十字軍といっても軍隊ではありません。ギルド名として登録しているだけです。わざわざ読み仮名まで指定しているこだわりのギルドですね。


 十字軍兵クルセイダーはその名の通り十字架を掲げる騎士で、なんと自分で回復ヒーリングができてしまうのです! 回復力は殴りプリと変わらないんですけどね。


 その分ユーリのような騎士と比べて剣の攻撃力は落ちるようで、突破力に難があります。神聖十字軍はクルセイダーと司祭しか所属していないので、ドラゴンにダメージを与えられるかは疑問です。


「どうせ倒せないにゃ。次に期待にゃ」


 ミィナさんが辛口の批評をしますが、目的は倒すことではなく王都に入れないことなので、持久戦でドラゴンを諦めさせてくれるかもしれません。


「これは聖戦である! 我等が神に勝利を届けるのだ!!」


 なにやら暑苦しいコールが聞こえてきました。神聖十字軍は毎回これを全員で叫ぶそうです。うわぁ、近寄りたくな……ゴホン。


「今のうちに王都の待機所に入りましょう。万全の準備を整えることが今の私達に課せられた使命ですからね」


「お茶を飲んでリラックスするにゃ。ガチガチに緊張してたら倒せるものも倒せないにゃ」


 そうですね、私達の出番は最後。今から緊張していたら戦う前に疲れてしまいます。


「うおおおお! 我に力を! 我に力を!」


「邪なる者に死を! 神は邪竜を滅せよとおっしゃっています!」


「歌え、賛美歌を!!」


「ハーレルヤ!! ハーレルヤ!! ハレルーヤッ! ハレルーヤッ! ハレエールヤー!!」


……もうちょっと静かに戦ってくれないかなぁ。


 賑やかな戦場を迂回して、我々ディアリスお茶会事件は王都防衛隊の待機所に向かうのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る