英雄たちの気持ち

 私の浄化は成功しました。


 ユーリの体内に入っていた毒は消え去り、なんとか一命を取り留めたのです。彼の顔に血の気が戻ってきた時には、成し遂げた喜びと神への感謝で頭がいっぱいでした。


 ですが、私が救えたのは彼だけだったのです。


 バジリスクの毒に触れ、体内に取り込んでしまった住民数名が命を落としてしまったのです。マリエーヌ様のおかげで数名の命が救われましたが、全員を救うには人手が足りず。私がユーリの浄化に成功した時には、既に彼等は事切れていました。


「私がミスをしたせいで」


「何を言っているんですか。ティアさんがいなければ町は全滅していたかもしれないんですよ? 犠牲者が出てしまったのは悲しいことですが、貴女は胸を張るべきです。ほら、町の皆さんの顔を見てください」


 私が自分のミスを悔やむ言葉を口から出した途端に、アリスさんが遮って否定しました。彼女に言われるまま町の人達へ顔を向けると、皆さんが口々に賞賛と感謝の言葉を投げかけてきました。亡くなった方に縋りついて泣いていた人までもが、私に頭を下げてきたのです。


「お姉ちゃんかっこいい!」


「あんな化け物に襲われてこれだけで済むなんて、まさに奇跡です。ギルドの皆様のおかげです」


 彼等の前でバジリスクと戦い、消滅させたことで私はまるで町の英雄にでもなったかのような扱いを受けていました。確かにこの状況で私がいつまでもメソメソしているのは良くないですね。


 私は人々に向かってお辞儀をしながら、自分にできることをもっと増やそうと心に誓いました。


 これまで私はただの憧れで異端の道を歩んできました。殴りプリとして戦闘力を高めていけばそれでいいと考えて、治癒の能力を伸ばすことはおろそかにしてきたのです。それが己の目指す道を歩む、真摯な態度だと信じて疑わずに。


 でもそれは間違いでした。どんな道を歩もうとも、私の力は人を救うためにあるのです。そのためにできることは何でもやっていくべきだった。そうしていれば、イオナさんやアルスさん、それに町の人達も死なせずに済んだかもしれません。


 過ぎ去った時間は取り戻せません。でも、これから先の未来で救える人を増やすことはできます。殴りプリであることを止めるつもりはありませんが、マリエーヌ様のように神から授かったスキルは全て大切にしていこうと思いました。




 その夜。意識を失っていたユーリが目を覚まし、住民に犠牲者が出たことを知って落ち込んでいると聞いて彼の部屋に様子を見にきました。


「ユーリ、大丈夫ですか?」


「ティアか……俺、冒険者をやめるよ」


 突然の引退宣言。よほどショックを受けたのでしょうが、そんなに簡単にやめてもらっては困ります。私だって色々と落ち込んだけどここから成長していこうと決めたところなんですから。一緒に来たアリスさんがユーリを励まします。


「ユーリさん、貴方はできる限りのことをしました。無謀な突進はせずに町の人々を誘導し、被害を最小限に抑えたのは素晴らしいことです。ティアさんをかばって毒を受けたのも、仲間の命を救うための行動ですし結果的には最良の選択でした」


 そうです。今回のユーリは何も落ち度のない完璧な働きぶりでしたし、私のことを助けてくれた正真正銘の英雄です。落ち込まれると私の方が悲しくなってしまいます。


「そうじゃないんだ!!」


 でも、ユーリはアリスさんの言葉を強く否定しました。何かひどく思い詰めているようです。いったい何が彼の心を苦しめているのでしょう?


「俺は……俺は自分の過去の過ちからただ逃げているだけなんだ! そのせいでまた……人を死なせてしまった」


 そして、彼は自分の過去について話し始めたのです。

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