ヴァンパイアとの戦い・4
思った通り、こっちにアルスがいたにゃ。アイツの性格からして客間にいると思ったにゃ。
「こうして向かい合うとお主がアルス殿ではないことがよくわかるでござるな」
カトウがなんか言ってるにゃ。アルスじゃないなら何なんだにゃ。
『ふん、世迷言を。お前はいつもニンジャだなんだとデタラメばかり言っていたな』
あ、別人だにゃ。
アルスは他人の夢を笑うような人間じゃなかったにゃ。だってアルスは――
――――――
「まーた外れにゃ」
まだみぃが何の魔法も使えなかった頃、いつも隣にアルスがいた。特別ウマが合ったわけでもないけど、アイツはみぃが魔石を取りに行く時にいつも手伝いに来てくれた。
「レア魔石がそう簡単に落ちるかよ。魔法盗賊になるんだろ、さあ次いくぞ!」
全然魔石が手に入らなくてぶーたれてたみぃを励まして、日が暮れるまで付き合ってくれたにゃ。
「見てろにゃ、魔石をゲットして絶対アルスより凄い魔法使いになるにゃ」
「お前なー、素早く動けて体力もある盗賊が魔法で本職を超えたら、俺達の立場がないだろ」
そう言いながら、アルスは笑顔でみぃの頭をぐしゃぐしゃにしたにゃ。
しばらくして、みぃが念願の魔石を手に入れた時――
「アルスー、ついにみぃはやり遂げたにゃ!」
「おー、やったじゃないか!」
「おめでとう、ミィナさん!」
初めての魔法を披露しに行ったら、アルスの隣にはイオナがいた。
「くらえ、ファイアーボールにゃ!」
「なんで俺に向かって!?」
それからは、アルスと一緒に狩りに行くことは少なくなっていった。
それでもたまに他のギルメンも入れて狩りに行ってはいたのだけど、ティアが来てからはユーリとカトウも入れた四人で狩りに行くのが楽しくて、アルスやイオナとパーティーを組むことがまったくなくなっていたのにゃ。
そして、あの日。
「俺達、ギルドを抜けるよ」
「どうしてにゃ?」
「なんていうか、みんな固定パーティー組みだしただろ? あぶれちゃってさ。さすがに二人だけで狩りするのはきついから、他のギルドに行こうかって話をしていたんだ」
なんと、アルス達は他のギルメンとも組めなくなっていたにゃ。全然気付かなかったにゃ。
……気付けなかったにゃ。
「それじゃあ、向こうのギルドに行くのかにゃ?」
「いや、それがさ。偉い貴族様がモンスターの侵略に対抗するためにお抱えの私兵団を作るらしくて。それにお声がかかったんだ」
「凄いにゃ。給料いいのかにゃ? 今度会ったら一杯奢れにゃ」
これでお別れにしたくなかったから、また会う前提で話した。
アルスは微笑みを浮かべて「またな!」と言うと、イオナのところに走っていったにゃ。
――――――
――アルスは、いい奴なんだにゃ。
「くらえ、ファイアーボールにゃ!」
『ふん、その程度か。しょせん盗賊には魔法の真似事しかできないのさ』
みぃが撃った火球を片手で握りつぶし、
――あの時、みぃが変な遠慮をしていなかったら。
「……お主にはこれが良さそうでござるな」
カトウが鉤爪のついた縄を素早く投げると、アルスっぽいものは飛んでよけたにゃ。
「フレイムダンス!」
そこにみぃの放った炎が舞うように空中を進むと、ヤツは空中で横に動いて避けたにゃ。やっぱり空も飛べるのかにゃ。
ふふん、ひっかかったにゃ!
――気の合う仲間が増えても、アルスのことを忘れなかったら。
「ふっ、かかったな!」
カトウの鉤爪縄が柱に巻き付くと、そこから折れ曲がって勢いよくヤツに向かっていってざっくり刺さったにゃ。
『この程度!』
――今でも隣にアルスがいたのかもしれない。
鉤爪が刺さっても痛がらないヤツに、今度こそ遠慮なくフルパワーの魔法を放つ。
「燃やし尽くすにゃ、サラマンダー!」
火炎竜の魔石。それがみぃの手に入れたレア魔石の名前だにゃ。ヴァンパイアなんかよりずっと強力な精霊サラマンダーの力を借りることができるにゃ。
落とすモンスターはサラマンダーの影。この世界に時々現れる、サラマンダーの膨大な魔力の一欠片が具現化したものにゃ。現れるたびに討伐隊が組まれて大騒ぎにゃ。
アルスとイオナが仲良くなったのも、その討伐隊だったにゃ。みぃが魔石を取るのに夢中になっている間に。
――ごめんなさい。全部、みぃのせいだった!
『ギャアアアア!!』
燃え盛る火炎が、鉤爪に引っ張られて避けられなかったヴァンパイアの身体を灰に変えていく。断末魔の叫びも長くは続かず、すぐに静寂が訪れたのにゃ。
「よく頑張ったでござる」
カトウが、みぃの頭をぐしゃぐしゃにしたにゃ。
「う、うわあああああん!」
「よしよし、アリス殿には少し待って頂こう」
二人だけになった客間に、みぃの泣き声が響いたにゃ。
みんなごめんにゃ、もうちょっと待っててにゃ。
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