冒険者たる者

 今日は町でお買い物です。殴りプリの必需品、皮手袋を買いにきました。金属製のメイスで殴打するからすぐ手のひらの部分が破けちゃうんですよね。


「いらっしゃいませティアーヌ様、今日も極上の皮手袋を仕入れていますよ!」


 もはや常連となっている装備屋さんが、私の顔を見るなり声をかけてきました。筋肉質で髭もじゃ、頭髪のない見上げるほどの巨体を誇る男性がものすごい低姿勢でペコペコしながら話しかけてくる光景に、最初は戸惑ったものです。


「こんにちは、ステファンさん。二ついただけますか?」


 一つでは思いがけず破れてしまった時に困るので、必ず予備を用意します。安いものだと一日で破れてしまうこともあるので、いつも一番高いものを買います。これだと最低でも一ヶ月は耐えられるので安心です。


「はい、いつもありがとうございます!」


 ニコニコしながら渡してくる皮手袋を受け取り、代金を支払うと私は何か掘り出し物がないか店内を物色します。ごくまれにレアな魔石を仕入れていることもあるので油断なりません。


「あ、あの……」


 鼻歌交じりに店内を物色する私と満面の笑顔で揉み手をしながらついてくるステファンさんの二人に、弱々しい声で話しかけてくる人がいました。


「はい、なんでしょう?」


 返事をしながら声の主を探すと、そこにはまだ幼い少女が潤んだ目でこちらを見上げています。これは親とはぐれた迷子でしょうか。


「しさいさま、パパをたすけてくださいっ!」


 たどたどしく説明する少女の話をまとめると、彼女のお父さんはこの町で野菜や果物を売るお店のご主人なのですが、奥さんが病気になり寝込んでしまったので、万病に効くと言われているエリキシ草を探して森に入っていったのだそうです。この子のことは弟夫婦に任せていったのですが、その人達から森に危険なモンスターがいると聞いて心配になり、騎士団に助けを求めに行ったら忙しいからと相手にしてもらえなかったと。


「それで助けてくれそうな人を探していたと」


 サーニャという名前の少女は私の言葉にこくんと頷き、また涙をたたえた目を私に向けてきました。


「分かりました、お父さんのことは私に任せてください!」


 私は力強くそう答え、ステファンさんが彼女の保護者と知り合いだというのでサーニャさんを任せてそのまま森に向かいました。そんな危険な場所に一般人が一人で行くなんて自殺行為です。急いで助けにいかないと!




「急ぐのも大事ですけど、危険なモンスターがいる森に一人で行くのは褒められたものではありませんね」


 魔法で加速して町を走り抜け、一気に森へ入ろうとした時、何故か事情を知っている様子のアリスさんに呼び止められました。


「マスター!」


「冒険者たる者、どんな時でも依頼をこなすために万全を期すことが大切です。可哀想な少女の頼みとあれば一刻も早く助けに行きたいのは人情ですけどね」


 そう言ってウインクを一つ。手にした大剣を一振りするとそのまま私の横に並びます。


「さあ、ティアさんと同じく飛び出していった向こう見ずな騎士様を追いかけましょう」


 彼女達は弟夫婦の方から話を聞いたそうです。そしてユーリが一目散に森に向かったと。私が言うのもなんですけど、彼一人で大丈夫なのでしょうか?


「大丈夫じゃないにゃ。さっさと助けに行くにゃ」


「心配ご無用、ユーリ殿には魔力の信号を放って居場所を知らせる法具を密かに括りつけておいたでござる」


 ミィナさんとカトウさんも木の陰から現れました。ここに来て、私は早くも自分の愚かさを痛感したのです。こんなに頼りになる仲間がいるのに、なんで一人で解決しようとしてしまったのでしょう?


 反省しつつ私と同じく愚かな行動を取ってしまったユーリのことを追いかけながら、私はどこか嬉しい気持ちになっていたのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る