殴りプリ、初陣

 やってきたのはギルド拠点の隣にある森でした。こんな近くでモンスターに出会うのかと思ったのですが、どうやらこの森はゴブリンの巣になっているらしいです。


「どうしてそんなところにギルドの拠点があるんですか?」


「国の偉い人が冒険者にゴブリンを退治して欲しいんでしょ」


 奇声を上げて襲い掛かってきたゴブリンの眉間に正確に矢を突き立てて、狩人のイオナさんが言いました。


「俺達冒険者にしてみれば、食い扶持に困らないから最高のロケーションだけどな。あちらからすれば厄介者のゴブリンを抑えつつ冒険者を町から遠ざける合理的な配置ということだろう」


 そう話す魔術師のアルスさんが炎の矢を放ってゴブリンを次々と仕留めていきます。ゴブリンはモンスターとしては弱い方の部類なので、ギルドに所属するような冒険者にとってはそれほど脅威ではありません。


 この二人が出てきたゴブリンを即座に倒すので、私は今のところ何もしていません。


「うおおお! 前衛は俺に任せろおおお!」


 ここでユーリさんが飛び出します。冒険者の中で騎士といえば、重装備をして敵の前面に立つパーティーの盾役ですから、このメンバーで考えたらこの突出はごく普通の戦術といえます。敵の注意を引き付けるのも盾役の大事な役目ですので、このように雄たけびを上げて前に出るのはよく見る光景です。決してユーリさんが後先考えずに敵に突っ込んでいく残念な子というわけではないのです。


「ちょっとユーリ!」


「前に出すぎだ!」


 ですが、何故か仲間の二人が警告を発します。まあ、通常盾役は敵の攻撃を一身に受けるのでヒーラーが回復するのが前提になるわけでして、司祭である私が実は回復の祈りヒーリングを磨くことを怠っていて新米聖職者レベルの回復力しかないことを考慮に入れると実際危ないのですが。


 でも私が回復苦手だってこの二人はまだ知らないはずですよね?


 いったいどういう――


「ぐはあっ!」


 ユーリさんがゴブリンの振るったこん棒の一撃を受けて盛大に吹き飛びました。


 えっ?


「ユーリ!」


「プリさんヒール!」


「あっはい、ヒーリング!」


 一瞬何が起こったのかわからず思考が停止しましたが、イオナさんに言われるままにユーリさんを回復します。でも回復力が低いので全快はしません。


「おお、回復した……これがヒール!」


 えっ?


 何故か感動するユーリさんですが、その間に多数のゴブリンが彼へと襲い掛かります。これは、危ない!


「神よ、我に力を!」


 私は愛用のメイス(マリエーヌ様とおそろいのトゲトゲメイス)を取り出し、強化術で自分を加速させます。全身に装備した十二の『魔石』が私の戦意に反応して魔力の熱を宿すのを感じました。


「はっ!」


 一気に駆け寄り、ユーリさんの頭に振り下ろされようとしているゴブリンのこん棒をメイスで弾きます。


はやっ!?」


 イオナさんが驚愕の声を上げます。そういえば最初にパーティーメンバーを強化するべきでしたね。ずっと一人で戦っていたから気がつきませんでした。


 こうなったら、このまま倒してしまいましょう。私がメイスを振りかぶると、身に着けた十二の魔石が呼応しそれぞれに宿るスキルを発動させます。


 第一の魔石――審判の光ジャッジメント


「ぐぎゃあああああ!」


 メイスから光が放たれ、周囲のゴブリン達が絶叫します。この光はよこしまな存在を焼き尽くす審判の光ですから、ゴブリンにもよく効きます。ゴブリンはアンデッドや悪魔ではありませんが、存在が邪悪ですからね。苦しむゴブリンにメイスを振り下ろします。


 第二の魔石――炸裂する炎バーニングスプレッド


 メイスが当たった場所から炎がほとばしり、近くにいるゴブリン達を吹き飛ばします。


「ぎぃえええええ!」


 もう一度振りかぶった時には、周囲のゴブリン達が泣き叫びながら逃げ出しました。逃げ足の早さは天下一品ですね、魔石もまだ二個しか発動してませんよ。安全になったのでユーリさんに追いヒール(ヒーリングを追加使用して完全回復させること)。


「えっと、ティアーヌさんって司祭だよね?」


 アルスさんが驚いた顔をして言います。やはり驚きますよね。


「はい、殴りプリです!」


 私はメイスを構え、笑顔で答えました。ヒーラーではないですが、戦力としてはなかなかのものだと思いますよ?


 それに魔法がバンバン出てカッコいいでしょう!(ドヤ顔)


「えー……」


 イオナさんが微妙な顔をしました。えっ、カッコよくないですか?


「なるほど……」


 アルスさんが顎に手を当てて考え込みました。うーん、やっぱり回復を期待されていましたよね。私もそれが分かっているからこれまでずっと一人でやってきたのですが、さすがにそろそろギルドに入らないといけないので……でも、司祭としてではなく前衛のメンバーとして扱ってもらえば十分戦えますし!


 それに、実は司祭って世の中に沢山いるんですよね。ヒーラーはどこでも求められるので、逆に目指す人が多くなって。どこのギルドでも司祭の登録が過剰でパーティーを組むとあぶれるほどだと言われています。だから他の人にヒーラーをやってもらえば!


「凄いね、回復も攻撃もできるなんて!」


 そこに、ユーリさんが目を輝かせながら褒めてくれました。よかった、回復力が足りないとか言われなくて。


「ああ、うん。ユーリはそういうの好きそうよね」


「なかなかいいコンビになるんじゃないか?」


 イオナさんとアルスさんはそう言うと、帰り支度を始めました。まあ、ヒーラーのいないパーティーで狩りを続けるのも危険ですよね。ちゃんと最初に説明するべきでした。がっかりさせてしまって申し訳ないです。


――余談ですが、これ以降この二人とパーティーを組むことはありませんでした。


「ねえ、ティアって呼んでいいかな?」


 帰り道でユーリさんが明るく話しかけてきました。


「いいですよ、ユーリさん」


「ユーリでいいよ、これからよろしくね、ティア!」


 騎士のユーリさん、いえユーリは私のことを歓迎してくれました。どうやら私の居場所はありそうです。よかった。


 ところで、さっきゴブリンに吹っ飛ばされたのは……彼も普通の騎士とは違うのでしょうか? どんな騎士を目指しているのか気になります。


「帰ったらギルドの施設を紹介するよ!」


 そうでした、私はまだこのギルドがどんなところかも知らないままです。他のメンバーとも挨拶しておきたいですね。


 イオナさんアルスさんとは仲良くなれませんでしたが、ギルドと言えば多数の冒険者が集う場所。他に気の合う仲間を探せばいいのです。


 私は、希望を持ってユーリの後についていくのでした。

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