当方殴りプリですがギルドにヒーラーが見当たりません ~騎士様なんでそんなに柔らかいんですか?~

寿甘

先輩に憧れて

 殴り司祭プリースト


 仲間を癒しパーティーの生命線となる聖職者クレリックの中でも高位の司祭でありながら、退魔の力を磨く者達。その中でも特に接近戦を挑み、敵を殴りつけて倒すことを追求する変わり者のことをこう呼ぶ。


 要するに、異端者だ。


 だが、そんなものに憧れてしまった聖職者の少女がいた。


――――――


 私の目の前で、ゾンビが灰になって消えていく。


 教会に認められて聖職者になったばかりの私に与えられた最初の試練は、とある廃村の放置された墓地を掃除することだった。荒れ果てた墓地に着いたとたん土の下から現れたゾンビの群れに、私は驚いてその場に尻もちをついてしまう。


 そこに現れたのが司祭のマリエーヌ様だった。


「この数のゾンビを相手するのはまだ早いですね、この村は教会の予想よりもずっと汚染が進んでいたみたいです。さあ後は私に任せてそこで見ていてください」


 編み込んだ栗色の髪が揺れ、優しい微笑みと共に向けられたヘーゼルの瞳は曇りなく。聖母という表現がぴったり当てはまる物腰柔らかな女性の手には、棘の付いた大振りなメイスが握られている。


「はぁっ!」


 裂帛れっぱくの気合と共にゾンビの頭へ振り下ろされたメイスがインパクトの瞬間に強い光を放ち、殴られたゾンビは一瞬で蒸発した。間髪入れずに次のゾンビへメイスが振るわれると、今度はマリエーヌ様の身体からいくつもの光線が放たれる。光線は周りにいたゾンビ達の身体を貫き、一度に数体のゾンビが崩れて土にかえった。


 か、カッコいい!


 私が教会で教わった聖職者の技は神に祈りを捧げて光の力を借りるもので、こんなに激しく動き回ってあっという間に敵を消滅させるような、アグレッシブな技は存在すら知らされていなかった。


 身体から光を放ち、メイスから炎を発し、空から剣が降り注ぐ。あっという間に無数のゾンビが灰となって土に還し、マリエーヌ様は息を吐いた。


「……ふう、これで全部でしょうか。あなたの試練はまた改めて行うように司教ビショップへ進言しておきます」


 あんなに激しい戦闘の後だというのに、まるで散歩の後のように穏やかな態度で微笑む司祭に、私は思わず駆け寄っていた。


「あ、あのっ! どうやったらマリエーヌ様のように強くなれますか?」


「あらあら、私のような司祭を目指すものではありませんよ」


 彼女は『殴りプリ』と呼ばれる、戦闘に特化した司祭だという。通常の司祭とは違うと聞いて、なお強く憧れる私はしつこく食い下がった。根負けした彼女は、私に殴りプリの心得を教えてくれたのだった。




 それから数年の時が過ぎ、私は念願だった司祭になっていた。聖職者といっても教会で礼拝を行うのではなく、冒険者の一員として仲間と共にモンスターを退治したり困った人を助けたりするのが主な使命だ。


 私は、冒険者が集まって立ち上げるギルドに参加することにした。ギルドといえば職業組合みたいなものを想像するのだけど、冒険者が作るギルドはパーティーを大きくしたような集団で、国から管理を許可された拠点に集まって助け合うのだ。


「ティアーヌといいます、よろしくお願いします!」


「よろしく! 俺はユーリアン、気軽にユーリと呼んでくれ!」


 緊張しながら自己紹介する私に、気さくな笑顔を向けて自己紹介してくださったのは、白銀の鎧に身を包んだ騎士ナイト様。輝くような金髪を清潔に整え、透き通るような青色の瞳には人懐こい輝きが見て取れる。


 はあ、私もこんな綺麗な髪と瞳が欲しかったなあ。一応首の後ろでまとめてはいるけど、硬い髪質のロングヘア―はくすんだブラウン。瞳の色はグレーで、可愛らしくも美しくもない色合いなのがちょっとしたコンプレックスだったりする。


「それじゃあ早速狩りに行きましょ」


「うん、そうだね! ティアーヌさんの歓迎会も兼ねて」


 弓を手に持つ狩人ハンターの女性が、早くもパーティーでモンスター狩りを提案してきました。自己紹介もないのですが、出発してから名前を教えてくれるのでしょうか?


「なら俺も行くよ」


 いかにも魔術師メイジといった格好の男性が同行を申し出ます。これで騎士、狩人、魔術師、司祭というバランスの取れたパーティーの出来上がりですね。


 この状況に、早くも私は危機感を覚えていました。


 だって、こういうパーティーで司祭に求められる役割って仲間の傷を癒すヒーラーじゃないですか。


 でも、私は……。

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