第9話
提灯の灯りが暗くなった空を赤く染める。灯りは旅館の庭を幻想的に魅せる。雰囲気のある空間に駆と薫は二人の空間を作ることが容易だった。
外はすっかり春の夜になっていた。冷えた外気温に少し凍える肌。パタパタと食事をしに歩を進める。
まだ食事には早い時間だったが数人がメニューに目を落としていた。その中に混ざって駆と薫は同じようにメニューに目を通して注文をする。
空間を楽しむ会話をする二人だったが、まだ上辺の会話だった。薫はそれでも楽しかったが、駆の気持ちはどこにあるのか分からない。それでも旅行に来たことに全く後悔は無かった。この何気ない時間が何かを育み、まるで小さな蕾を付けたようだった。
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