転生した二度目の魔王様による、廃嫡寸前無能貴族の三男坊から始めるノンストップ成り上がり英雄譚
四角形
1 リスタート
世界を脅かしていた〝最凶〟の五大魔王――
【〈知〉の魔王】セシャト。
【〈天〉の魔王】アリゼーシア。
【〈時〉の魔王】アルビタ。
【〈祈〉の魔王】イザク。
【〈灰〉の魔王】メルト。
そして――五大魔王を打ち滅ぼすべく、異世界から召喚された史上最強と謳われる【〈聖〉の勇者】。
それらが一堂に介す今、世界は新時代へと突入し、新たなる【覇王天戦】時代の幕が開けようと――
「どいつもこいつも……弱すぎんだろぉぉおおおおお!」
――していなかった。
瓦礫と死体の山の頂上で、六人目の魔王、【〈奪〉の魔王】ガイアスはよんつばいになって絶望に打ちひしがれていた。
ガイアスの慟哭は曇天を貫き、瞬く間に晴れやかな陽ざしが差す。
彼は頭をぶんぶんと横に振って、「嘘だ嘘だ」と現実を受け入れられないように繰り返し呟いた。
「勇者がデコピンで死ぬ? は? なんで? ……嘘だろ? マジ? 冗談だよな? つか、五大魔王も大したことなかったくね? あれ……? 俺、もしかして――」
人類最強と呼ばれていた聖騎士団、五大魔王最強と呼ばれていた【〈灰〉の魔王】メルト率いるアンデッド軍団、それらの死骸が合わさって出来た山の頂上で、ガイアスはまたも天に向かって叫んだ。
「――最強に、なりすぎたぁぁあぁあぁああああ!?」
彼の口から迸った乱気流が、瞬く間に雲を作った。
◇
俺、【〈奪〉の魔王】ガイアスにとって、戦場は己の全てだった。
戦場のど真ん中で魔物たちの魔素から
敵味方の区別もつかない化け物の俺の中に生まれながらにあった感情は、『俺よりも遥かに強いやつと戦いたい』、それだけだった。
津々浦々と戦場をさまよい歩き、人間も魔物も関係なく、夜な夜な格上の存在を見つけては殺す日々が続いた。
俺には戦いの才能があった。止めを刺した相手の魔力、スキルを根こそぎ奪う。そんな規格外の能力を持つ俺は、たちまち当時天下をほしいままにしていた魔王に目をつけられ、仲間になるよう求められた――だから、殺した。
そして気づけば魔王と呼ばれ、俺を慕うやつが出来た。人類にもその名が知れ渡り、【〈奪〉の魔王】ガイアスと呼称まで生まれた。次々と格上の魔王を討ち滅ぼし、やがて――最強になりすぎた。
五大魔王、さらには勇者の力まで奪った俺に勝てるやつなんて居るわけがない。
格上の存在と戦いたい、そんな衝動は未だに高鳴っているというのに、俺よりも強いやつはもう存在しないらしい。
「というわけで、俺、転生することにしたわ!!」
【覇王十傑】。
俺直属の配下の面々を呼び出して、俺は声を大にして叫ぶ。
しかし、一斉に悲痛の声が聞こえてきた。
「な、なぜですか魔王様!? 勇者も討伐し、いよいよ世界征服も目前になったではありませんか!?」
「無抵抗の人間殺して世界征服とか、退屈だしつまんねぇだろ。つか、弱すぎて相手にすんのも面倒」
「い、いやいやいや……では我々は一体、今まで何のために頑張ってきたのですか!」
「強いやつと戦って、楽しむためだろ?」
顔を引きつらせる配下達。
どうやら、違ったらしい。俺だけだったんだ、そう思ってたの。でもまあ、いいけど。俺が王だし。俺が絶対だし。
というか、そうだ。
良いこと思いついた!
「じゃあさ、お前ら転生しないなら、俺の相手になれよ」
「……は?」
「だから、転生した俺を殺しに来い。面白そうじゃねぇか、そっちの方が。時期は、そうだな。100年後……転生した俺が15歳になった頃くらいでいいか?」
「いや、だから何の話を……」
「じゃあ、人間になった俺VS【覇王十傑】ってことで頼むわ! 人類絶滅してたら魂が依り代失っちゃうから、人類絶滅させんのだけはやめてな! そんじゃ、転生するから俺! じゃーな!」
転生魔法を起動させ、現れる魔法陣に包まれる。
人間に転生。めちゃくちゃ楽しみだ。最弱の状態から最強を目指す。これ以上に興奮することはない。
楽しい俺の、最強の魔王の二度目の人生が今、始まるのだ!
◇
「――なぁぁああにが転生だこんちくしょぉおぉおおがぁあっぁああぁあッ!!」
【覇王十傑】、そのリーダー。
【星斬】デルタ・バルクスは、ガイアスのいなくなった場所を見つめながら絶叫していた。
それもそのはずだ。
つい昨日まで共に人類征服を目論んでいたはずの魔王が、ぽっと意味不明なことを口にしていなくなってしまったのだから。
バルクスは、ぜぇはぁと息を整えながらぎちりと拳を握りしめる。
「あの人は……いつも、いつも……俺達を振り回してばっかじゃないかッ!!」
思い出すのは、ガイアスのあまりにも酷いこれまでの行いだった。
突如として五大魔王を討伐すると言い出し、ようやくのことで死にかけてまで【〈知〉の魔王】を倒したのに、その次の日に【〈天〉の魔王】を討伐しに行くと言い出したり。
つまらないとか言って、五大魔王の残りの三体と一斉に戦おうと言い出したり。
急に命をかけたドッジボール大会を始めたり、魔王城に露天風呂を建てるとか言って、女風呂を覗く人間の嗜みを味わいたいとか意味不明なことを言い出したり……ッ!!
「思い返したら……挙げたらキリがねぇくらいあの人のわがままに付き合ってんじゃねぇかぁあぁあぁ!!」
ぜぇはぁ、ぜぇはぁ。
バルクスは呼吸を整えると、ニッと笑ってガイアスのいなくなった場所を何度も何度も踏みつける。
「次は転生ですか、そうですか……。貴方が15歳になった頃に、殺しに行けばいいんですよね……?」
ガイアスがいなくなった現状。
次点で世界最強となった男が、おぞましい、あまりにも不気味な、不敵な笑みをニィと浮かべた。
「いいですよ……付き合いましょう、あなたの最後のわがままに」
バルクスはマントを翻すと、髪をかきあげて赤黒い空を仰ぐ。
「――全身全霊で、人間に生まれ変わり15歳になった貴方をぶち殺しに行って差し上げましょう!!」
そう、意気込むバルクスの背後で。
しかし、誰かが呟いた。
「あの【転生魔法】の魔法陣って、まだ使えるのかな?」と。
……そして、全ては始まった。
◇
ガイアスの転生後。
ガイアス消滅の通達が広まり、世界中には激震が走った。
それほどに、彼の存在は世界にとって驚異だった。
『人類は天災に打ち勝った。悲願は叶えられた。我々人類は勝利したのだ』
だがしかし、人々はまだ知らない。
ガイアスが、名を変え、姿を変え、人間として生まれ変わろうとしていることを。
「おはようございます、カレア様……」
「あー、おはよう……良い朝だね」
――アーネスト公爵家、三男坊。魔力量0の落ちこぼれであり、廃嫡寸前の別名【無能】。
あのガイアスがそんな人間に生まれ変わっているなど、誰もまだ、知る由もなかったのだ。
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