第098話 やらかした上に折れる

 俺は再び街を訪れていた。なぜならヒーツジ毛を刈る道具が欲しかったからだ。


「ヒーツジ毛を刈るハサミが欲しい?」

「ああ。ヒーツジの毛を刈りたいと思ってな」


 ただ、俺が信用できる商会はカーン商会しかないので必然的にここで相談することになる。


 しかし、俺はすっかり忘れていた。


 ここで相談したらどうなるのかということを。


「なるほど。確かにヒーツジがいれば必要になるでしょうね。ということはヒーツジの毛はウチに卸していただけるので?」

「あっ」


 エルヴィスさんからの返事が返ってきてようやく俺は自分がしでかしたことに気付いた。


 俺は思わず変な声を漏らす。


 やっちまった!!


 思わず心の中で叫んだ。前回ブゥタのことを話さないように気を付けていたって言うのに、今回うっかりいつもの流れで話してしまった。


 くっ。しかし、ここまで話してなかったことにはできないだろう。


「あ、ああ勿論だ。ただ、その前に俺達用の布団が欲しいから少し先になると思うぞ?」

「ええ、ええ!!構いませんとも!!私達の商会に卸していただけるならいつでも!!それにその布団に関してましてもウチで良いお店をご紹介いたしますよ!!」


 俺は少し顔を引きつらせながらもなんとか自分たちの分の確保を済ませると、エルヴィスさんは喜色を滲ませてテンションを上げた。


 よっぽど嬉しかったみたいだな。


 まぁ前回の肉は死守したから今回は仕方ないか……。


 俺はこれ以上悔やんでも仕方がないので気持ちを切り替える。


「そうか。それならその店を紹介してもらってもいいか?」

「分かりました。それでは早速行きましょう!!」

「あ、ああ。そうだな……」


 早速自分たちの服や布団を作ってくれる店を紹介してもらおうと思ったら、何故かエルヴィスさん自身も一緒に行くつもりらしく、意気揚々と部屋を出ていく。


「迂闊だったな」


 その様子を隣で黙って見ていたソフィが俺に話しかけてきた。


「はぁ……悪いな」

「別に我は気にせぬ。忙しないのも楽しいからな。お主は大変であろうがな。くっくっく」


 申し訳なさげにソフィに返事をすると、彼女は楽し気に笑う。


 まぁ、ソフィが楽しそうならまぁいいか。


「エルヴィスさんを追いかけるか」

「そうだな」


 彼を追いかけていくと、馬車に乗せられて有名な職人を紹介されることになった。


「よーし、お前達、毛を刈ってやるからならべぇ」

『メェー』


 ハサミを手に入れ、職人を紹介された俺達は牧場に戻り、広場にヒーツジを集めたら、毛刈りを始めようとした。


―バキッ


「え……」


 しかし、ヒーツジ毛ハサミによって毛を切ろうとしたら、よりにもよってそのハサミが折れてしまった。


 まさかまた騙された?

 いやいや、あのエルヴィスさんが俺を騙す理由がない。

 そんなことをしたら俺から仕入れが出来なくなるんだから。


「ふむ。どうやらこのヒーツジの毛はとんでもない強度があるようだな」


 俺がエルヴィスさんに疑心暗鬼になって思考の海に沈んでいたら、ソフィがヒーツジに近づいて顎に手を添えてジッと見つめたり、触ってみたり、引っ張ってみたり色々試しながら述べる。


「そうなのか?」

「うむ。このヒーツジ達は普通とは少し違うのかもしれぬな」

「そうか。そうなると毛を刈ってやれないな」


 どうやらエルヴィスさんが俺を騙したと言うことはなく、ヒーツジの毛が思ったよりも強度があったらしい。


 人に飼われているヒーツジではないみたいなので、もしかしたら環境に適応して毛が強くなったのかもしれないな。


「それにしてもどうしたもんか……」

「うむ。それならドワーフに作ってもらうのが一番であろうな」


 しかし、このハサミで毛を刈れないと俺達はヒーツジ毛で作成できるアイテムを手に入れることができないし、伸びた毛を刈ってやることも出来ない。


 それでは困る。


 そう思っていたらソフィが聞き覚えのある種族の名前を出した。その種族は良く知っている。


「ドワーフってあのドワーフか?」

「ん?他にドワーフがおるかは知らんが、ダンジョン都市におったのなら何人かはおったであろう」

「んー、まぁな。でもあいつらは武器しか作ってないんじゃ?」


 ソフィが言っているドワーフが俺のイメージするドワーフで間違いなければ、金物を作っているというイメージはない。


「まぁそういう側面がないではないが、それはそれ以外の金物を作ることができないというわけではない。ドワーフの道具はどうしても高くなってしまうからな。一般人には手が出ないし、人間の職人が作った金物で十分であるから売れないのだ」

「なるほどなぁ。ドワーフが武器しか作っていないのはそういうことだったのか」

「うむ。であるから、ドワーフの職人に頼めばハサミくらい作ってくれるであろう」

「でも、近くにドワーフなんていたか?あの街には居なさそうだと思ったが」


 ソフィの話を聞いてドワーフにハサミを作ってもらうということは分かったが、そのドワーフに当てがない。


「少しよろしいでしょうか」

「ん?」


 そこに森人族のシルヴィアがやってきて話に入ってくる。


「そのドワーフですが、エルフの森を抜けた先にある山の中に住んでおります」

「へぇ~。そうなのか」


 どうやら俺とソフィの話を聞いていたらしく、情報を提供してくれた。


「幾分交流もありますので話をつけることも出来るかと思いますが、いかがでしょうか?」

「そうか。それなら頼もうか」

「分かりました」


 どうやら橋渡しもしてくれるようなので俺は遠慮せずに彼女に頼むことにした。


「今日の所はもうすぐ夕方だし、明日出発しよう」

「分かりました」


 俺達は毛刈りを止め、残っている仕事を終わらせて休むのであった。


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