第094話 焼肉という素晴らしい文化

「へぇ。そういう料理?があるのか」


 俺は徐々に竜人と赤竜たちに引き継ぎつつある納品だが、エルヴィスさんとの会話でいろんな情報を得ることもあるので、ウチで獲れたものを少量手土産にして顔を出しに訪れている。


 そこで面白い料理の話を聞いた。


 なんでもスライスした肉を網の上で焼いてタレに付けたり、野菜と合わせて食べたりする焼肉という文化があるということを。


 それなら俺でもできるし、従業員たちに振る舞うこともできるだろう。


「えぇ。なんでもニクニク王国では大変人気だとか。アイギスさんは肉にあてでも?」


 そこで金の匂いを嗅ぎつけたのか、エルヴィスさんは俺に問いかける。


「い、いや、野菜ばかり食べているものだから肉も食べたくなってな。でも、肉料理なんて知らないから何か簡単な食べ方がないかと思ったんだ」

「そうでしたか。てっきりまた新しい家畜でも買い始めたのかと」


 俺は苦笑いを浮かべながら嘘のような本当のようなことを呟いたら、彼は残念そうにしながらもにっこりで笑って隠していることを言い当てている。


 鋭すぎで怖い。


「はははっ。俺でもそんなにすぐは増やせないさ」

「はははっ。それは確かに。それではまた次回楽しみにしておりますね」


 俺が肩を竦めると、エルヴィスさんも同じような仕草をしてその話を終えた。


「あ、ああ。その時はぜひな。それはそうと、肉とタレ、それとその金網は手に入らないか?」

「どのくらいご入用ですか?」


 うーん、どのくらい買っていけばいいか。肉はカモフラージュで良いとして、金網は沢山あったほうが良いな。百枚くらい貰っていくか。


「そうだな。肉はあればあるだけいいな。金網は百枚くらいどうにかなるか?」

「分かりました。肉の量は金網に合わせて都合しますね」

「それで頼む」


 エルヴィスさんは出来る商人らしく、金網の寮からある程度の人数を察して肉の量も見繕ってくれるらしい。


 流石だ。


「料金は納品物の金額から引かせてもらっても?」

「ああ」

「分かりました。そのくらいなら数日もあれば用意できると思います。受け取りはどうしますか?」


 それだけのために俺がくる必要はないだろう。


「それは納品の時に竜人に渡してくれ」

「承知しました」


 エルヴィスさんに肉と金網を用意してもらう算段をつけ、その日は帰宅した。


 それから数日後。


「アイギス様、金網と肉をお持ちしました」


 竜人たちが帰ってきて俺の許に肉と金網が手に入ったことを報告する。


「了解。それじゃあ、今日の夜は焼肉祭を開催する。その金網を使ってブゥタの肉を食い放題だ。楽しみにしておけよ!!」

『うぉおおおおおおおおおおおおお!!』


 俺はその肉と金網を何に使うかを近くにいる皆に聞こえるように叫んだら、皆が嬉しそうに声をあげ、怒号となった。


 ちなみにここに住む森人族エルフはすっかり野菜だけの食性ではなくなってしまった。それもこれも野菜以外の卵とか牛乳とかがそんな食性すらも超えるほどにとんでもなく美味いのが悪いだろう。


 そして、その日はみんなのやる気がいつもよりも高かったせいか、相当早く仕事を終えることが出来た。


「おい、今日は酒がたらふく飲めるんだって!?」


 仕事終わりに真っ先に俺の許にやってきたのはバッカス。その目が酒瓶に見えるほどに酒に目がくらんでいるのが分かった。


「ああ。今日は遠慮なしだ。満足するまで飲ませてやる」

「ひゃっほぉおおおおおっ!!」


 俺が頷いてその言葉が正しいことを伝えたら、バッカスは腰だめに構えて咆哮した。


「酒に合う焼肉という料理会も一緒にやるから楽しみしてろよ」

「はーはっはっはっ!!ここまで来て肉まで食えるたぁ信じられねぇぜ!!わぁった!!何かやることがあれば俺も手伝うぜ!!」

「そうか。それじゃあ、今から他の奴らもやってくるから会場の設営を手伝ってくれ」

「了解!!」


 肉の話を聞いていなかったバッカスは、肉が食えると知ってさらにやる気を出した。バッカス含め仕事が終わった奴らで、ソフィが出した石や木で竈を作り、その上に金網に乗せて準備を済ませる。


 それはみんなのやる気が高すぎて一瞬で終わってしまった。


「それじゃあ、今日は新しい仲間を迎えた記念に焼肉祭を行う。その肉を提供してくれたのはその仲間であるブゥタだ。それだけでは足りないだろうから街から仕入れもしている。今日は好きなだけ食え!!」

『うぉおおおおおおおおおおおおおっ!!』


 再び集まった奴らから雄たけびが上がる。


「まず俺が見本を見せる。それを各グループの代表者一人が見てくれ!!」

『了解!!』


 俺がエルヴィスさんから聞いたやり方を実演してみせる。網にスライスした肉を乗せた。


ージューッ


 肉を焼ける音と香ばしい香りがあたりに広がり、みんなが肉に眼が釘付けになっている。


 片面が焼けたのを確認し、ひっくり返してもう片面を焼き、両側が焼けたのを見て、タレにつけて口に入れる。


「あぁ……うますぎる……」


 肉の旨さだけじゃなく、誰との絡みで肉の旨さが極限まで引き出され、口の中に広がった。


ーゴクリッ


 誰もが俺が旨そうに肉を食べる姿に喉を鳴らす。


「さぁさぁ、それじゃあ、焼け!!食え!!飲め!!」


 それの合図で今日のために準備してたスライスしていたブゥタ肉と購入した肉をスライスして皆に提供した。


 彼らは俺のやり方を見て覚えたやり方をグループの人にも伝えながら一心不乱に肉を焼いて食べ続けた。


 次の日には、食べすぎ患者と二日酔い患者が大量に発生したので、休日ということにした。


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