第060話 TKGへの道も一歩から

 エルヴィスさんとの商談が終わった俺たちは、また必要になりそうな消耗品の買い物を済ませたのち、牧場へと帰りついた。


「おかえりなさいませ」

「ああ。シルヴィア、ただいま」


 俺とソフィが拠点に降り立つと、森人族のシルヴィアが二名のお供を連れて俺に挨拶しつつ頭を下げる。他の二人もつられるように同様の動作を行った。


 最初こそ険悪な態度を取っていた森人族たちだが、今ではすっかり友好的になった。銀狼達とチャチャに毎日じゃれられていたらなぜか態度が軟化。チキンバードがやってきてからその態度はさらに顕著になってきたと言える。


 モフモフに癒されたことで人間に対する偏見なんてどうでもよくなったのかもしれない。いや、きっとそう違いない。


 モフモフの前には何物も抗うことはできないのだ。


 その点においてもモフモフを沢山飼っていて助かったと言える。


「商談はいかがでしたか?」

「ああ。チキンバードの卵が予想以上の高値で買い取ってもらえたから上手くいったと言えるだろう。いや上手く行き過ぎたといっても良いかもしれない」


 シルヴィアから町に行ってきた結果を聞かれたので、少し困惑しながら返事をする。


「それはよいことでは?」

「それはそうなんだが、卵たった一つで金貨五十枚だぞ?」

「金貨五十枚!?人間社会にはそれほど精通しているわけではありませんが、それはかなりの高値なのでは?」


 俺が困惑しているのが不思議なのか、首を傾げるシルヴィア。俺が困惑している理由を話したら、彼女は少し驚いて答える。


「そうだな。俺もそこまで詳しいとは言えないが……」


 俺は単純に金貨五十枚と言われても、あまり物の価値に詳しくないので上手く説明できる自信はない。


 そこでソフィに視線を向ける。


「うーむ。なんといえば言えばいいか。魔石に置き換えて考えれば分かりやすいか。Bランクモンスターなら五十匹程度。もしくはAランクモンスターの魔石の半分程度の価値があると言えば分かりやすいか?」

「そ、それは、とんでもない価値ですね……」


 ソフィが少し考え込むような仕草をした後で、俺たちにも分かりやすいように説明しなおしてくれる。


 Bランクモンスターが五十匹……。


 俺が探索者をしていた頃、パーティでようやく倒せるのがBランクモンスターだったはずだ。一日で十匹も倒せればいい方だった。


 それでも一日金貨十枚。それ以外にも宝箱などの収入もあった。それを考えると俺は報酬もちょろまかされていたんだと今頃のになって気づかされる。


 今となってはどうでもいいくらいの金額を稼いでいるわけだが。


 シルヴィアも金貨よりも理解しやすかったらしく、分かりやすいほどに狼狽えていた。


「Bランクモンスターともなれば、我らの部隊でも苦戦を強いられるほどのモンスター。Aランクモンスターとあっては、よくて逃走、悪くて壊滅してしまうほどの凶悪なモンスター。まさかただの鳥の卵が、Aランク魔石の半分とはいえ、それほどの価値があるとは思いませんでした」

「だから俺たちも驚いたというわけだ」

「うむ。さしもの我も流石に今回の値付けには驚いたわ」

「なるほど。確かに私たちも森を荒らす獣を狩って、Bランクモンスターの魔石五十個と交換言われたら、それは確かに困惑することでしょう」


 魔石に置き換えることでお互いにようやく共感できたようだ。


「だろ?」

「いったいどうしてそれほどの価値があったのでしょうね」

「我にも分からん。勿論その美味さは我が食べた卵の中でも一番ではあったのだが、まさかそれほどとは思わなんだ。しかし、あやつは利に敏い奴だ。あの卵にはそれだけ出す価値があったのだろう」


 俺もシルヴィアと同じ気持ちでいっぱいだ。しかし、ソフィがそういうのならそうなんだろうな。


「ふーむ。分からないものですね」

「おそらくだが、おぬしたちがシルの加護を受けた農作物に価値を見出しているの同様に、人間にも似たような者たちがおるのであろう」

「なるほど。そういうことですか」


 未だに納得していないシルヴィアだったが、ソフィが彼らにとって価値あるものに置き換えて話すと、シルヴィアも腑に落ちたようだった。


 俺にとってモフモフが至高であるように、あのチキンバードの卵を最高だと思う人間がいるということなのだろう。


 そして、エルヴィスさんにはその人達に心当たりがある。そういうことだ。


 俺もようやく理解できた。


「まぁこれ以上はいくら考えても仕方あるまい。そろそろ夕食を食べようぞ」

「そうだな。それじゃあ、今日もお疲れ様」

「はい。それでは、また明日」


 ソフィの言葉に納得した俺たちは分かれて家路につくことにして別れる。


「あっと、聞き忘れていたが、シルヴィアが住んでいる森には、コッメはあるか?」


 しかし、ふと俺は思い出してエルヴィスに聞いたコッメのことをシルヴィアに尋ねた。


「コッメですか?あ、はい。それなりに生えてますよ」

「おお、そうか。それって融通してもらうことは可能か?」

「そうですね。私たちも一度報告に戻ったほうがいいかと考えておりましたので、その時に話を通せば可能だとは思います」


 どうやら知っているらしいし、売ってもらうことも可能らしい。

 やった!!これで俺は伝説のTKGを食べることができる!!


 それと同時に、彼女の言葉でシルヴィアたちの目的を思い出した。


「おお!!そうか!!そういえば、シルヴィアたちはシルを探しに来たんだったな。それならここで働いてもらっているし、俺も挨拶に行こう」

「分かりました。我らが里にご案内いたします」

「ありがとう。よろしく頼む」


 こうして俺はシルヴィアの里にコッメを手に入れ―コホンッ―、シルヴィアたちを雇っている挨拶をするために向かうことに決めた。

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