第059話 続・私は試されている(第三者視点)
アイギス達が養鶏を始めて軌道に乗り、卵が沢山手に入るようになった頃、自分たちで食べる分以外の余剰分が売り物になるかどうかを確認するため、アイギスとソフィーリアは二人でカーン商会へとやってきていた。
「今日も納品いただきありがとうございました。いつもながら素晴らしい農作物の数々。今ではこの辺りでアイギスさんの牧場の農作物を知らぬ者はおりませんよ?」
アイギス達はいつものように農作物の納品を終え、エルヴィスと軽くお茶を飲んでいる。
アイギスの農作物は魔力が回復し、品質が伝説級という異常な農作物。誰もが、特に王侯貴族がこぞって手に入れたがるような特徴を持っていた。
その上、腐らないという特性もあるので、どこまでも輸送することが可能のため、辺境で仕入れて移動に時間が掛かる場所に持っていっても販売できる。
そして、遠くへ行けば行くほど輸送費で高くなって高価になっていくが、その特徴ゆえに売れ残ることがない。
それは絶対的な利益が約束された商品。
勿論盗賊やモンスターに襲われるということもあり得るので、絶対に儲けられるというものではないが、何事もなく目的地に持っていければほぼ間違いなく儲けることができる。
カーン商会にとってアイギスの商品はまさに金のなる木となっていた。
それを考えれば、エルヴィスがアイギス達に深く感謝をするのは当然のことであるし、アイギスの農作物が有名になるのもまた当たり前の話であった。
「そうなのか?美味いのは確かだと思うが、それ以外は別に普通だと思うんだがな」
ただ、アイギスとしてはその特徴に気づいていないため、未だに今の売れ行きに困惑しかない。
「ははは……。その美味しいという部分が他の農作物と比べてとんでもないんですよ」
しかし、エルヴィスとしてはアイギスが農作物の特徴を把握した上で持ち込んでいると思い込んでいる上に、元々商人という職柄相手の言葉を鵜呑みにしないように気を付けているため、エルヴィスの言っていることは演技だと考えている。
その上、普段がそんな演技をしている風に見えないので、アイギスのことはとんでもない商売相手という認識なのだ。
「そうか。そう言ってもらえると作ってる甲斐があるってものだ。それで、ちょっと今日は農作物とは別の物を持ってきたので見てもらえるだろうか?」
「おお!!それはそれは。勿論見せていただきますとも!!」
そんなアイギスからなんともない風な話として新商品のことが出てくるのだから、エルヴィスとしては喜びつつも気を引き締める。
「見せたい物というのは、このチキンバードの卵だ」
「こ、これは!!」
ソフィーリアが亜空間倉庫から卵を竹に似た素材で作られたザルの上に乗せてテーブルの上に乗せた。
その卵に対してエルヴィスは『鑑定』を発動させると、その瞬間驚愕の声を上げる。なぜなら、そもそもとしてその卵はチキンバードの卵ではなかったからだ。
シャイニングバードの卵ですと!?
そう。エルヴィスが心の中で叫び声をあげたように、その卵はシャイニングバードと呼ばれるチキンバードとはまるで別の動物の卵である。
シャイニングバードはチキンバードとは比べ物にならないほどに希少な存在で、飼い慣らすことはおろか、出会うことさえほとんどない。その上、運よく出会ったとしてもアイギス達がそうだったように結界魔法に阻まれ、彼らの許にたどり着くことさえできない。
当然シャイニングバードの卵なんていう貴重品を手にすることはまずない。
それほどの貴重品が目の前にあるのだ。それは驚くなという方が無理な話だろう。
それに、シャイニングバードの卵は非常に美味だという伝承が残っており、王侯貴族が農作物同様に確実に欲しがること目に見えていた。
その上、農作物ほどではないが、消費期限が一年程と長く、魔力も回復するし、品質も勿論伝説級でさらに体力も全回復させるという効果まである。
もはや幻といっても過言ではない卵であった。
しかもこれだけの卵をチキンバードの卵と言ってソフィーリアは出してきた。それはつまり、再び自分がこの卵に対してどれだけの価値を付けるのかを試されているということだと理解する。
これはまた値段を間違えないように気を付けねばならない。
エルヴィスは徐々に落ち着きを取り戻そうとしながら頭をフル回転させる。
「どうかしたか?」
「い、いえ、これはとても素晴らしい卵ですね。一つ金貨五十枚ではどうでしょうか?」
固まって返事をしないエルヴィスに声を掛けるアイギス。エルヴィスはその声で思考の海から帰還を果たし、すぐに計算をして金額を出す。
「はぁ!?」
しかし、その金額が余りに法外すぎてアイギスが驚く羽目になった。
農作物でさえ、銀貨四十枚程度だったのに、卵がたった一個で金貨五十枚。農作物の百倍以上の価値があると聞けば、それは驚いてしまうだろう。卵は元々高級品であるのだが、そのことも知らないアイギスには信じられないほどであった。
「安かったですか、それでは金貨――」
「いやいや、それで十分だ。それで頼む」
「そうですか……?ありがとうございます。それでいくつほど卸していただけますかな?」
エルヴィスとしてはかなりギリギリの金額だったのだが、すぐに了承を貰えなかったので、無理してもっと値上げをしようと思ったが、アイギスに止められたので内心ではホッとしつつ商談を進める。
「今回は三十個ほど持ってきた」
「分かりました。そちら全部買い取らせていただきます」
「分かった」
こうしてエルヴィスは二回目の商談も無事乗り切るのであった。アイギスもソフィーリアもそれほどの金額になるなど全く思いもしないままに。
「そういえば、卵を使った美味い料理は知らないか?」
「そうですね、確かTKGという伝説の料理があります。確かコッメという穀物を炊いたものの上に生の卵を乗せ、ショーユーをかけて食べるらしいです」
その後、ふと思いついたアイギスは卵料理について尋ねると、非常にシンプルな料理を教えてもらうことができた。
「そのコッメとショーユーは手に入るか?」
「すみません、ショーユーは商店で販売しているんですが、コッメは仕入れしてないんです。というかコッメは森人族の森にあるらしくて手に入れるのが困難でして……それもあって伝説となっています」
その上、ショーユーは買えるし、コッメはここでは買えないが、森人族に聞けば手に入るかもしれない。
意気揚々と二人は牧場へと帰っていった。
「ふぅ~、今回も気が抜けなかった……」
エルヴィスは二人を見送った後、ひどく疲れた顔でため息を吐いたのであった。
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