第096話 あまりに遠い国の人と世界最強(第三者視点)
煌びやかなシャンデリアが室内を照らし、十人以上座れるようなテーブルの一番の上座の席で二人の美女が相対していた。
二人の前には美しい器に盛りつけられたご飯と、その上に乗せられた生卵、そして、ソースのように上品に落とされた醤油が並べられた。
「サリー、これ卵かけご飯だよね!!」
「え?ミヤビは何を言ってるんですの?これはTKGという料理ですわ」
ミヤビと呼ばれた黒髪黒目の美女は、その料理を見るなり自身がよく知っている料理だと主張するが、対面に座る縦ロールの金髪碧眼の美女サリーは、ミヤビの言っている料理ではないと反論した。
「それって卵かけご飯のことでしょ?」
「いいえ、TKGという料理なのです」
ミヤビはサリーの言っている名前は卵掛けご飯でしかないのだが、サリーには分かるはずもなく首を振った。
「ん~?一体どういうことなんだろう?」
ミヤビはTKGが間違いなく卵掛けご飯で間違いないということは分かっている。しかし、ここではTKGが卵掛けご飯だとは広まっていないようだった。
それが彼女にとって不思議で、顎に手を当てて首を傾げる。
「どうかしたんですの?」
「いいや、なんでもないよ」
そんなミヤビを不思議そうに見つめながら尋ねるサリーだったが、ミヤビは彼女に言っても仕方がないことだと首を振った。
「それよりこの卵とお米と醤油はどこで手に入れたの?」
ミヤビは卵掛けご飯に出会ったことよりも、さらに重大なことがあった。それはその食材の質だ。卵にしてもコメにしても醤油にしても、彼女の眼には超々一級品に見えた。
だから、その出所を知りたがった。
「お米?醤油?」
「この白いのとこの黒いソースのこと」
「ああ。これはカーン商会が、わたくしに特別な商品があると勧めてきたのですよ」
米と醤油と聞いてなんのことかさっぱり分からないサリーは頭の上にクエスチョンマークを出している。
フォローするミヤビの言葉で食材を理解して手に入れた経緯を話した。
「へぇ~」
「それと同じようにこちらの品々も手に入れました」
―パンパンッ
興味深そうに聞くミヤビに気を良くしたサリーは自慢げに手を叩いた。
「こ、これはとんでもない野菜たち!!」
サリーの合図で姿を現したメイド達が持ってきたのは数々の野菜の入った箱。その中は一目で分かるほどに品質のいい様々な野菜で埋め尽くされていた。
「これを作った人は!?」
「え、えっと、それは聞いておりませんわ!!」
ダンとテーブルを叩くように立ち上がり、前のめりにサリーに顔をグイッと近づけるミヤビに、タジタジのサリー。
「こうしちゃいられないわ!!すぐにこの食材を卸した人の所に行くよ!!」
ミヤビはどうしても食材の生産者が気になってしまい、闘志を燃やして部屋の外に向かう。
「ど、どうしたんですの!?」
「料理人のとしてこんな最高の食材を見逃すわけないでしょ!!」
困惑気味のサリーに、ミヤビは振り返ってニヤリと笑って答えた。ミヤビはそのまま部屋から出て行った。
「あ、忘れてた」
―ガツガツガツッ
かと思えば、すぐに戻ってきて卵掛けご飯を伝統的な食べ方で食した後、その場を後にした。
「全く……良い食材を見ると飛び出していくところは中々変わりませんわね……」
サリーは去っていったミヤビの跡を見つめ、ヤレヤレと頭を振るのであった。
■■■■■
「何ぃいいいいいいいいいいいいい!?」
「五月蠅いわね!!」
「俺よりも強い奴がいるって言われて黙ってられるかよ!!」
二人の人間が口喧嘩を始める。
そこが普通の街中であればよくある日常の一シーンであるかもしれないが、周りがモンスターの死骸に埋まり、殺伐としていた。
一人は武闘家らしき恰好をした筋骨隆々の男。もう一人は如何にも神官らしき恰好をしている女性だ。
「噂よ噂」
「噂なら俺の噂をしろよな。この世界最高の男、アルファ・バルトレイのな!!」
適当に流そうとする女性に対して、アルファは不満そうにしながら自分の胸を親指でトントンと叩く。
「別に噂なんだから気にしなくてもいいでしょ?」
「バカ野郎!!噂でも負けるのは嫌なんだよ!!」
女性はため息交じりに宥めるが、アルファは憤慨した。アルファにとってはどうしようもないこと以外はどんな所でも一番になりたいのだ。
「はぁ~、あんたの負けず嫌いには恐れ入るわ」
「そんで?ロール、その噂で世界最強とか言われている奴は何処にいるんだ?」
頭痛で頭を押さえているような仕草で呆れるロールに、アルファは自分よりも強いと噂の人物の居場所を尋ねた。
「なんでも無の大地の近くの街に出没するらしいわよ」
「ほぅ~。依頼もそろそろ終わりだし、そいつの顔を拝みに行こうぜ」
いけないような場所でもないのでアルファは実際にそいつに会ってみたくなった。
「そう言うと思ったわ。まぁこの後の仕事は入ってないし、別にいいわよ」
「へへへ。分かってるじゃねぇか。流石俺の女房だな」
「私はなんでこんな男と結婚したのかしら……」
仕方ないなと思いながらもアルファの望みを了承すると、アルファはロールの肩を抱いてにっかりと笑った。
二人は夫婦だった。
ロールはガックリと肩を落として溜め息をつく者の、満更でもない様子だった。
お似合いの夫婦だった。
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