第033話 自己防衛 国なんかあてにしちゃダメ

 虫を撃退した俺たちは泉のほとりで並べてある地盤ブロックに腰を下ろし、コップに水を入れて休憩している。


「今日の所は虫は撃退できたけど、これが続くとなるとおちおちここを空けて町に行くのも難しいな」


 早くお金を手に入れて、ソフィの服や、寝具などの必要な物資を早急に買いたいところだが、離れている間に拠点が荒らされるかもしれないと考えると、すぐには農作物を売りに行けそうにない。


「そうであろうな。我が街の近くまでお主を乗せていくとしても、近づきすぎると混乱が起こるがゆえ、往復で一日はかかる。野菜は全て収穫してしまえばいいが、シルの方が心配だ。今はまだ休眠状態だろうから虫の撃退は難しかろう」


 ソフィも俺が言いたいことを理解して同意してくれる。


「そうだなぁ。何かこの拠点の守りを考える必要がありそうだ。ひとまずすぐに思いつくのは壁を作る方法だな」


 壁を作れば、高く飛べる虫以外は壁で足止めできるし、出入り口を作っておけば、そこさえ守っておけば侵入を防げる。


 ただ、空を飛んでくる虫は入ってきてしまうのでそれだけでは足りない。


「うむ。それともうひとつ。留守番を任せられる獣を手に入れることも必要だろう。我が結界魔法を使えればよかったのだが、あいにくとそっちは全くなのでな。幸いどちらも心当たりがある」

「そうなのか?」

「防壁に関しては簡単であろう?」


 そう言われて思い出す、ここの地盤は誰も破壊できないということを。


「あ、ああ。地盤をそのまま壁にするのか」

「そうだ。この地盤程防壁に向いた素材はなかろう」

「確かにな」


 俺の返事にソフィは自信ありげに話す。ソフィの言っていることを信じるのならその通りだ。


「拠点の留守番をしてくれそうな獣の心当たりってなんだ?」

「あの山があるであろう?」


 もう一つの心当たりに尋ねると、ソフィは北にある山を指さす。


「ああ」

「あそこには多様な獣が住んでおる。中には力を示せばその力を示した者に従う獣がいるからな。その獣を倒して力を示せばいい。狼とかな」

「狼!?」


 俺は狼と聞いてが思わず立ち上がる。


「どうかしたのか?」

「狼っていうのは四足歩行で、毛がフサフサしていて、凛々しい顔をしているあの獣か?」

「ま、まぁ、そうであるな」


 立ち上がった俺に問いかけるソフィに、俺は狼の特徴について詰め寄ると、彼女は少し困惑しながらも頷いた。


 やっぱりそうか!!


 狼は猫同様に飼ってみたいと思っていた動物。それがいるというのならすぐにでもあの山に行くしかないだろう。


「よし、すぐ捕まえにいくぞ!!」

「こら、ちょっと待て。まずは壁を造っておいた方が良かろう。そうでなければここから離れている間、我だけではシルを守り切れん」


 俺はすぐに山に行こうとするが、ソフィに止められる。


 そうか、防壁の話もしていたな。

 確かに壁が無いとどこからでも虫が入って来放題だ。


「そういえばそうだった。俺が山に行っている間にソフィが守ってくれるということか?」

「うむ。そのためにも防壁で周りを囲っておかねばなるまい」


 なんにせよ獣を捕まえに行っている間は俺かソフィのどちらかで守る必要がある。それをソフィがやってくれるようだ。


 何もないままではソフィでも虫を通してしまうかもしれないからな。


 しかし、一か所だけ入り口のある防壁なら、そこから入ってこようとする虫と、空から入ろうとする虫をブレスで焼き払えばいいから、ないよりはあった方が効率がいいだろう。


 それなら一刻も早く防壁を造った方がいい。


「それならすぐに防壁を造るぞ!!」

「だから待てと言っておろうに」

「なんだ?」


 俺はすぐに防壁に向かって走っていこうとすると、ソフィに再び止められてしまった。


「どう考えても我が乗せていった方が早かろう」

「あ、それもそうだな」


 そういえばソフィはドラゴンだった。


 人間の姿になっているとすぐに忘れてしまう。


 ソフィの言う通り、俺が走っていくよりも彼女に乗っていった方が早い。


「全く……狼ごときではしゃぎおって……」


 ソフィはヤレヤレとため息を吐いて首を振る。


「仕方ないだろ?俺はそういう獣を飼って過ごすのも夢だったんだ」

「バカ者!!我がいるであろうが!!」

「は?」


 俺が申し訳なさげに語ったら、なぜかソフィに怒鳴られてしまった。思わず目が点になって、間抜けな声を漏らす。


「我も人間から見れば分類上は獣であろうに。その我と一緒にいるというのに、狼なんぞに現を抜かしおって……」

「いやいや、ソフィはどう考えても獣ではないし、話も普通に通じる。飼うっていうのとは違うだろ」


 ソフィがそんなことを言うが、どう見てもソフィは人間に近い生き物だし、ドラゴン形態時はともかくとして、人間になっているとモフモフしたりできない。


「だとしても我が一番であろうが!!」


 ソフィがさっきからなんで怒っているのか全く理解できない。


「はぁ……とにかく、ソフィは獣扱いできないぞ。俺としては友達だと思っていたんだがな」


 俺としては何を言われてもソフィを獣扱いはできない。それよりはこっちに引っ越してきて初めてできた友人だと思っている。


「む……そうか、友人か。ならばよかろう」

「納得してくれたのか?」

「うむ」


 友達という言葉に何か思うところがあったのか、彼女は落ち着いてくれた。


 俺は安堵のため息を吐く。


 一体何だったんだ……。


 ソフィがなんであんなに怒ったのかは分からないが、大人しくなったのでこれ以上この話をするのは止めた方が良さそうだ。


「それじゃあ、防壁を造りにいこう」

「分かった。我が乗せていこう」


 俺達は森の近くまでソフィに乗って移動した。

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