第032話 一匹たりとも近づけさせはしない!!戦士の雄たけび

―ビクリッ


 その瞬間虫たちが全てが一瞬固まったかと思うと、まるで操られているかのように俺に視線を向ける。


 どうやら俺が脅威だということを認識してくれたらしいな。


 今の技は戦士の雄たけびウォークライ。雄たけびをあげることで自分を鼓舞すると同時に、モンスターの意識を俺に釘付けする技だ。


 敵を引き付ける技は他にもあるが、これが一番効果が高くてほぼすべてのモンスターを引き付けることができたし、ダンジョンのモンスターの攻撃は痛くないので俺が全部受けても問題なかったから好んで使っていた。


 これがルリが言っていた奇声の正体だ。


 俺は自分にモンスターの意識を集めることで皆が攻撃しやすいようにしていたんだが、気づいていなかったらしいな、残念なことに。


 そして俺に意識を向けた虫たちが一斉に俺に向かって集まってきて俺に群がった。


『な、なんだ今のは!?』


 ソフィが驚いた顔をしてこちらを見る。


『おい!!アイギス無事なのか!?』


 ソフィから俺を心配する声が聞こえた。


 モンスターに囲まれて攻撃を受けているだけなのに心配してくれるなんて優しい。パーティメンバーなんて誰も心配してくれなかったぞ。


 それどころか、攻撃を引き付けている俺のモンスターをなんの手間もなく倒しているだけで「助けてあげたんだから感謝してよね」と宣っていた。


 それに比べてソフィときたら……彼女は女神か?


 あ、いや彼女はドラゴンだった。


「問題ない!!俺にすべての敵の注意を引き付けただけだ!!こいつらが俺に群がっている内に俺ごとブレスで攻撃してくれ!!」


 ソフィのブレスは俺には効かなかったが、虫達に有効なことは分かっている。まとまっている間なら一網打尽に出来るはずだ。


『何をバカなことを言っておる!!そんなこと出来る訳なかろう?』


 どうやら俺を巻き込むことを心配してくれているらしい。


 優しいが、それは俺に限って言えば心配する必要がない。なぜなら俺は一度ソフィのブレスを直接この身に受けているからだ。


 あの時は俺は一切のダメージを負わなかった。


 つまりソフィのブレスは俺には効かず、モンスターだけを殲滅できる。


「それこそバカなことだ。俺がお前のブレスを受けてなんて言ったのか忘れたのか?」


 四の五の言っている場合ではないので、俺が敵に囲まれて全方位から攻撃を受ける中、ソフィに向かって挑発の言葉を吐いた。


『~~!?』


 俺の言葉に初対面の事を思い出したのか、虫の隙間から見えるソフィは、ドラゴン形態にも関わらず、口をパクパクとしながら驚きに顔を染めていた。


「いいから効果が切れない内に、さっさと全力で打ってこい!!」

『言いおったな小僧!!その言葉、ゆめゆめ忘れるでないぞ!!』


 俺は発破をかけるようにソフィを挑発すると、ソフィが怒りの波動を漏らしながら叫んだ。


 そうそう、それでいいんだ。


 ソフィはすぐさまブレスを放つために大きく息を吸い込んだ。


『死ぬなよ、アイギス!!』

「望むところだ!!」


 ソフィが放つ前に俺に声をかけてきたので俺は身構えた。


 次の瞬間、カッっと一瞬で目の前が真っ白になり、凄まじい閃光が俺に襲い掛かった。明らかに初めて俺に放ったブレスの数倍は大きい。


 はぁ……。このブレスを受けるのは二度目だが、温かい湯につかって全身をもみほぐされているみたいに滅茶苦茶気持ちいい。


 一日に一回くらい俺に向かってブレスを打ってもらおうかな。


 そう言えば、世界には温泉と言われる、お湯が沸きだす摩訶不思議な場所があると聞いたことがある。


 ぜひともこの土地のどこかにも湧いてくれないだろうか。そしたら広い風呂を建造してのんびり浸かりたい。夢が広がるなぁ。


 今後の展望を考えていたら徐々に辺りが色を取り戻し、俺が持ち主である土地が見えてきた。


 辺りには虫の一匹もいなくなり、俺だけがポツンと一人立ちつくしている。


『これでも無傷か……。やはりお主は異常だな』


 傷一つ付いていない俺を見て、若干自信を無くしたように落ち込んだ声色で俺に呟くソフィ。


「俺にはお前に強さの比較対象がないから分からないな」


 俺は肩を竦めて首を振る。


 せめてダンジョンに行ってアルバ達が苦戦したモンスターの一つでも倒してもらわないと、ソフィの強さをいまいち測ることが出来ない。


『先程のブレスは我の全力八割程の力で放った。街の一つくらいまっさらになるわ!!』

「ふーん」


 確かにソフィの言葉の通りならそれは凄いことだ。本当ならな。


『あ、お主信じておらぬな!!』


 ソフィはそんな俺の心の声を読んだかのように俺に顔を近づけて抗議する。


「信じてるって。それ程の威力があるなんて凄いじゃないか」

『その顔は全く本当だと思っていない顔だ。よし分かった。今から街一つを吹き飛ばしにいくぞ。そうすれば流石のお主も信じよう』


 俺が適当に褒めたらソフィが本気で街を滅ぼしに行こうと提案する。


 流石にやり過ぎたみたいだ。


「止めろって!!信じた!!信じたから!!絶対そんなことするなよ!!」

『ふむ。分かればいいのだ』


 俺は慌ててソフィをなだめると、ソフィは偉そうにドラゴンの姿のままドヤ顔をする。


「でももし本当にそんなことをしたらどうなるか分かってるな?」

『わ、悪かった!!でも、お主も悪いんだぞ?我を信じようとしないんだからの』


 ちょっとその顔がむかついたので逆にこちらから凄むと、ソフィは焦りながらも俺を非難する。


 まぁ、信じなかったのは俺も悪かったとは思う。


「はぁ……悪かった。まぁその内ソフィの本気を見る機会もあるだろうし、それまではその位の力はあると思っておくさ」


 ソフィのブレスで街一つが消し飛ぶというのは未だに想像できないが、虫たちにはきちんと効果があり、あれだけの数を塵一つなく消滅させられるようだから、ひとまずそのくらいの威力があるということで納得しておく。


『今はそれでよかろう。その時がくれば我の強さも分かるだろう』

「ああそうだな。それじゃあ、また虫が来るかもしれないから一旦休憩しよう」

『うむ』


 俺達は少し疲れたので一旦魔力を含んだ水でも飲んで落ち着くことにした。


 ソフィは光に包まれてその姿を人の物へと変えていく。そうなると当然また以前と同じことが起こるわけだ。


「服はどうにからないのか!?」


 今度は後ろ姿だが、その華奢で艶めかしい背中と、つるんと張りのあるお尻が丸だしだった。


 俺は早急に街に野菜を売りにいってソフィの服を買うことを決意した。

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