第031話 農家の天敵

「ここまで生育がいいと試してみたいことがあるな」


 ソフィは全てを作物を収穫した後で呟いた。


「何をだ?」

「ん?それは他の季節の種を植えたらどうなるか、ということだ」

「確かに、たった一日で育つのなら他の季節の種も撒いてみたいくなるな」

「であろう?」


 ソフィが言ったことは確かに凄く気になることだ。


「ちょっとだけ試してみるか」

「いいのか?大事な種なのであろう?」


 興味が出た俺が提案してみると、ソフィは俺に不安そうに尋ねた。


 ソフィの言う通り大事な種ではある。しかし、少し植えるくらいなら誤差のようなものだし、結果が出れば儲けものだ。


 それにこういう事情なら母さんも許してくれるだろう。


「ちょっとくらいならいいさ。もし季節問わず育っていつでもいろんな野菜が食べられるなら俺も嬉しいからな」

「そうか。それでは試してみよう」

「ああ」


 俺たちは、畑を拡張して同じ大きさの畑をもう三つ用意し、キャーベツとセリロの畑の収穫した部分もついでに耕しなおしていく。


 新しい方にちょっとずつ、キャーベツとセリロの他にもらってきたモロコシー、トメッツ、アマイモ、マルネギ、レンコーン、ディーコンの種を分けて少量植えた。


 ここまでやって今日も暗くなってきたので夜ご飯にセリロの料理を食べて、就寝した。


 翌日。


「予想通りの結果になったな……」

「うむ。信じられんな……」


 俺たちは畑を見て呆然となる。なぜなら季節に関わらずに全てほぼの野菜が成っていたからだ。しかし、一つだけ実がなっていない。


「モロコシーはなんで実をつけていないんだ?」


 それはモロコシーだった。


「それは受粉させていないからであろうな」

「ああ、そういうことか」


 ソフィの言葉に俺は納得する。


 俺は小さいころに好んで畑を手伝っていたが、その作業の中には受粉作業もあった。


 そういえば、受粉が必要な野菜もあったな。


「今日は受粉作業と残りの種まきをしよう」

「うむ」


 その日は受粉作業と残りの種も植えてしまった。


「お、こっちはもう種がとれるぞ」

「二日で種までとれるとはな」


 昨日収穫しなかった分のキャーベツとセリロからはすでに種がとれる状態になっている。種の収穫も行い、耕しなおした。


『うまぁあああああああああああああい!!』


 そしてその日もできたてのトメッツ、アマイモ、マルネギ、レンコーン、ディーコンを食べて叫ぶことになったのは仕方のないことだろう。


 さらに次の日には昨日植えたばかりのモロコシー以外の農作物は全て実を付けていた。


 今日はその収穫作業とモロコシーの受粉が主な作業内容だ。


「いやぁ、まさかもらった種がたった数日でなくなるとは思わなかったな」

「それはそうであろうな」


 もらってきた種は一年を通して一巡して育てるはずが、物の数日で全て植え終えるどころか、モロコシー以外の収穫まで終わってしまった。


 これなら通常出荷できる量の何倍、いや何十倍もの農作物を出荷できる。ということはそれだけ稼げるということだ。


 しかも種まきの頻度を調整すれば、孤児院に仕送りしつつも、ものすごくのんびりと生活もできるはず。


 俺は俄然やる気が出てくる。

 

「それはそうと、どうやら来客のようだぞ?」

「来客?」


 話をしながら収穫作業を行っていた俺達だが、ソフィーが突然森の方を見つめる。その視線の先には土煙が起こっていて、それがこちらに向かってくるのが見えた。


 その元凶は森の中の虫たちがこちらに向かって疾走してきている姿だった。


 来客と言うのは人間ではなくそういう意味か。

 一体どうしてあの虫はこっちの向かってきているんだ?


「なぁソフィー。あいつらがこっちに向かってきている理由は分かるか?」

「これは推測だが、おそらくここの野菜が目当てではないか?」

「そういうことか」


 孤児院の畑で農作物を育てていた時も虫が集ってきたことがあった。


 ここでも同じようなことが起こっているということか。しかも孤児院にやってくる虫の数十倍は大きい奴らが群れを成してやってきている。

 ここにある畑程度一瞬で食い尽くされてしまうだろう。


 そんなことさせるわけにはいかない。 

 俺はこの野菜を売って孤児院に仕送りするんだ。

 そうやすやすと喰われてたまるか。

 

「兎に角、俺が突っ込んで気を引くから攻撃してくれ」

「分かった」


 俺は素手で戦うしかないので構えて出来るだけ遠くにいるうちに突っ込んでいくしかない。


 俺は防具など付けぬまま虫の大軍に向かって走る。


「おらぁあああああああ!!」


 二分もすると接敵した。俺は思い切り戦闘にいた蜘蛛みたいな虫を殴り飛ばした。


「ギィヤァアアッ」


 虫は俺が殴った方向に多数の虫を巻き込みながら吹っ飛んでいく。だからと言って虫の群れの侵攻が止まるわけじゃない。後から後から虫がやってくる。


 それでも俺は必死に殴りまくって出来るだけ後ろに通さないように虫をふっとばし続けた。しかし、それでも数が増え続け、徐々に取りこぼす個体が増えてくる。


『鬱陶し羽虫どもが!!』


 後ろではソフィーがドラゴンに戻って虫たちを焼いてくれているが、そろそろ数が多すぎてマズい状況だ。


「ちっ。しまった!?」


 案の定、ソフィーも殲滅しきれずに後ろに通してしまった。


 仕方がない……。


 ソフィーに奇声が煩いと嫌われてしまうかもしれないが、それも甘んじて受けよう。


 農作物は俺が守って見せる!!


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺は力を集中させ、一度目を閉じて呼吸を整えた後、カッと目を見開いて力の限りの叫び声をあげた。

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