すうぃーと すうぃーと

みなみくん

すうぃーと すうぃーと

「そんでさ、あいつ他にも女居てさ。偶然家行ったら真っ最中で」



アイスティーの氷は溶けてコースターは濡れている



かれこれ2時間



彼氏に二股をされて、挙句その相手との真っ最中を目撃したショックを泣きながら聞かされているあたし



交際1ヶ月



相手の何を知るわけでもない


端的に


自分以外の女とやってるのがショックでその愚痴をあたしは聞かされている


そんな認識しかうまれなかった



出会いはアプリで知り合ってすぐ交際


期間も、11月からといい、クリスマスへの焦りが原動ってとこだろうし、差程精神的ダメージはないだろ


とは思うも流石に言わないではいるけれど


出会ってその日に寝て、そんなのほかの女にもやってんに決まってんじゃんそんな奴


そして、



あんたも同じよーなもんでしょ



頭の中でリフレイン



ショックを受けてるのは心じゃなくて体



だから別に同情する気もさほど心配もする気にもなれない


時間をかければいいってもんでもないけど


なんなら、もちっと時間をかけて相手の人間性を見てから段階を踏みなよと思うし、最後はそれで締めようと思う



このままほっとくと24時間営業のファミレスをいい事に、明日の朝まで続きそうだから



蓮(れん)はいいなぁ


ぽつりと呟く明日花(あすか)


「なにが?」


「蓮田君。可愛いし皆に優しいし人気者だし、でも蓮ちゃん以外の女子とは、ほんとーに分かんないようにそれとなく、ちゃんと少し距離空けてるし。んで蓮は蓮でこれまた蓮田君が隣に居なかったら他校の男がこぞってお近付きになりたい可愛いと。2人を見てると不平等を感じるよ」


口を尖らせる明日香


「いや、柊(ひいらぎ)は、、」


突然出る幼なじみの名前


今でこそ、そこそこ人とコミュニケーションがとれるけど、単に元々女子が苦手なだけで、あたしは幼なじみだから大丈夫ってだけなんだけど



あとなんか誤解してる?


いいなってなにがよ


柊は彼氏じゃない


両親たちが勝手にくっつけようとしてるのと、皆が勘違いしてるだけ



子供の頃から隣に居るのが当たり前で、それが今もまだ変わらないってだけで


それに柊は未だに子供の頃から成長してないのか、子供の頃の好きをそのまま未だにあたしに持っているのかもしれないけど、それはちょっとニュアンスが違う



まあでも流石にもう来月で18歳、次の春大学に行ったら少しは変わるかなって思う


少し複雑な気もするけど



「いやもでももないでしょ。明らかじゃん。どんだけ告白されてもごめんなさいと蓮ちゃんがの繰り返し。しかも躊躇ったさえ一度もないってほんと凄いわよね。」




ひとしきり冒頭の悲しみと愚痴を吐き出し、今度はあたしと柊を羨む話になり


結局なにがなんなのか分からないまま、日付が変わろうとする頃店を後にした



まあ明日香は少しはスッキリしてたようで一応良かった





一応、あたしらの年代の男なんて性と好きの差なんてあってないよーなもんでごっちゃになってんだから、段階をふむとか、相手を知ってから距離を近づけるとかってありきたりな励ましと注意をして別れた



最寄りの駅に着くと柊が改札に居た



「お義母さんからそろそろ帰るって聞いて迎えに行ってくれって。寒いし暗いし夜道危ないから迎えにきたよー」



お義母さん、、


多分深い意味は分かってないだろう


うちの母親が、柊が蓮ちゃんママって呼んでたのを高校生に上がる時にお義母さんと呼ぶように強制してこうなった


だけ



「うん!」

一瞬の迷いも疑問も持たずに即答していたから



柊は何も思わないのだろうか


学年問わず可愛い可愛いと言われてモテるのに、あたし以外の女子に異性としての興味を示さず、、これはある種不健全なのでは




ラノベに出てくるよーな学校で学年問わずいいなーって言われるようなやつ


ストレートのセミロングのブラウンベースにインナーカラーの髪に少し童顔な端正な顔


見慣れてなんとも思わないけど


改めてモテるルックスだわ



「早く帰ろーお義母さんハンバーグつくってくれてるよー、僕早く食べたい」


柊の家庭は母子家庭で母親の椛さん(もみじ)は出張が多く、うちの母親と椛さんは幼なじみで、出張で家を空ける程忙しい時が多く、昔からうちの親が柊の面倒を見てきた


柊はうちで食事して寝泊まりする事が多い


昔からの習慣


「え、あんたまだ食べてないの?先に食べれば良かったじゃん」



「さっきアルバイト終わったとこだし、少し待ったら蓮ちゃん帰ってくるから一緒に食べようと思って」


にへら


と子供っぽく笑う柊


そういえばここ2ヶ月ほどアルバイトを始めたんだった



ふと、口を尖らせる明日香の顔が浮かんだ



ハンバーグを食べて、柊が観たいと借りてきた、去年話題になった新作のDVDを観て、、、ってこれ去年一緒に見に行ったやつじゃん


と思いながら鑑賞していつの間にか2人とも眠ってしまった


柊は家でDVDを見ると終わり際にはうとうとし始めるからベットでブランケットを掛けながらそのまま寝れるようにしている


あたしもつられてそのまま眠ってしまうようになったんだけど





クリスマスイブ


椛さんは先週から、あっちこっちに年の瀬の仕事の納期確認やらでキャリーを持って慌ただしく出ていった


「ごめんねー蓮ちゃんいつも。柊宜しくね。大晦日には帰るから。お年玉奮発するから期待しててねっ。あ、東京と大阪の支店にも行ってくるからお土産買ってくるわね」

年末にあちこち飛びまわる多忙の苦労を感じさせない、柊と同じ笑顔をした椛さん





冬休み前、クラスの男子から他校の知らない男子の写メを見せられ、何人からかこぞって連作先の交換とクリスマスの誘いがクッションを挟んで飛んで来た


門の前に待ってる人まで居た



「学校じゃ皆知ってるから諦めてるけど、他校はまだ無謀なことする奴いるのね。寒い中ご苦労さんだね。柊もアンタもほんと漫画や小説のキャラみたい」


いつもすました委員長の楓が笑ってた



「蓮ちゃーん、お義母さんが帰りスーパーで買い物してきてほしーってー」


そのタイミングに余計に笑う楓


「柊君、何買うのー?」


バカにしてるわけでないのは分かるが

何処か子供を相手にするような口ぶりに変わる楓


クラスのほかの男子には当たりが強いのに


「あ、いいんちょ。なんか仕事とか大丈夫?あるなら手伝ってから帰るよ?蓮ちゃんとチキンとケーキ買ってきてってお義母さんから連絡きたんだー」


「んーん、雑務あるだけだから大丈夫だよ。今日はイブなんだから早い時間に売り切れちゃうから早く蓮とスーパー行かなきゃだよ」


「あ、確かに!」


微笑ましく柊を見る楓


楓は男嫌いだ、男という生き物全般にというわけではないが


同世代とか子供じゃん、考えられない。が、原因らしい。

大学に入ったら20代中盤の誠実な社会人を探すわよちゃんと、といつか言ってた


だからそれまでは色恋沙汰には手を出さないと


とても18の高校生には見えないほど大人びたクールビューティーってやつで、雰囲気的には会社の女上司キャラ


なんなら今にでもスーツを着てメイクをして社会人を名乗ってコンパにいけそうなくらい



そんな楓も、柊にだけはそのオーラも口調もない



「あっ」


と、思いついたようにぼそぼそ耳打ちする楓


それを聞いてびっくりして慌てる柊


一瞬不安そうにこっちを見る


「なによ」


「え、な!なんでもない」


「別に。たいしたことじゃないわよ」


たいしたことじゃない事で急に慌てて不安そうな顔するか?



そしてまた耳打ち


「それは大丈夫!ちゃんと言われてすぐ、、」


と言いかけたところで楓に口を塞がれる柊


なら大丈夫ねと柊の頭をポンポンとすると

この上なく満足そうな笑みを浮かべた


じゃあ職員室行くからまた新学期ね


と、楓は去っていった


教室の外で先程から待っていた男子が楓に駆け寄ると


数秒で膝を落として項垂れた



絶対零度とかそーゆー技使えるんじゃないかってあたしは楓に度々思う


当たりが強くとも、楓ファンは多い



委員長であり、生徒会の書記を3年やっているが、

1年から当選したのは能力は勿論あるが、やはり容姿であり男子の票を大いに獲得したことにもよる


翌年からはキチンと充分な能力のみで生徒会からの要望で選挙なくしてそのまま2年続けた楓



楓とは中学から一緒だったけど


今でも謎のまま


なぜあたしと特に柊にはフランクに接するのか





お母さんに言われたものをスーパーで買って家に帰る



いつからか、お母さんは大抵の用事をあたしでなく柊に連絡するようになった


面倒で無視すると柊1人に負担をかけるから、柊が1人でいいも言っても2人で頼まれ事をする習慣


近所のスーパーでは学生結婚してる2人とひそひそと聞こえてくることが最近出てきた



なんだかなぁ



家に帰り柊とお母さんと3人で夕食の支度をする


今の子ってクリスマスなんて家に居なくて出かけてるだろうに、うちはクリスマス家族団欒で過ごせるってママ嬉しいわーと、感嘆するお母さん


来年は椛になんとか有給取らせて来させたいわーと呟く


つい今しがた最近の子の話をした上、来年も家族団欒の予定がオートで決められてる


高校3年にもなって家で家族団欒のクリスマス


それを否定する気は無い


別に用事も作る気ないし、家族が嬉しそうであればそれはそれでいいし



お父さんが帰ってきてお母さん主催の家族団欒クリスマス会が始まる


今更ながら、家族団欒には柊もなんの違和感もなく含まれる


もうなんか柊がどっちの家の子か分からない時がある



お母さんもお父さんも、あたしと柊にプレゼントを

くれた



お揃いのピアスとちょっと有名なブランドのネックレス


あたしも柊も一つだけピアスがあいてる


中学の卒業の時に高校生だからオシャレしなきゃとお母さんが2人にピアッサーとピアスをくれた



「すごーい、ありがとお義父さんお母さん。蓮ちゃんお揃いのだよー凄いよー」


テンションが上がって凄いと繰り返す柊


両親はとてつもなく嬉しそうな顔をしてる



「あ、ひーちゃん、椛大晦日まで出張だから冬休みはこっちにいなさいね。冬におうちで1人で過ごすなんて寂しい事しちゃダメよ。椛も帰ってきたら疲れてるだろうし、折角の正月休みは家事とか楽させたいし、呼ぶわね」


「はーい、ありがとお義母さん」



柊は年の半分くらいはうちにいる

椛さんも出張が長い時、重なった時の明けはうちに来る


家にいた方が、一人で居たい時とか、その方が休まるんじゃないかと思う時もあるけど、当の本人はそんな素振りをまったく見せないし




いつの間にかこっちが実家の感覚になってるみたい



お母さんが、お揃いの新しいピアスとネックレスを付けてるあたしたちの写メを嬉しそうに何枚も撮って、ケーキを食べて


ようやく2階に、あたしの部屋へ戻った



決めてたわけじゃないけど、丁度いいタイミングだと思ってあたしは柊に聞いた



「柊はその、最近バイト始めたりしたみたいだけど、そのーなんていうか、、他はいいの?

もっと自由にしなくていいの?1人のが気楽とか。そうじゃなくても殆ど一人暮らしみたいなもんなんだし、好きに遊べるじゃん。お母さん達に気遣ってない?」


ぽかんとした顔をした柊


「え、自由にって、別に何も不自由してないよ?

お義母さんやお義父さん、蓮ちゃんがいるから。

少し言い方悪いけど、普通の母子家庭?みたいな一人ぼっちみたいな思いしたことないし。

お母さん2人居るって感じでちょっと不思議だなーって昔は思ったけど」


ほんとにカスリもしない程に柊は不満などないようだった


反抗期とか男の子あるあるを何処かに置き忘れてきたのかと思った


「あ、そうだ。ちょっと目瞑ってて蓮ちゃん」



「良いけど、、なにいきなり?」


「お願いっ、いいって言うまでダメだよ」


ガサッと、袋?のような音がした




「いいよー」


言われて目を開けると袋が差し出されていた



「クリスマスプレゼント!あ、ちゃんとアルバイトしたお金で買ったよ!いいんちょの親戚がカフェやってて、そこでアルバイトさせてもらったんだ」


「え、どゆこと?」


楓、なにしてんのあんた



「いいんちょが、自分でアルバイトしたお金でクリスマスプレゼントちゃんとあげなさいって。それで、親戚がカフェやってるからそこにしなってゆってくれたから、折角だからそこでアルバイトさせてもらってたんだー」


なんとなく学校のの耳打ちがこれに関することだと確信し、納得した



「ありがと、、あけていい?」


「うんっ」

にこにこしながらも、少しだけ不安と緊張が見える柊の顔



開けると、箱が2つあって、リングがおさまってた



「サイズ、、あっ」



先月、楓になんの会話のくだりが忘れたけど確かアクセサリーの会話になった時聞かれた気がした



・・・・・・

左手の薬指の




両親からのピアスとネックレス


柊がリングを買うことを知ってたからアクセサリー類にしたのか



「ねえ、流石に分かるよね?左手の薬指の意味くらい」



下を向きながら恥ずかしそうにする柊



「いいんちょにもお義母たちにも言ったんだけど、絶対結婚する時しかつけちゃダメってわけじゃないんだし、好きな人には左手の薬指のがいいって、、」


確信犯の楓と両親のその時の姿が安易に想像できた


それと同時に嬉しい、という気持ちと、ある事に気づいた


柊の好きは子供の頃の、子供の好きだと思ってて


今もそう大差はないものだと思ってたけど、あのまんまでは無いことを


そして嬉しいと思ったあたしの気持ちも



「ありがと」


可愛げ無いと自分で思うも出た言葉はそれだけだった


それしか出せなかった




手を差し出して、つけてと無言で要求する



恥ずかしそうにつける柊



お揃いのピアスにネックレス、左手の薬指の指環




ほんとにこれどこのパカップルなのよ



新学期大いに不満顔で明日香で問いつめられ


してやったりの顔をしてくる楓が浮かんだ



ま、いっか



柊は柊で付き合ったのとかプロポーズしたのかと周りに問い詰められるだろう


ちょっとした意地悪で、交際の告白の言葉を要求する事をしなかった







案の定、冬休み明け、クラスメイトを始め他のクラスも含めて受験ムードにも関わらずあたしたちの指輪を見て大騒ぎ




先生は真顔で柊に


「式はいつだ、卒業式に合わせてか?というか、出来てない、、よな?」

と、少し青ざめてもいた



あたしも問い詰められて大変だったけど


こんな騒ぎを想定しない柊を見て面白かった



「まあ、これで安心ね」


隣で涼しい顔した黒幕の楓が満足そうにしていた



「あんたねぇ」



「ありがと案件でしょ。急いて不要な関係性のひび割れを防ぎ、お呼びでない第三者の登場を未然に防ぐ最適なお節介、、クリスマスプレゼントを蓮にしたのよ。大学進学した時、実感するわよ」




「もう、、」



そういいつつ



最後にありがと


と、付け足した




「ま、これで焦ったり気にしたりすることなく気長に柊君のペースでいんじゃない?ある意味既成事実はもう出来たんだし」



悪意はない、笑顔の楓




告白とか交際とか体の関係とか


色々すっ飛ばしてるあたし達



まあ、いいか




傍から見たら婚約指輪をつけて、今日も柊は実家で夕食と就寝と共にする



ここまできたらもう、逆にハッキリ白黒とか、まあその時がきたらでいいやと思った




「お義母さんオムライス美味しー」



柊は、今日も我が家にいる



おしまい


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

すうぃーと すうぃーと みなみくん @minamikun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る