旅の途中
「おはようございます」
「お世話になりました」
「おう、二人とも今日で最後か……また来てくれや」
オヤジさんは寂しそうにそう言う。いくらでもパーティが泊まっていただろうに、俺たちの時にも惜しんでくれるというのは少し嬉しかった。
「じゃあ朝食お願いします」
「おう! 任せとけ!」
そうして食堂に着くとパンとスープが並んでいた。
「お前さんたち随分とウチのコーンスープを気に入ってたみたいだからな、たっぷり用意しておいたぞ」
ちゃんとパンも焼きたてのようだ、いい香りが漂ってくる。
「ラック! 美味しいですよこれ!」
もうすでに食べ始めているファルを追いかけて俺も食べ始める。焼きたてパンにたっぷりのコーンスープ、これだけで食事としては十分だった。
「ほれ、お前さん方の出発記念だ、縁起物を一つやるよ」
そこには小さなエビが茹で上げられてピンク色の細かいビーズのようなものがたっぷりお皿にのせてあった。
「何故これを?」
「あー……なんだったかな? どこかの国では長寿の縁起物らしいんだわ、ちょうど安く売ってたんでな、お前さんたちに長生きしてもらおうと思ってな」
「ありがとうございます」
「そこまでしてくれるんですか、助かります」
「気にすんな! たまたま魚市場で安売りしてただけだよ」
ゴクリとコーンスープを飲み干して海老をつまみながらパンをかじる。しばらく食べたあとで身支度を調えた。
「じゃあな! また来てくれるのを祈ってるからな!」
「はい! お世話になりました!」
「また来ますよ。私たちは流れ者ですからね」
そうして馬車の停留所にきた、朝一の馬車に乗り込む。馬車内部には流れ者らしき人がたくさん乗っていた。金持ちの商人でも乗っていれば護衛代わりに雇われるようなラッキーもあるがそんなことはないようだ。
「皆様いいですか? この馬車はキール町行きの馬車ですよ、問題無ければ出発します」
皆無言で頷いた。いつも通りの経歴ロンダリングだが、この町で悪評を立てていなかったことに感慨を覚えた。いつもボロボロの評価になってからの移動だったので、名前が悪い意味を持たないままの移動には慣れていない。
そんな俺の考えは露知らず、馬車は発進していった。待ちが遠く彼方に見えてきたところで懐かしさに後ろ髪を引かれたが、何時まで経っても同じ場所にいるとロクなことにならないと俺の心のどこかが叫んでいた。
ガタゴトと揺られていく途中で太陽が沈んでしまった。キール村までは一泊二日、夜盗に襲われる可能性がありそうな人間は一人もいない。冒険者なら戦闘スキルが高いのでわざわざ危険を冒して安い金目当てに狙う奴はいなかった。
とはいえ魔物はそんな人間様の事情は関係ないらしく襲いかかってくる。
始めに気付いた男が舌打ちをした。
「ムーンウルフだな……戦闘が出来るやつは全員外に出ろ!」
俺は舌打ちをしながら馬車から出る。
『サモン』
この人数なら俺が召喚魔法を使っている間くらい耐えてくれるだろう。俺は少しでも助力ができる召喚獣が出てくることを祈りながらランダム召喚をした。
…………
空が……赤かった……
ソレは一瞬で狼の群れを滅ぼし、俺の精神に話しかけてきた。
「矮小なる人間よ、我を呼び出したからにはそれなりの対価を支払ってもらう」
みんながドン引きしている中、俺は何が報酬として要求されるだろうかとドキドキしていた。
「報酬でしょうか?」
俺がへりくだって答える。金貨くらいならあげるから帰還して欲しかった。
「いや、我々炎の精霊界にも水が必要になってな。最近、水を超高温にすると燃え上がることが発見されたのだ。だがあいにく我の世界に水は無い。ここにあるなら頂いておきたい」
「そんなことでしたら……」
正十二角形をした炎の精霊さんを近くの水場に連れて行く。
「ほう、これほどの水があるとは……では頂こう」
ぽっかりと空いた穴に水を吸いこむ。どうやらこの場で燃え出したりはしないらしい。
「では帰還魔法を使ってくれ」
「分かりました『リターン』」
こうして炎の精霊は自分たちの世界へと帰ってくれた。水場から馬車に戻ると俺は注目の的だった。
「お前すごいな! 今の精霊だろ? 精霊召喚とかスゲーわ」
「初めて見ました……」
「ウチのパーティに一人欲しいですね」
そんな反応をされたものだから、アレが
「ラック!」
ファルは俺の方を向いてサムズアップしていた。アイツにこういうときこそ戦って欲しいのだが、馬車酔いでそれどころではなかったらしい。
たき火を囲んで夜の監視をしながら日が昇る頃には馬車も出発の準備が出来ていた。
「皆さんよろしいかな? 少々トラブルもあったようだが本日昼には着きますのでゆっくりお休みください」
寝ずの番が終わったので馬車の中は眠気に包まれていた。
そしてファルが二回くらいゲロを吐いた頃に、キール町が見えてきた。
これからのことに期待をしながら俺たちは町の入り口へと向かうのだった。
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