3章 51話 穴からの脱出01

「ふん、どうせ謝るならその大きな胸に果実だかゴム玉が入っているかは

 知りませんがとても目障りなの。だから早く外してくれる?」


「胸など所詮は脂肪の塊ですよね~。お腹周りにある贅肉と一緒、一緒」


思えばアイシアお姉ちゃんも口を酸っぱくして、

僕に助言してくれていたじゃないか?

貧乳族と巨乳族の対立は共存出来ぬ宿命を背負った悲しき運命ってヤツで。

触らぬ神に祟りなし。そう簡単に転生して男が女の子になれるはずないよな?


「だからその一言が余計なのよ。まったく少しは反省してよね」


ツナギ服のスカートをめくり上げると案の状、

胸には大きな果実が巻き付けてあった。これが僕のおっぱいの真実と闇。

果物は好きだけどこれを機会に特にまん丸い果実は嫌いになるかもしれない。


「それでいつまで胸ばかり見ているのよ、変態っ」


「違うって。この疑似おっぱいである果物を見なかったら、

 そもそも外せないよね? 先に男のメンツのためにも言わせて貰うけど

 誰もが心眼って剣士の極み言葉は持ち合わせていないから」


「はぁ、嫌だ、嫌だ屁理屈ばかりこねて。これだから男って頑固で嫌なのよ。

 もう鈍感なあんたでも自分が生け贄にされたってことは理解できるでしょ」


「いや僕は落とされた芸人がどこまで我慢できるかって

 耐久時間の検証と思ってだなぁ~」


ロールプレイングゲームのお馴染みの生け贄イベント。

年齢も抵抗力もレベルアップしているから何も驚きもしない。


「もう頭にカビが生えているんじゃない?

 死にたくなかったらその無駄な重りを外して、

 さっさとこれで登ってきなさい」


疑似おっぱいに魅了されていたのか?

いつの間にか地底人が住む暗き穴には天へと続くロープが投げ込まれた。

あんなにおっぱいを目の敵にしていたのも僕のことを思ってなんじゃ……。

重りがあって崖を登るのは天と地の差である。


「ロープの先は大きな木に固く結んであるわ。

 だから玲音の体重でもロープは支えられると思う」


僕の前にそびえ立つのは垂直な大きな壁。

果たして僕の腕力でこの高さを無事によじ登れるだろうか?

この傾斜よりは滑らかな神々の双璧だって僕には無理だったんだ。

今は上で待つ鬼軍曹がいるだけで。傍で助けてくれたスフレはもういない。


「なにモタモタしているのよ。早く登りなさいよっ」


「実は古くから右肩を痛めていて……」


落ちて死ぬのが怖い。厳密には落ちて苦しんで死ぬのが怖いかもしれない。

もしあの時アリシヤに出会わなければ……傷だらけの体にトドメの弓矢。

学校で起こった精神的ダメージも凄かったけど命に直結する肉体のダメージも

相当な恐怖を植え付けられたみたいで完全に足が震えている。

それに僕はカティアとの約束でスフレを見つけるまでは決して死ねないから。


「もう武者震いって強がりは言わないでよね。危ないからそこを退いてっ」


「……えぇ? 待って」


僕の返事も聞かずにナーニャは地の穴に飛び込んでくる。

いったいナーニャのどんな脚力をしているんだろって、まったくもう。


「はーい、着地大成功っ!」


「はーい、なにが手を上げて着地大成功だよ。

 僕に接触して怪我しなかったから良しとしてだな?」


いやあの時の田崎さんみたいに体が絡み合った方が

もっとナーニャの温もりを感じられたんじゃないか?


「なに赤くなっているのよ。

 ふふふ、あたしあんたの思考回路分かったっちゃ」


「なんだよ? その不適な怪しい笑みは?」


やばい、この展開だとナーニャの思い通りの変態だと思われてしまう。


「さっき玲音はあたしがロープを伝って降りてくるって思っていたでしょ。

 ついでに上を見上げてまたあたしのパンツを覗こうと下心丸出しで。

 これだから男って嫌なのよね~」


「……そ、それはナーニャの自信過剰の思い込みってヤツでさ。

 そう、このまま2人とも共倒れになったら元も子もないだろって。

 だから僕は助けを呼ぶのがか弱い女の子のセオリーだと思ってだな?」


「ホントかな?」


女の子に前屈みで見詰められるともう気持ちが抑えられなくて、


「ごめん、僕は嘘をついていました。

 それは一般的な例で、何事にも例外はありますよね?

 はい、例えば筋肉モリモリの獣耳の女の子とか?」


「いーーだ。誰が筋肉モリモリよ。

 あたしだって好きでこうなったんじゃないんだから……」


せっかく高くガードをしたのに。

ナーニャの豪快な回し蹴りが飛んでこなかった。

別にパンツを拝みたくてボケたわけではなくて……。

予想外の展開に僕自身も驚いている。

誰にだっていじられたくない体のコンプレックスは1つや2つある。

筋肉は意図的に鍛えない限りモリモリにはならないと思うけど。

特撮ヒーローのバッタ仮面のように体を改造されたとか?

畑や井戸の水くみの日常生活で知らず知らずに鍛えられた

可能性だって十分に考えられる。

こうやって僕を助けに来てくれたのにもナーニャの筋肉のおかげ。

周りにクッションもない場所で僕を蹴らなかったナーニャの優しさも

考慮するともうすることは決まっている。


「……ごめんなさい」


ナーニャの傷口が拡がらないように今回は素直に謝ろう。


「なに男がメソメソしているのよ。

 早くあたしと玲音を縛るロープの手伝いをしてよね。

 さっさと行動しないともう夜になっちゃうよ」


「僕はSMプレイは痛そうで嫌なんだって……切り替え、早っ!」


もしかしてナーニャさんって湖も砂漠となるドライな性格?


「なに勘違いしているのよ、変態っ。

 このあたしが玲音を背負って地上まで脱出するんだから感謝しなさいよ」


これ以上ナーニャには迷惑はかけられない。

でも無理に怪我して僕がこれ以上に足手まといになっても困る。

それに今の僕は昔の僕とは違う。

スフレを助けるってカティアと約束したんだ。

せっかくのナーニャの提案に維持を張ってどうするっていうんだ?

ナーニャをか弱い女の子と思うな? じゃあ強靱な男?

それもイメージとかけ離れていてそもそもナーニャに失礼だ。

そうだ? 僕を助けてくれる軍隊長の女神様ってそう思うことにしよう。


「アイアイサーーーー」


僕はナーニャに軽く敬礼して頭を下げた。

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