2章 40話 初めての奴隷生活 08
僕とナンバー32さんは黙々と薄暗い牢屋に囲まれた狭い道を歩く。
時よりあちこちから子供のうめき声や獣臭の混じった
腐敗臭の香りが漂ってくる。
まるでペットショップを悪化して闇落ちさせたようないたたまれない空間。
どれだけ僕が自由に生きていたってことが改めて感じる。
「カティアちゃんに残って貰って本当にすまない」
壊れた玩具のようにナンバー32さんがまたカティアへの謝罪を言い、
「もう喋らないで下さい。傷に触りますよナンバー32さん」
「カティアちゃんごめんな」
そのループの会話を何度僕は繰り返したんだろうか?
「おっと危ない」
足下の段差に引っかかったみたいで、
僕はとっさにナンバー32さんの体を支える。
「大丈夫ですか? ナンバー32さん」
「あれ、あれ、カティアちゃんに俺は完全治療して貰ったはずなのに。
どうして手足が利かなくなるんだよぉーーー
教えてくれよな、レオンハルトっ」
いつも冷静沈着だったナンバー32さんが子供のように慌てふためいている。
「きっとナンバー32さんは疲れているだけなんですよ。
やっぱり僕がおんぶして運びますね、さあ、しゃがみますので
肩をしっかりと掴んで下さいね」
そう言って僕はしゃがむと、
「……すまない」
やつれた獣人の体。ナンバー32さんは立派な成人した男のはずなのに
凄く体重が軽くて。もう見た目は獣人の肌ではなくホラー映画で出てくる
ゾンビなようなくすんだ肌で。足の爪先まで血が垂れてぽとぽと流れて、
廊下を真っ赤に染め上げていく。
「カティアちゃんごめんな」
謝るのは僕の方だ。何が天才美少女僧侶カティアだよ、まったく。
あの年頃なら中二病が発動する気持ちは分かるけど
もっと時と場所を考えてくれよな?
こんな事態になるならアホのカティアを頼らず、
僕が無理にでもナンバー32さんを連れ出すべきだったんだ。
「頑張りましょう、もうすぐ出口のようですよ」
「……ああ」
段々と口数が減ってくるナンバー32さん。
ナンバー32さんの体温が急激に低下している。急がないと。急がないと。
「う、嘘だろ」
な、なんでことだ。どうやら僕の体内時計は完全に麻痺していたようで、
空が暗く、青い空なんてどこにも見えない。
どう僕はナンバー32さんに伝えたらいいのだろう?
「空が綺麗だ」
もしかしてもうナンバー32さんの視力がないんじゃ?
「本当だ、清々しい雲1つない青空ですね」
「お前の目は節穴か? あんなところから大きな雲が流れて来ているだろ」
「ごめんなさい、見落としていました」
「きっとブリジットもこの青い空を見上げているのかな?」
「それは正直僕には分かりません。でもはっきとこれだけは言えます。
空はどんなに遠くに離れていても繋がっているんだって」
そうだったのか? きっと今の僕の同じようにカティア
はナンバー32さんが助からないと悟って
彼を勇気付けるためにわざと大げさなパフォーマンスを披露したんだ。
お前って本当に天才美少女僧侶だったんだな、カティア。
疑って悪い真似をした、ごめん。
「そうだな、ありがとう。レオン……」
「ちょっと大丈夫ですか? ナンバー32さん、ナンバー32さんっ」
そしてしばらくしてナンバー32さんの体は冷たくなった。
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