2章 39話 初めての奴隷生活 07
「どうしてあなたは僕を信じてそんな無茶をしたんですか?」
カティアの膝枕に仰向けになって寝かされているナンバー32さんへの疑問。
それが僕には1番よく分からなかった。
だってナンバー32さんには刺されて痛い思いして
全然メリットがないからだ。
「カティアちゃんは治癒の天才なんだろ。
だったら直ぐに俺を助けてくれるってピーンってきたんだよ。
現にほどんど傷がふさがってきているじゃないか?」
僕には傷が塞がっているなんて思えないほど
ナンバー32さんの体から血が流れていて。
カティアだけに任せていたら、ナンバー32さんは
本当に死んでしまうんじゃないって心配するほど劣悪な状態で
見るに堪えなくて……。
「どうだ治りそうか? カティア」
「気が散る。集中しているわたしの邪魔しないでっ」
カティアの手が奇跡の輝きを見せているのにも関わらず、
ナンバー32さんの体から未だに大量の血が泉のごとく溢れていた。
余りにの回復の遅さに苛立ちを覚え、
まるでカティアが手を抜いているように思えて、
「カティア! もっと真面目にやれよ。お前は天才僧侶なんだろう?
そろそろ刺さったナイフも抜いた方がいいんじゃないのか?」
ってつい怒鳴ってしまう。
だが負けずにカティアも鬼の形相してつかかってきて、
「ナイフだと? にゃにおうっ、
治療する時はいつもわたしは真剣よ。文句あるかっ!
わたしに不平や苦情あるならちょっと表に顔を出なさいよ?」
「いや別に文句って意味ではないけどさ……」
今すぐ体からナイフを抜くとかえって流血する恐れもあるから
敢えてカティアは放置しているんだと思うけどその意図が分からない。
「じゃあどんな意味ですか? レオンハルトさん」
傷の深さが全然違うのかな?
僕を治してくれた時はもっと早く癒えたような気がするから。
まあ、意識が残っていなかったからやっぱり僕の思い違い
だったんじゃないか?
「あはは」
もうここは苦笑いで場を濁すしか方法はないよね。
「レオンハルトっ。笑ってごまかすなっ」
「はい、すいません」
「そうケンカするなよ、お前達は血の繋がった兄妹なんだろ?
兄妹はやっぱり仲良くしないとダメだぞ」
弱っていくヒトの前でこれ以上は嘘は付きたくない。
「実は僕たちは兄妹なん……」
「わたし達は仲良しこよしの兄妹ですよね、お兄様~」
あの無鉄砲でワガママなカティアが珍しく場の空気を読んでいる?
なら本当の兄である僕が妹に合わせるしか選択肢は
残されていないんじゃないか。
「……ああ、そうだよ。他人からは顔が全然似ていないって言われているけど
僕たちは正真正銘の血の繋がった兄妹なんです」
一時的でも偽りでもいい。
今度こそ異世界で友達そして暖かな家族を作っていくんだ。
「どうしてナンバー156は泣いているんだ」
「そりゃ、新しい友達に巡り会えたからですよね、なあカティア」
「お兄様はお友達は1人もいなかったもんね。
私にはこの美しい髪の頭皮にある毛根いっぱいに友達がいるんですから」
「……おい、カティアさん。分かりきった嘘は付くなよ。
お前も僕と同類の匂いがプンプンするぞ」
「にゃにおうっ、レオンハルトこそボッチで
女々しい男の癖にっ。このこのっへたれ」
「バカ、バカやめろって。カティアはつべこべ言わずに
ナンバー32さんの回復に全力を尽くしてくれって」
僕とカティアがじゃれ合っているとナンバー32の笑い声が聞こえて来て、
「久しぶりに嬉しいことを言ってくれるなよ、お前達。
バカバカしいじゃれ合ったケンカみたら、誰でも笑って。うう、腹が痛い。
おかげさまで元気になりそうだよ、ありがとうな」
そんなナンバー32の笑顔も残り僅かの灯火に見えてくる。
ふーーっと吹いたらナンバー32さんが今にも消えていくようで怖いんだ。
「大丈夫ですか? 僕は念には念を入れてヒトを呼びに行ってくる。
もしかしたらどこかに応急処置用の回復アイテムが置いてかもしれないし」
「えっへん、わたしの回復魔法を信じられないとは兄様もまだまだですね」
「飽くまで保険だよ、保険」
「い、行かないでくれ、ナンバー156いやレオンハルト。
1度でいいからまた妹のブリジットと見た空、青い空が見たいんだ。
だからお前達と一緒に俺を外に連れて行ってはくれないだろうか?」
それはナンバー32さんの最後の振り絞った遺言みたいに感じられて。
「……分かりました」
その言葉に僕には頷くしか出来なかった。
「行きましょう、僕らと共に青い空が見える外へ。
もちろん、カティアも一緒に同行するよな?」
「もちろんです。病気は気からと言って、
ナンバー32さんの治療はほぼ終わりました。
ですから後は患者さんの気持ちの持ちようなのですから。
一緒に空を見ましょうね。ナンバー32さん」
「ああ、ありがとう、レオンハルトにカティア。
君たちにはとても感謝している」
「それは、おおーと困りますね、お客様。契約違反はダメですよ」
それまで沈黙を破って奴隷商人が僕達の前に立ち塞がる。
「治療は奴隷が回復すればまた商品になると思いましたので
スルーしましたが、ナンバー32を外に連れて行くは残念ながら
出来ません」
「ならナンバー32を僕が今すぐ買います」
「さっきまで奴隷だったあなたに支払い能力があるとは思えませんが?」
「それは……少し時間が掛かるが約束する」
お金など死に物狂いで働いて返済していけばいいんだ。
それよりも今はナンバー32さんを一刻も早く外へ連れて行かないと
もう余り時間が残されてはいない気がするんだ。
「後払いでしかも信用がお客様でしたら3倍になるが
宜しいですか? お客様」
「ああ、もちろん」
もう完全に血が昇って冷静な判断が出来ないんだろうな?
見知らぬヒトのために初の借金を抱えるなんて
本当に僕はバカげていると思う。
でも新しい友達のためなら僕は何だってやってみせる。
でも結局はアイシアと言ったことは全てが真実で、
僕はお金で買う友達しか一生巡り会えないんだろうな?
「では銅貨13×3で銅貨39枚で契約成立ですね。
それまでこの女を保証金代わりに預かっておきますね」
「悪いな、カティア。勝手にお前の人生を決めてしまって」
またにゃにおぅってカティアがキレてこの話もまた白紙に戻るのか?
ならどうする? 奴隷商人を無理に追い払って逃げても
ナンバー32さんの起爆装置が発動したらアウトだし。
逆に僕が残ればいいのか?
でももしもの場合カティアを苦しめることにも繋がるから。
「みんなが助かるなら、それでいいじゃん」
「……カティア」
「妹のカティアちゃんに残って貰って本当にすまない。
立て替えてくれたお金は必ず働いて返すから」
「もう喋らないで下さい。傷に触りますよ。
お金の心配は心配無用です。それよりもおんぶして運びましょうか?」
「いや、カティアちゃんのおかげで歩ける間で回復したよ」
でもナンバー32さんは死にそうなぐらい顔が青ざめていて。
しかしカティアと奴隷商人は笑顔で、僕にはそもそもヒトの感情が
何なのか更に分からなくなりそうで怖かった。
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