2章 38話 初めての奴隷生活 06

「もうこの辺りでいいだろ」


もうこんな惨めな真似しなくっても良いんだよカティア。

これからカティアが笑顔になる方法はいくらでもあると思うんだ。

この先に何十年掛かってもカティアを親元まで連れていくことを約束する。

だからもう体を安売りしないでもっと自分を大切にしてくれって。


「これからいいところなのに実にもったいないのぅ~。

 ナンバー32もそう思うじゃろ」


「洗脳させてこの女は快楽を覚えながら俺たちに肌を見せているんだろ?

 だったら最後まで服を脱がないとナンバー156の力を

 証明にならないじゃないか? ってことで脱ーげ、脱ーげ、もっと脱ーげ」


ナンバー32さんの言葉も一理ある。

だけどもうこれ以上はカティアの苦笑いし続ける姿は見てられないんだ。


「大賢者フォルクス様の女がこんなみすぼらしいところで

 肌を露出させていいのか? 言い分けないだろって。

 ……もっとカティアには華やかな場所でだな?」


「なに焦っているんじゃ? どうせお主たちは最初からぐるだったんじゃろ。

 そのぐらいはとうの昔お見通しじゃよ」


「それは……」


感情に負けてカティアって呼んだのが原因なのか?

それとも本当にフォルクスは未知なる力で見抜いていたのか?

もう頭が真っ白になって何もかもが分からない。


「もういい。楽しい余興はすんだ。

 この続きはワシのベッドの上で楽しむとするかのぅ 行くぞカティア」


「待ってくれよ、フォルクス。僕は……僕は本当にヒトを操れて……」


また僕を信じてくれたヒトが去って行く。


「お客様、このゴミがまだヒトの心が操れるかも知れません。

 もう一度、もう一度だけチャンスを与えましょう。

 出来るだろ、ナンバー156」


……どうして悪意のあるお前だけが僕を信頼するんだよ。


「お主はゴミを高値で売りたいだけじゃろうて」


「それは滅相もありません。ただ私は奴隷の才能を信じていますので」


「よくその舌が言うのぅ。

 うーむ、そうじゃな、ワシの女を痴女呼ばわりした男が

 このナイフで腹を刺したら考えてやろうかのぅ」


「ナンバー156、さあやってみろ。その男が死んでもわたしが責任を取る」


「……分かった」


ヒトを信じるって騙されずけた僕がまたヒトを信じるなんて。

しかも相手に死んで下さいって理不尽きわまりないことを

他人にお願いするなんて。この世界はもう完全に狂っている。

いや僕の存在そのものが狂っていたのか? だとしたら僕は……。


「このナイフはとても高価で価値があるぞ。

 そーれ、地面を這いつくばって慈悲をこいながら受け取るがよい」


偉そうに気取りながら、フォルクスは懐に隠し持っていたナイフを

牢屋に投げ入れる。宙を舞ったナイフは音を立てて地面に転がっていく。


「おい、冗談だろ。やめてくれるよなナンバー156。

 俺たちは仲間だろ友達だろ」


いつからあんたと友達になったんだよ。

友達ならそんな怯えた目で僕のことは見ないだろって。

どうせ直ぐに嘘がバレて全てが真っ白い灰になって終わるんだ。

こんな散々な思いをさせて本当にごめんよ、カティア。


「我が名はレオンハルトが命令する。

 ナンバー32よ、そこの落ちているナイフで自分の腹を刺すんだ」


「どうせできるはずがないのぅ」


流れで誰もが自然と僕のはったりだって薄々は気付いていたと思う。

命令した当人の僕だってそうだ。

だが誰もの期待も裏切り、ぶすりと鈍い厚切り肉を切り裂く音。


「うはは、でかしたぞナンバー156。これでお前の能力は証明されたぞ」


奴隷商人の笑い声が牢屋に木霊する。

時代劇の切腹シーンのようにお腹にナイフを突き刺している

ナンバー32の姿。足元には見たことない量の血の池が拡がっていく。


「ひ、いい。このバケモノ。ワ、ワシに近寄るんじゃない。

 金なら払ってやるからそのを直ちにそのバケモノを解放するんじゃ」


決して僕はバケモノなんかじゃ……。


「お客様、お買い上げまことにありがとうございます。

 さあ出るんだナンバー156」


場違いに浮いている奴隷商人は嬉しそうにスキップして牢屋を開ける。


「何じっと見ているんじゃ、いくぞカティア」


「……わたしはこのヒトをどうしても助けたい」


「またこのワシに命令する気がっ、小娘っ」


「きゃあ、ごめんなさいお爺様」


カティアはまた赤子のように泣き出そうとする。

お前達とは違う。まだ僕にはヒトの心が残っているんだ。


「我が名はレオンハルトが命令する。

 天才美少女僧侶のカティアよ、ただちにナンバー32を助けよ」


僕のとっさの言葉に救われたのだろうか?

涙を堪え、カティアは頷きナンバー32さんの元へ駆け出す。


「そんな男など見殺しにすればいいのに。ワシにはもう時間がないんじゃ」


カティアが一瞬スローモーションになった気がした。

吸血鬼も血を吸わないと体が維持できないってことも聞いたことがある。

もしかしてフォルクスは若い女のエキスを飲まないと生きられないんじゃ?


「くそ~、ガーネットちゃんとのデートの約束が……」


おいおい女の子かよ? カティアの足が気持ち加速する。


「もういいこんな頭の悪い痴女はくれやる。

 よいか約束は絶対に守るんじゃぞ。絶対じゃからな」


そう念入りに言葉を重ねて、杖を忘れて薄暗い通路を走って行くフォルクス。


「お客様、杖、杖をお忘れですよ」


あの杖は大賢者の雰囲気を作るための飾りだったのか?

医者でもない僕は何も分からなかった。

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