1章 14話 妖精の国イルバーナからの逃亡01

イルバーナの城はあちこちに根っこが見えるほど自然に任せた建築物でした。

無作為にできた複数の穴が迷路みたいに複雑に

絡み合っているのが何よりもの証拠である。

はっきりと通路を覚えていない妖精さんもたぶんほとんどだろうって思う。

穴から穴へと外に出てショートカットして城に順応している妖精さんも多い。

案内されて通った道なのにどの背景も一緒に見えて

中々思うように下に降りられない。

陸型モンスターには効果覿面で襲撃を防ぐかもしれないけど

翼のない僕にはとても窮屈な世界そのものでしたって

いったい出口は何処にあるんだよ? まったくもう……。


「待って下さい、勇者様っ」


聖剣の間から不審者のごとく顔を伏せて廊下を走ってきた弱者に

対して投げかけられた言葉。きっとロザリナ姫とのやり取りも

まだ何も知らないんだろうな?


「今お食事の準備をしています。ですからこちらではなく、

 あの突き当たりに見える大広間に移動して下さい」


そう言えばお腹減ったなぁ~。

確かデレデレ状態のロザリナ姫は僕のパーティがあるって言っていたっけ?

思えば朝ご飯も抜いてコンビニに全速力でゲームを取りに行った最中だったし。

草食系の僕が肉体は違うけどロッククライミングもどきで体も酷使したし。

お腹が空くのは必然の結果で。でも今は心を無にして、

この妖精さんを無視して悪いけど一刻早くこの場所から離れないと。


「だからそちらではないですってばぁ~、勇者様」


あんなにガシャガシャって鎧の音が鳴り響いているのに

やけに翼を動かす速度が速いな?

ウサギと亀の徒競走だと思っていたけど全然音が鳴り止まないや。


「もう待ってく……」


急に声が聞こえなくなった。

まさか途中でスタミナ切れして勝手に自滅してどこかで倒れないだろうな?

あれ、あれれ? 無視されることは嫌だったはずなのに

どうして僕がこんなことを……。周りにみんながいるのに。

僕が話しかけても誰も応えようとしてくれない一方方向の世界。

きっと僕に通じる糸電話だけ絡まって断線していたのかな?

デジタル機器であるスマホからは匿名のメッセージが書き込まれるのに。

無意識に走るスピードを落としたんだろうか?

また元気な妖精さんの声が聞こえてきて、


「はぁ、はぁ、ようやく追いつきましたよ、勇者様。

 早く戻らないと僕が怒られるんですっばぁ~」


のんきに大広間でお食事を待っていたら

確実に殺されてしまうかもしれないんですっば~。

でも妖精さんが何事もなく無事で良かった。

無関係なヒトをまで巻き込んで苦しめるのはとても目覚めが悪くなるんだ。


「だからお前はまだ新米なのだっ。アンフォス。

 勇者様が困惑しているではないか? お前は少し黙っておけっ」


いったいどこから現れたんだ? 新たなる妖精さんの参戦。

予想外にもついに3人横並びに併走する異常事態にまで発展してしまう。

妖精さんにも階級の違いあるのだろうか?

アンフォスと呼ばれた妖精の緑メインの鎧。

参戦妖精さんが緑に更に青い装飾を追加した鎧。

共通して兜を被っているから2人の表情までは分からない。

でも何となく動きと声で歳が分かる気がする。


「さあさあ、トイレはこの奥ですぞ、勇者様」


何の前触れもなく聖剣間から飛び出したんだから確かにお腹痛に見えるけど。

……その悪気ない解釈はなんだか腹が立つ。


「聞こえていますか? 勇者様。

 ですからまっすぐではなく、その奥の右、右ですぞ。勇者様」


「今は1人になりたい気分なんです。だから放って置いて下さい」


「いくら勇者様の頼みでも用を足すまでの同行はするつもりありませんぞ」


「そんな意味じゃないって」


こうも親切心が邪魔になる日を訪れるとは思ってもみなかった。

これが偽善と言う名のおせっかいなのか?


「僕は食事よりも先にイルバーナの町で暮らす民の現状が知りたいんだ」


勇者らしくそして出口を聞き出さす一石二鳥の起死回生の言葉。


「そんな意図があったなんて……さすがは勇者様ですね。ねぇセアダス様」


ああ、あのお節介がスフレをいじめるって言うセアダスさんか?

第1印象はそんなに悪いヤツに見えないけどな。

まあ初対面でしかも僕が勇者様の立場だから

本性を隠しているだけかもしれないけど。


「うーーむ。目から鱗ぞ、勇者様。

 この先に進むとまた通路が5つ別れていますから、

 右から2つ目の水色の花を目印に進むと住宅街に出る近道になりますぞ」


「……そうだったんですか?」


しかし時々花の種類が違うって思っていたけど

まさか色で判別していたとはな? 助かったよ、セアダスさんありがとう。


「アンフォスよ、どうしてお前まで何頭を下げているんじゃ?」


「さすがは年の功ですね、セアダス様。僕もちっとも知りませんでしたよ~。

 今度ココにも教えてやろうっと」


「またお前はワシを年寄り扱いして……

 勇者様の寛大が事情が分かればそれで良い。

 ワシらは厨房に戻って食事の準備をしますので、

 ここでお先に失礼しますじゃ。行くぞ、アンフォンス。

 新人だけに厨房を任せるのはまだまだ危険じゃわい」


「待って下さいってば~、セアダス様」


お騒せ親子、いや叔父さんと孫って感じだろうか?

パタパタと翼を動かして城の穴からセアダスさん達は飛び立っていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る