双子の青春海苔家族

畑中雷造の墓場

双子の青春海苔家族

 美奈と由奈は双子の姉妹だ。二十歳だ。姉妹の母親は去年病死した。精神的に不安定になった父親が暴力を振るうようになったのはその頃からだった。


 暴力に耐えきれなくなった姉妹は家を飛び出し、親戚の家に行った。だがいい顔はされず、一日泊めてくれただけですぐに追い返された。でも戻ったらまた痛い目に遭うだけ、そう考えた姉妹は、海の向こうの街で二人で生きていくことを決めた。


 美奈と由奈は船に乗り海へ出た。しかし途中で嵐にあってしまい、船が転覆してしまった。せめて妹だけは生かす――そう強く願った美奈は由奈の手を握り続けた。




 美奈が目を覚ますと、隣にうつぶせになっている由奈がいた。肩をゆすり、由奈、と呼びかけた。由奈が目を覚ますと、姉妹は辺りを見渡した。正面には手入れのされていない木々が、後ろには暗い海が広がっていた。島に流れ着いたのだ。


 狭い島をぐるりと一周してみたが、人はおらず、文明は無かった。孤島だった。よりによって流れ着いたのが無人島。凍えた体と空腹が美奈の思考を放棄した。『死』がすぐ近くに迫ってきているのを実感した。


 その時だった。由奈が美奈の肩を興奮気味に叩いて、海のほうを指差した。


「姉ちゃん! あれ!」


 暗い海に映る、一筋の光と移動する黒い影。船だ。船が通りかかったのだ。二人は大声で叫んだ。




 まさに九死に一生を得た美奈と由奈は、通りかかった船乗り――否、海苔漁師の家で食卓を囲んでいた。


「あの……助けてくれて本当にありがとうございました」


「危ないところだったね、ほら、食べて元気になり」


 美奈と由奈のもう何度目かになるお礼に、乗田さん夫婦は笑顔でご飯を勧めてくれた。彼らは、瀕死の双子を自宅に連れ帰り、温かい風呂に入れてくれた。その上夕ご飯までご馳走してくれる優しい方たちだった。


 事情を話すと、ご夫妻は双子に、泊っていけ、といってくれた。美奈と由奈はありがたく泊まっていくことにした。


 翌朝姉妹が起きると、家に見知らぬ二人の男がいた。


「波人です」「海人です」


 驚いたことに、乗田家も双子の兄弟がいたのだった。


 自己紹介を聞いて、こんな偶然あるんだな、と驚いた姉妹。美奈は海人を見て直感した。


「運命の人だ」


 双子ゆえか、由奈も波人を見てそう思った。


 姉妹は孤島に流れ着いた理由と両親のことなどを、改めて乗田家の双子にも話した。事情を聞いた兄弟は、


「それはひどい。うちで暮らせよ」と快く言ってくれた。




 それから美奈と由奈は乗田家で暮らすことになった。毎日一家の仕事である海苔作りを手伝った。代々継がれてきた海苔作りの手法は、乗田兄弟にも伝えられていた。


「これが海苔になるの?」


「そう。これが九月くらいになると、もっとびっしり生えるんだ」


 由奈がカキの殻を見て言った。手を動かしながら、波人が答える。高校卒業後、すぐに家業を継ぐと決めた乗田兄弟は、早くも教える立場になっていた。


 家族全員で汗を流し、海苔を育てていく。家に帰るとみんなでご飯を食べ、みんなで寝る。そんな心温まる乗田家の暮らしになれてきたある日の夜、布団の中で美奈は由奈に聞いた。


「今度の村の祭り、由奈はどうする?」


「行くよ。でも、姉ちゃんとじゃないよ?」


「うん。わたしも」


 双子姉妹の考えることはやはり一緒のようだった。




 祭りの日がやってきた。美奈は海人と、由奈は波人と屋台を回った。八時になると、花火が始まった。


「好きです」


 美奈が海人に告白したのは、ちょうど花火が上がった瞬間だった。そしてすぐ横でも、好きです、という声が聞こえた。


「え?」


 美奈と海人が振り向くと、隣には由奈と波人がいた。


「ぷっ」海人が吹き出した。「やっぱり双子の考えることは一緒かよ」


 四人は顔を見合わせて盛大に笑った。その後またも同時に、俺も好き、という双子の声が重なった。


 双子のカップルたちは家に帰って乗田夫婦に報告した。


「なんだ、まだ付き合ってもなかったのかい」


「子供作るくらいはしてるとおもっとったけどな」


 ニヤニヤして息子と娘を見る乗田夫婦は嬉しそうだった。




それからの毎日は、景色が違って見えた。朝おはようといい、一緒にご飯を食べ、家族みんなで仕事に出るのがより楽しくなった。休憩の合間にからかいあったり、イチャイチャしたりもした。夏は肝試し、秋には焼き芋パーティー、冬は雪合戦もした。


 青春だった。




「あの頃は楽しかったなあ」


 美奈が言った。そうだね、と返してくれる三人もいる。由奈、海人、波人だ。四人は久しぶりに実家に帰ってきて、思い出を懐かしんでいた。もっとも、四人ではなく、二人と二人、つまり二つの家族として集まっていたのだが。


「もう名前、決めた?」


 海人が由奈のお腹を指差して聞いた。


「そっちこそ」


 波人も同じく聞いた。


 美奈と由奈は同時にニカっと笑って言った。


「男の子だったら海苔男で、女の子だったら海苔子!」


「それはやめて!」


 乗田家全員でツッコミを入れた。




 おわり

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双子の青春海苔家族 畑中雷造の墓場 @mimichero

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