第2話 ヒョウとリン
「あたしと初めて会った頃の夢……ですか……?」
「ああ」
うんと伸びをした。のびをしながら、リンを見つめる。
リンは口元を両手で押さえ、恥ずかしそうな顔を隠していた。いや、隠せてないんだけどさ。
何つうか、そんな顔を見せられると、俺はとんでもなく恥ずかしいことを言ったのではないか、と思ってしまうのだが、よ~っく考えてみると、やはりそんなことはなかった。
リンは今年で十二になる。つまり現在十一。俺は二十二。リンは
だから時々、俺じゃついていけないような、突飛なことを考えたりやらかしたりする。
それで俺以外が巻き込まれることもしばしばある。
まあ物凄く端的に言うと、アホなんだよな、こいつ。だからこいつのやることなすこと、真剣に考えるだけ損なのである。
「ふわぁ……あ~あ」
伸ばしていた手を下ろし、ゴシゴシと目をかいた。
今一度リンを見つめると、リンはどこか気落ちした顔を見せながら、視線を横に流していた。
相変わらずコロコロと表情を変えるやつだ。
一寸先では違う表情になってやがる。
「あの……兄様」
「ん~?」
「兄様の夢に出てきた昔のあたしは、その……」
「ん? あーすげえ感じ悪かったな」
「はわ!!」
「まああの時のお前は俺のことを敵と誤認してたわ――」
「わ、忘れてください!! あの時あたしが言ったことは!!」
「あたしが言ったこと?」
「いや、その……」
視線を外しながら、誤魔化すリン。
俺はそんなリンをジッと見つめて、今一度ノビをした。
「まあいいさ。俺だって、特に覚えてねえからな」
「……」
俺は頭をガリガリとかきながら、立ち上がった。
チラリと、リンを見つめる。
リンは沈んだ顔で、床をジッと見つめている。
覚えていてほしいのかほしくないのか、どっちなんだよ、こいつは。
ったく。
「……リン」
「あ、はい!!」
俺は面倒なことが嫌いだ。
そんな俺がわざわざ『こんなこと』を言おうとしている。
それはつまり――……。
どういうことなんだろうな。わからん。
「その、なんだ、制服」
「制服……あ!! お取りした方が――」
「違う違う。そうじゃなくて」
「?」
「だ~か~ら~。その、制服……似合ってるぞって……」
いつの間にか視線を外してしまった目を、今一度リンに向けた。
リンは口元を手で隠していた。
だからその反応やめろっつうに。
言ってるこっちが恥ずかしくなってくる。
そんな俺の想いが通じたのか、リンは口元から手を離し、くすぐったそうな顔で、笑った。
「はい!! ありがとうございます。兄様」
頭をガリガリとかいた。
こいつの近くにいると、心が引っかき回されていけない。
いや、引きずり回されて、という言い方の方が近いかもしれない。
いや、どっちでもいいな、こんなこと。
「ふわ~」
俺は壁にかけてある、
俺は今年二十二になる。そんな俺が、何だって今更学園に通わなきゃいかんねんというと、それには理由がある。
それは――
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