007 その少女の名は
「ガランさん、ここは僕が何とかします!他の人たちと協力して早く村人たちを洞窟へ!」
後ろを振り返りガランに声を掛ける。
「し、しかし…こ、こんな相手…もはやS級以上…」
「早く!!時間がありません!!」
「あ、わ、わかった!!!」
今は時間がない。ガランさんが男性を抱えて僕から離れていった瞬間。
龍の気配が消えた。
「ーー!?」
―ドガガガガガン!!
僕の周りの家や瓦礫や木々が一瞬にして風で吹き飛び地面がむき出しになる。
「コイツ…なんて速さだ……」
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
「咄嗟に龍神族の剣で攻撃を防いでいなければ身体がバラバラだった……」
龍神族の剣で風圧を受け止めて何とか吹き飛ばされない様に耐えた。
蒼白い龍は上空に上りその長い体をくねらせて移動している。
その隙に『異次元の道具箱』から『世界樹の双眼鏡』を取り出す。
これは、この双眼鏡で覗いた物はどんな情報でも見ることが出来るというアイテム。
「これで、ヤツの正体を見極める…!」
双眼鏡で覗いて龍をみる。
そこには『七幻龍グリムズ、
「七…幻、龍……ブルーシンデレラ…?」
見たことも聞いた事も無い。
しかも『世界樹の双眼鏡』で覗いて分かった情報が名前だけだった。そんな事ありえない。
普通は詳しい生体がもっと分かるはず。
「いったい、あいつは何なんだ…」
双眼鏡を目から放して空を飛ぶブルーシンデレラを見つめる。
すると、体制を変えて一気に僕目掛けて突っ込んで来た。
―ズドドドドドドドドド!!!!!
ギリギリで何とか交わして、剣で切りつけるが硬い鱗に弾かれてしまう。
そして、また空に駆け上っていく。
「この剣で傷をつけられないなんて……」
「お、おい!新人!!早く逃げるぞ!」
ガランさんさんのパーティーメンバーの1人が声を掛けてきた。
「いや、僕のことは良いから先に村人の避難をさせてください!それが出来たら隠れて!」
「だ、だが、お前程度になんとかなる相手じゃ…」
「いいから!このままじゃ全滅する!!!」
「わ、わかった!村人の避難をい、急ぐ!」
剣を構えて空に浮かぶブルーシンデレラを見る。
しかし、どうするか。剣での攻撃は効かない。どうやってあの硬い鱗を貫けばいい。
「グォオオオオオオオオオオオオ!!!!」
―!?
ドン!ドン!と口から空気砲の様なものを飛ばして攻撃してきた。
地面が空気でえぐれて穴が何個も空く。
「こいつ、こんな攻撃もできるのか…やっかいだな……」
「グルルルル…」
ブルーシンデレラは上空でうねりながら狙いを僕に定めている様だった。
動きが止まっていく。
「次の攻撃で決めるつもりなのか…」
グッと剣をまっすぐ構える。地面を踏みしめて迎え撃つ体制を取る。
「お、おーーーい!!ウィル!村人の避難はさせた!お前も早くこい!」
ガランさんが後ろから僕に声を掛けているが、今は奴から目を離せない。
今目を離したら命取りになる。
じりじりと奴とのにらみ合いになる。
―!!
「…来た!!」
ブルーシンデレラは一直線に僕目掛けて突っ込んで来た。
「グォオオオオオオオオオオオオ!!!」
大きく口を開いて空気砲を打ち込んでくる。
ドンドン!と周りに穴が開く。
ここで引くわけにはいかないっ……!!
目の前に来た瞬間。
―ガチン!!!
「…くっ!!」
僕はブルーシンデレラの口が閉じるのを剣を立てて防いだ。
「グララアアアアアアア!!!!」
そのまま、上空へ物凄い勢いで上がっていく。
気圧とそのスピードに耐えながら『異次元の道具箱』から『黒鉄の重弩』を取り出す。
「ぐぐ……、悪いな…ブルーシンデレラぁ!」
その銃口を口の中に向ける。
そして、力いっぱい引き金を引く。
―ズバアアアアアアアンッ!!!!
ブルーシンデレラの口の中へ『黒鉄の重弩』の弾丸を打ち込み身体全体を内側から貫く。
「グギャアアアアアアアアア!!!!」
ブルーシンデレラの悲鳴と共に鱗にも亀裂が入り崩壊していく。
上空に放り出された僕はそのまま自由落下で落ちていく。
「はは…やったぜ…中からの攻撃には、その硬い鱗も無意味だった様だな…」
と、その時爆散したブルーシンデレラが光に包まれて一か所に集まっていく。
その光はとある形をかたどり始め、そしてそれは人間の少女へと変わった。
「なっ!!?」
今は上空数百メートルの高さ。落ちたらひとたまりもない。
自分だけならまだしも、まさかブルーシンデレラが少女になるなんて!
「くそ、間に合え…!!」
落ちていく中、なんとか自分の体制を制御してその少女に近づく。
そして、腕をつかむ。
「よし!」
すかさず『異次元の道具箱』から『巨大泡玉』の玉を取り出して地面に当たる前に目の前に投げつける。
一瞬でその泡玉は数百人中に入れるほどの巨大な泡に膨らみ僕とその少女を受け止めた。
「ふうーーーーなんとか、なったな…ははは」
泡に包まれた僕と少女はその中にいた。
少女は眠っていて、透き通るような白い肌に綺麗な青髪をしていた。白い服を身に纏うその姿はまるで天使の様。見た目の歳は僕とそう変わら無さそうだ。
「いったい、この子…なんなんだ……」
―――
その後、ガランさんたちが駆け付けて泡が消えていく中で僕たちを探して木に挟まっていたところを助けてもらった。
「無事か!ウィル!!!」
「う、うん、大丈夫。それより、そっちは?ガランさん?」
「え、あ、ああ。こっちは問題ない。大丈夫だ……それにしても、お前…とんでもないやつだったんだな」
「えーーっと、べつにそんな大したことないよ。あはは」
「いや!お前はすごい!!今まで見たどんな奴よりも!!すごすぎる!!!」
気が付いて、周りを見ると村人が駆け付けていた。
「俺たちを救ってくれてありがとう……ううう…」「こら!泣くんじゃないよ!みっともない!私らを助けてくれて感謝しかないわい」
村人が駆け寄って来て僕にいろいろな声を掛けてくれた。
今までこんなことなかったから、少し驚いた。
ガランさんも僕の肩に手を置いて涙ぐんでいた。
「うう……お前は天才で最強クラスの冒険者だ…うう……俺は感動した…」
「いや、ガランさん、泣くほどじゃ…」
僕がガランさんを慰めていると、僕が抱きかかえている眠っている少女が動き出した。
「う、うう……ん……」
眠り眼を擦りながら僕はその少女と目が合う。
「君は…だれ……?」
素直に僕はそう尋ねた。
「……私は………私の名前は、シンデレラ…」
大きく丸い、蒼く何処までも深いその目は曇りなく、僕を見つめてそう言った。
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