ゴジラたち(短編)

モグラ研二

ゴジラたち

リアルな巻きグソの形をした金属製のものが、50センチほどの長さがある木の棒の先端に付いていて、その木の棒は、黒いプラスチック製の四角い箱に刺さっている。


箱には無数のボタンがある。ボタンを押すと、巻きグソの部分が、様々な色に光り、ときに野太いおっさんの叫び声を発する。


そんな仕掛けの機械を、鍋島タケシ21歳は訪問販売していた。


頑丈な台車に、たくさんその機械を積んで、街を歩いた。


もちろん、そんな下劣で、大した面白みもない機械、何の役にも立たない機械は、売れるはずなく、多くの場合「気持ち悪い!」「そんなもの誰が買うの?バカなことは止めなさい!」「人間の屑!!」と罵声を浴びせられるのだった。


人々からの軽蔑の視線……台車にたくさん積まれた、鉄製の巻きグソを先端に備えた機械……陰鬱な面持ちで、俯いて、鍋島タケシは、重い足取りで歩いていく。


会社に戻る。


一台も売れていないことを、上司に罵られる。


「なんでできない?」


「売れよ!なんとしても売れ!こんなに高品質なものを売れないお前は無能か!馬鹿野郎!なんとしても売れ!」


「売れないのはお前が人間として終わってるからだろ。」


「修業が足りねえんだよ!」


激怒して顔を真っ赤にした禿頭の複数の上司から、怒鳴られた。


オフィスにある大きなホワイトボードに鍋島タケシの写真が張られ「こいつはわが社の恥」とか「死ぬべき存在」「こいつの人格は糞の中の糞」「チンポ真性包茎でチンカスが凄くて凄く臭くて無理な奴」とか書かれた。


鍋島タケシは家に帰ると同時に涙を流す。四つん這いになり口を開け涎をぼとぼと垂らす。


そして、酒を飲んでは白目を剥いて「死にてえんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」と絶叫する。


風呂場に駆け込む。胸を掻きむしりカミソリで手首を切ろうと何度もするが、できない。


「死にてえ……死にてえんだよお……」


……そんな毎日が、20年以上続いていた。


「いい加減死にてえよ……なんで俺は生きてるんだ……どこでも罵声を浴びせられる。そのために生まれたのか。だとしたら悲惨すぎる。」


鍋島タケシもすでに40すぎのおっさんである。


常に加齢臭の漂うカラダ。


そこに、インターホンが鳴るのだ。


深夜2時過ぎのことだ。


「はい?どちらさまです?」


鍋島タケシが玄関ドアを開けると、そこには禿げた背の低い老人が立っていた。黒いタキシードを着ていた。


「私は伊福部昭ですよ!」


老人は言った。


「はい?」


「伊福部昭です!あなたの隣人ですよ!20年以上あなたの隣人でありますよ!あなたはずっと死にたいと絶叫していますね?私は隣人なので知っているのですよ!」


禿頭で痩せている老人は右手を真っ直ぐ上げた。


どこから聞こえてくるのかわからない。


突然に、空間すべてを、オーケストラの音が満たした。


激しい弦楽器の刻みのなかを、低音の金管楽器が、恐ろしいイメージのファンファーレを、重々しい和音を引きずりながら奏で始めた。


音の渦。


耳が割れそうなほどの密度の音だった。


鍋島タケシは思わず耳を塞いだ。


老人が走り出した。


鍋島タケシは、耳を塞いだまま、老人を追う。


安いアパートの二階、階段を駆け下りる。


耳を塞いでいる両手を外す。重低音の音楽は消えていた。


路上は街灯の薄明りに浮かび上がり、静かだった。


老人は、どこにも見当たらない。


「なんだよ、あいつ……」


白い壁、白い床、白い机、白い椅子。

極めて清潔な印象を与えるオフィスだ。


「ギエガ!アゴング!ボア!ボア!ゼビラゾア!ゲゾス!」


わからない。どういう意味なのか。


シワの目立つ安手のスーツ、禿げた頭、痩せた中年男である後藤は、顔を真っ赤にして、そのように絶叫している。


後藤泰明50歳。チンポコのサイズは通常時6センチ。勃起時11センチ。仮性包茎で、チンカスが溜まりやすい。


目の前にいる若い男は萎縮し、内容はわからないが、とにかく謝罪をした。


「申し訳ありません。申し訳ありません。」


念仏のように、謝罪を繰り返すが、後藤の怒鳴り声は増すばかりだ。


「アジャゴラ!ボンザ!ゼスクゾ!ナア!ゼスクゾランゴ!ボエ!ボエガザ!ゼク!バジャラス!」


ついに後藤は謝罪を繰り返す若い男の襟首を掴み顔面の真ん中を殴りつけた。


若い男は泣きながら、ヒギィ!と叫びながら、鼻血を出しながら、申し訳ありませんと繰り返す。


そこはオフィスで、他の従業員もいたが、みんな無視していた。


自分を標的にされても困るのだ。


「ボガ!ギモゼアビゴンゼス!」


「はい、申し訳ありません、申し訳ありません、はい、全て、自分が悪いです、申し訳ありません。」


「エビラ!」


後藤は顔を真っ赤にしスーツの懐からペティナイフを取り出して血と涙で顔をぐしゃぐしゃにし謝罪を続ける若い男の頸動脈を切断した。


ドバ!ドババ!

血が噴き出した。


若い男は倒れ、白目を剥いて痙攣し、やがて静かになった。


命が、永遠に絶たれた。

だが、誰も反応しない。

命が大切だなんて、誰も思っていない。

自分が死ぬのは嫌だ。美味いものが食えなくなるしセックスだってできなくなる。

だが、いい年して顔をぐしゃぐしゃにして泣いているキモい男なんて、別に、どうでもいいのだ。どうせいつかは死ぬし。


後藤の顔は穏やかになり、優しい声で、


「みんな、休憩にしようか、私の娘が焼いたクッキーがあるんだ、ぜひ、食べてくれ。」


と述べた。


すみやかに白い机に白いティーカップが並べられた。


女子高生が寒い日にも関わらずかなり短いミニスカートで歩いているから、わしは、その女子高生が発情していてセックスを求めていると確信したんだ。わしは、そういうのがわかるタイプ。まあ、昔な、公園でパンツ丸出しで砂遊びしている5歳くらいの女の子を草むらに誘い出して全身舐め回して5歳の幼児マンコに舌先を入れて味わったりしたその時は自治会の奴らにボコボコにされて逮捕されたがね。でも、今回は、わしは間違いないと思った。そいでな、わしは極度に短いミニスカートを、この寒い日に履いている女子高生に、後ろから声を掛けてみた。なあ、寒くないかい?となあ。女子高生は振り向いて、一瞬、凄く嫌そうな顔をした。そいで、何も言わないで、また歩き出した。なあ、年長者、わしは今年で80歳になるがなあ、年長者を無視するとは、いけないことだよなあ。わしは教育のために、ポケットに入れてあるクロロフォルムを染み込ませたガーゼを出し、前を歩いて行く女子高生に抱きついて嗅がせたんだ。女子高生はグニャってなる。わしは、近くにまたいい感じの草むらがあるから、そこまで、女子高生を引きずった。短いミニスカートを剥ぎ取り、薄いピンクのパンティを剥ぎ取り、女子高生マンコがでたよ。ビラビラが割と目立つタイプの、褐色マンコだった。意外に使い込んでいるのか?わしは80歳のチンポコを出した。80歳のチンポコはギンギンに硬くなっていたよ。まあ、バイアグラを飲んだからね。わしは80歳チンポコを女子高生マンコに入れてズポズポした。あー種付けすんぞ!おら!メス豚!発情期豚!孕め!80歳チンポコから発射されたザーメンで孕め!80歳赤ん坊産めや!シワシワの80歳赤ん坊!何度も出したよ。気持ち良かったなあ。女子高生は目を覚さない。おとなしいもんだ。やっぱりね、若い女はおとなしい方が可愛いからね、わしは死体女が一番おとなしいから一番好きなんだが、その女子高生は殺さないでおいた。80歳赤ん坊産んで欲しいからね。マンコを拭いてやり、パンティを履かせ、短いミニスカートも、履かせてやった。なあ、元気な赤ん坊産めよ!わしはな、すでに萎えている80歳チンポコを持ちながら、あたかも、80歳チンポコ自身が話しているかのように、声を変えて言ったものだよ。


車のハンドルのような形をしたプラスチックのもの、その表面に、巻きグソの模様が細かく刻まれている。


中心部分には一つ、大きなボタンがあり、それを押すと、表面の細かな巻きグソ模様が一斉に光る。様々な色に光る。そして野太いおっさんの叫び声を、時々発する。


そんな器具を、私は若い男(20代前半くらい。背が低くずんぐりした体型で、目が小さく地味な印象)から渡された。


その男は台車を押していて、台車にはその器具が、かなり大量に積んである。


「これは、凄く、良い物なんですよお」


男は頬をヒクヒクさせながら笑い、言った。


何か、無理なことを言っている。そういう自覚があるのだろう。


「こんなのはクズじゃないか」


私が言って、その器具をコンクリの地面に放り投げると、男は非常に悲しそうな顔をし、急に蹲ると、大声で泣き出した。


「死にてえよお!!殺してくれよお!!うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


延々と、昼間の路上で叫んでいた。周囲の人々がギョッとした顔で、泣き喚く男を横目で見ていく。


「気持ち悪い奴だな……」


私は言い、蹲り、公共の迷惑も顧みないで自分勝手に泣き叫ぶ男に唾を吐きかけて、その場を去り、なんだか気分が悪かったので駅前の喫茶店に寄って、コーヒーと焼き立てクッキーを注文した。


「それ!美味しいですよね!」


隣の席の人間に声を掛けられた。


「フランスから取り寄せた塩を使っているんですよね。他にはない深い味わいがあるここのクッキー。大好きなんですよ!」


見れば、禿げていて痩せた老人。黒いタキシードを着ていた。

品が良い感じだ。


「あなたは?」

私が言った。


「私は伊福部昭ですよ!」

そのように叫ぶと、老人は右手を真っ直ぐ上げた。


シワの目立つ安手のスーツ、禿げた頭、痩せた中年男である後藤は、突然の死を迎えた若い同僚男性の葬儀に参列していた。


後藤泰明50歳。チンポコのサイズは通常時6センチ。勃起時11センチ。仮性包茎で、チンカスが溜まりやすい。


葬儀は沈鬱なムードで満ちていた。

みんな俯いて、涙ぐんでいた。


葬儀には、後藤泰明以外にも、多くの同僚が参列していた。


「彼がなぜあんなことをしたのか、本当にわからないんです。」


後藤泰明は、ハンカチで涙を拭う仕草をする。


死んだ若い同僚男性の遺影の前で話す後藤泰明を、参列している人々が、涙に濡れた目で、見ていた。


「いきなり、発狂したような、甲高い、ジャングルに住む猿のような叫び声をあげ、彼は、ポケットからペティナイフを取り出し、自身の頸動脈を切断したんです。」


言うと、後藤泰明は、またハンカチで涙を拭う仕草。


「何が、彼をそうさせたのかは、わかりません。彼は若々しくて、明るくて、将来有望な人でした。こんなことになって、本当に、残念でなりません。」


奥の方から、遺族だろうか、豚のような声で、ヒギィ、と叫んだ。悲しみは深い。


遺族を代表して、死んだ若い同僚男性の母親が、後藤泰明に頭を下げた。


「本当に、後藤さんにはお世話になりました。」


「私こそ、息子さんには大変お世話になりました。お母さん、息子さんの分まで、長生きしてくださいね。」


葬儀から立ち去り、後藤泰明は喪服姿のまま、パチンコ屋に入った。


かなり負けた。


ムカついた後藤泰明は台を殴り、止めに来た店員も殴った。


怒りは収まらない。


「玉出せや!なんで玉出さんねや!出さんなら死ねや!全員死ねや!」


喪服姿の後藤泰明は、顔を真っ赤にして叫んだ。


殴られた若い男性店員が、すみません、すみません、お願いですから、暴れないでください、と土下座して懇願。


しかし、


「エビラ!」


凄絶な叫び声を発すると、後藤泰明はポケットからペティナイフを取り出して土下座している若い男性店員の襟首を掴み頸動脈を切断した。


ドババ、血飛沫。ドババ。


血溜まりのなか、後藤泰明は全身に返り血を浴びた。


生ぬるく、生臭い。


「えあーあーえあー。」


白目を剥き、涎を垂らしながら、後藤泰明は喪服を脱いで全裸となり、血を両手に塗り、つまり、血をローション代わりにして、その場でチンポコを扱き始めたのである。


私は伊藤健司。小さな会社で「人々を幸せにする器具」のデザイン、開発を担当している。


芸術大学に在学している頃から、私は「人々が幸せを感じるデザイン」を求めて努力をしてきた。


「人類みんな笑顔になって欲しい。温かい思いやりに溢れる社会になって欲しい。」


そんな思いを、私は持ち続けて来た。

幼い頃から人一倍、優しい心を重要視する思想が、根付いていた。


私は、優しくて、良い人として、人生を歩んできた。


この間見た映画で、

「困っている人々、か弱い人々のためにならば喜んで命を投げ出して死ぬべき。強いものは弱いものを守るために死ぬ、それが義務だ。使命だ。」

そのような教訓を含んだアニメ映画『砂漠のシグマ』にも、大いに感動した。


主人公であるシグマは腹筋が6つに割れた青い髪のイケメンであり、強大な、世界を破滅させるほどの力を持っているにも関わらずそれを絶対に使わない、そして最後には、仲間たちを救うために敵陣に1人飛び込んで行き「なんでもするから仲間には手を出すな!」と土下座、シグマは敵の「妖怪軍団」によってそのケツ穴を永遠に犯され続けるのである……。


妖怪の巨大なチンポコを、シグマはひくひくするピンク色のケツ穴に突っ込まれてズポズポされる。


最初は強烈な痛みに泣き叫んでいたシグマだが、いつしか嬌声をあげ始め。

「あん!あんあん!妖怪チンポきもちいよお!」

画面いっぱいに、アップで映されるシグマのトロンとした恍惚の表情。


涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにし、口を大きく開けて白目を剥く。


「あんイク!イク!妖怪チンポでイグうううううううう!うわあああああああああああ!!」


圧倒的な叫び声だ。シグマを演じる声優はこの演技をするために、屈強な男たちにケツ穴を毎日毎日、犯されたのだという。


……尊い自己犠牲の精神。


賞賛に値する強者の振る舞いとはこのことであろう。


温かい心、幸せを感じる心。大事だよね……。


私は映画館で涙を流した。


居合わせた多くの人も泣いていた……。


シグマのやや毛の生えた、しかしピンク色の美しいケツ穴が、アップで映される。


ケツ穴から、とろりと、妖怪たちが出した精液が溢れ出す。


人間の、真の感動が、この映画にはあるのだろう。


私も、居合せた多くの人々も、ひくひく動くシグマのケツ穴を見ながら、感動の叫び声を、必死になって抑えた。


抑え込むほどに、涙が溢れた。


最近、私が天才的なひらめきによって生み出した器具の売り上げが落ちているという話を営業部長から聞いた。


許しがたい事態だ。


器具には音声を発する機能も搭載されている。

その音声は私自身の叫び声である。

あの叫び声をちょうどいい感じに録音するのに、どれだけの労力を要したか。

それが、営業のクズどもにはわからないのか。


怒りが湧き上がる。

営業のクズどもが全裸に剥かれサバイバルナイフで全身をめった刺しにされて悲惨な最期を迎えるシーンを想像した。


怒りは消えない。


私は思わず席を立ち、「くそどもが!!」と怒鳴り、白い壁を殴りつける。


「いてえよ!!」


私は叫び、地面に蹲り、負傷した拳を擦る。


「ちょっと、伊藤さん?なんなのですか?」


同僚のデザイナー貴美子オリエンタルが怪訝そうな顔で尋ねて来た。


「御心配には及びません」

私が言った。


貴美子オリエンタルは「は?」という顔をしている。眉間に皺を寄せた険しい表情。


「あなたの心配なんてしていないわ。壁の心配をしたのよ。このオフィスビルディングのオーナーは私の旦那である時雄オリエンタルなのよ。つまり、このビルは私自身の財産でもあるわけで。それをあなたが激しい憎悪を込めて攻撃したから、そのことについて、声をかけたのよ。別に、あなたが怪我しようが、今ここで即死しようが、そんなこと、私にはどうでもいいことだわ。あなたは私の財産ではないし」


「そうですか……」


この場にいたくない感じになったので、私は立ち上がり、部屋を出る。

廊下には自販機がある。私は「あったか~い」と書かれている缶コーヒーを購入した。自販機の横にベンチがあり、そこに座って飲んだ。


「伊藤さん、休憩ですか?」


声を掛けて来たのは地味な眼鏡の男だった。名前を知らない奴だ。


こんな地味な眼鏡の名前など覚える価値がない。


「ええ。良いデザインを生み出すには適度な休憩が必要ですから……」


「さすが、わが社のメインデザイナー伊藤健司だなあ!」


「まあ、普通ですよ」


「ねえ、伊藤さん」


男は急に真剣な表情になった。


「ねえ、伊藤さん、生命の根源を見たことありますか?」


「はあ?」


「伊藤さんは人々を幸せにするデザインを求めています。伊藤さん、生命の根源こそがそのデザインではないか、そう思ったことはないですか?」


「はあ?」


私が言うと、地味な眼鏡の男はいきなりズボンを下ろし、パンツを下ろし、確実に勃起しているチンポコを露出させた。


地味な姿に反してチンポコは赤黒く、グロテスクに血管を浮かべびくびくしていた。


チンポコの先っぽが、粘液で濡れて光っている。


「見てください。伊藤さん、これが生命の根源ですよ、みんな、どんな人間も、ここから発射されて生まれたんですよ、これが現実ですよ、この現実を直視してください、やりたいというならば、触ったり舐めたりして構いません、伊藤さん、ぜひ舐めてください、僕はあなたとセックスしたい、セックスしてあなたに私の生命の根源をぶち込んでやりたい、あなたがヒイヒイ言って泣き叫ぶところが凄く見たくてたまらないんですよ!!!!」


……私の街では寒くなって来ると「ゴジラ」が現れる。


ゴジラとは、「剛毛のジジイたちの裸体」という言葉の略だ。


剛毛のジジイたちの裸体は、寒くなると「寒い!寒いぞ!」とわざとらしく叫びながら十数人、路上に現れる。


彼らは身を寄せ合い、抱き合い、頬を寄せ合い「寒い!寒いよお!」と泣き叫ぶ。


彼らは完全な裸体であり、その性器は寒さで萎んでいて干し柿のようだ。


私は会社の帰りなどに、同僚とゴジラについて話す。


「あいつらは何のためにあんなことをするのだろうか」


私が言う。


「ゴジラたちは夏には現れない。11月に入ると、全裸の彼らが路上に現れ、抱き合い、頬を寄せ合い、泣き叫ぶんだ」


「なんでだろう。寒いなら家に入ればいい。家がないならどこか、公民館とか、駅構内とかにいればいいのに」


「ゴジラたちの活動は、一説では政治的な目的があるというけど」


同僚は、横目で泣き叫びお互いの性器を擦り合うゴジラたちを見ながら言う。


「でも乞食みたいに金を求めるわけではないのだろう?」


「ゴジラたちに金を求められた人はいないというよ。事件性を感じないから、みんな通報しないし、警察官たちも、何かこう、微笑ましい感じで、ゴジラたちの様子を見守っている」


本当にゴジラたちは毛深い。肩から胸、背中まで、びっしりと黒い毛で覆われていた。もちろん、全員、顔を髭で覆われている。


脇毛、腕毛、腹毛、陰毛、すね毛、すべてが濃い。


「すげえ臭そうだな……」


つい、言ってしまった。


ゴジラたちの中の1人が、露骨に傷ついた表情を、私に対して示した。


私は申し訳なく思った。ゴジラたちは別に、誰かを攻撃しているわけではない。誰かに対して罵声を浴びせたり、殺意を表明したりしているわけではない。


そんな無垢で善良な彼らに、酷い侮辱の言葉を言ってしまった。


「臭そうとか、人に対して面と向かって言うべきではない。君はもう少しデリカシーというものをわきまえないと……」


同僚に少し厳しい口調で言われ、その日はずっと凹んだ気持ちが続いた。


……ずっと、凹んだ気分が続いている。


いつからか、もう思い出せない。


今の仕事を始めてからだろうか。そうでもない気がする。


私は前作だったか、書いた文章のなかで、汚い部屋のベッドの上に仰向けになり、叫ぶながらブリッブリリリリリと盛大な音をだしてウンチを放出しているのだと述べた。


もちろん、今も、それは継続されている。


部屋の床には敷き詰めたように汚物が転がっているのだ。


もう、片づける気が起きない。


どうでもいい。


どうせ、誰も来ない部屋なのだから、このままでいい。


そんな、投げやりな感情が支配している。


天井を見れば、相変わらず無数の蠅が飛んでいる。


自由気ままという印象。楽しいのだろうか。こんな汚物にまみれた臭く汚い部屋に滞在し続けて、彼らは幸せなのだろうか。


そんなことを考える。


その間にも私は「ウンチがでるぞおおおおおおお」と叫び、ブリッブリリリリリと音を立てながらウンチを、肛門から放出するのだ。


ベッドの上に、仰向けになり。


楽しそうな顔をしている人、嬉しそうな人々は、みんな腕に注射をしている、薬物を摂取している。


そのように、前作に書いたように思う。


今も、その考えになんらの変更もない。


現状は変わっていない。


ハッピーな気分など味わったことがない。


だから、描きようがない。


知らないものは書けない。


想像で書くこともできるが、いかにも白々しい嘘丸出しのものになるだろう。


そんなものを書くつもりはない。


それを書いたからといって、現実生活でハッピーになれるのか。


ありえない話だ。


余計にむなしくなり死にたい気持ちが高まるだけだ。


「ウンチがああああ、でる、でるぞおおおおおおおお!!!」


また、私が叫んでいる。


安アパートの一室、ウンチの臭いが充満する一室。


ここにはいかなる物語も存在しない。

陰鬱な、厭世的な雰囲気が、ウンチの臭いとして存在するだけだ。


それを見て、楽しいと思う人はいない。

そんなことはわかっているし、そこに文句を付けられても、なんにも感じることはない。


これが現実なんだから、文句を付けられたところで、何も変わらない。


ハッピーです!と叫んで、心からの笑顔を浮かべる連中に、私は、私自身のウンチを喰わせてやりたい。


薬物注射でハッピーになって、楽しいのか、幸せなのか。


全員ウンチで窒息死しちまえ!


絶対に道を譲らないカップルやいつまでもうるさい家族連れ。


全員薬物注射してんだろ!


ウンチ喰え!


ウンチ喰え!


ああ!でる!でるぞ!


しかし、どういうことか。


あきらかに摂取した食物以上の量、かなり大量のウンチを、私はすでに放出している。


私自身の肉体、筋肉や脂肪が、ウンチに置換されているのか。


私はウンチ化しているのか。


私は縮んでいくのか。


やがて、私の全体が、臭いウンチに置き換わるのだろうか。


あまりにも、出てくるウンチが、大量すぎる。


そして、そのウンチは凄くウンチの臭いがするのである。……


私は伊藤健司。小さな会社で「人々を幸せにする器具」のデザイン、開発を担当している。


芸術大学に在学している頃から、私は「人々が幸せを感じるデザイン」を求めて努力をしてきた。


「人類みんな笑顔になって欲しい。温かい思いやりに溢れる社会になって欲しい。」


そんな思いを、私は持ち続けて来た。

幼い頃から人一倍、優しい心を重要視する思想が、根付いていた。


私は、優しくて、良い人として、人生を歩んできた。


私の優しい人格が良く作用して、お金はそれなりに稼ぐことができている。


そんな私が今来ているのは行きつけのレストラン『タケオ・オリジナル』だ。

ここは実に美味いイタリアンを出す店だ。


店主のキクチタケオが3カ月間、本場イタリア・フィレンツェで修業をしたというのだから、本格的すぎるほどに本格的なのだ。


一般的に言って、貧乏人は簡単には入れない店だ。


私のような、それなりに稼いでいる人間だからこそ、入れる店だ。


貧乏人は泥水でも啜っていればいい。


私は、美味いイタリアンを喰うんだ。


色鮮やかな本格イタリアンを私の前に並べて、キクチタケオは笑顔で料理の説明をしてくれる。


「イタリアでの修行は大変でした。3か月間ずっと良くわからない禿頭のイタリア男にピザの生地を伸ばすのに使う木の棒みたいな奴で背中を殴られ続けていましたから。その禿の奴は別にシェフでもなんでもないんですよ。店に勝手に入ってきて、それで殴ってくるんだから、ほんと、参っちゃったんだ」


ピザには濃厚なチーズと深みのある味わいのトマトソース。


私は思わず唸ってしまう。あまりにも美味すぎる。


「俺がシェフから料理の説明を受けているときにも、その禿の男はこっそり、抜き足差し足忍び足で入ってきて、それで強い力で俺の背中を叩く、俺が呻くとシェフが心配そうに、どうしたタケオ?というんだ。そのときには禿の奴はどっかに行っている。足音もしないんだよ。それで、俺が寝ている時にもそいつは勝手に寝室に入ってきて、全裸で俺の隣に横たわって、それで……」


ピザだけではない。パスタも美味い。カルボナーラは口の中で甘美な旋律を奏でた。私は思わず唸ってしまう。あまりにも美味すぎる。


「伊藤さん、あんた、生命の根源を知っているか?」


「はあ?」


私が食べる手を止めて言うと、キクチタケオは黒いスラックスを下ろし、その下に穿いているボクサーパンツも下ろした。


完全に勃起した赤黒いチンポコが現れた。


チンポコの先端は粘液で濡れて光っている。


グロテスクに表面にはびっしりと血管が浮かび上がっている。


「見てください。伊藤さん、これが生命の根源ですよ、みんな、どんな人間も、ここから発射されて生まれたんですよ、これが現実ですよ、この現実を直視してください、やりたいというならば、触ったり舐めたりして構いません、伊藤さん、ぜひ舐めてください、僕はあなたとセックスしたい、セックスしてあなたに私の生命の根源をぶち込んでやりたい、あなたがヒイヒイ言って泣き叫ぶところが凄く見たくてたまらないんですよ!!!!」


12月になった。


急に寒くなった。


寒くなると、ゴジラはどんどん増えていく。


街のいたるところに、ゴジラはいる。


ゴジラとは、「剛毛のジジイたちの裸体」という言葉の略だ。


剛毛のジジイたちの裸体は、寒くなると「寒い!寒いぞ!」とわざとらしく叫びながら十数人、路上に現れる。


彼らは身を寄せ合い、抱き合い、頬を寄せ合い「寒い!寒いよお!」と泣き叫ぶ。


彼らは完全な裸体であり、その性器は寒さで萎んでいて干し柿のようだ。


自販機の横で、複数のゴジラが身を寄せ合い、お互いの体を擦りながら、あるいは濃厚なキスをしながら震えている。


ゴジラたちはジジイであり、全員、年齢は60代~70代に見える。


体格はムッチリした感じ。中年太りしている感じだ。


「あー、あー」と気の抜けた声を出しながらお互いのチンポコを触り合って涎を垂らしているゴジラもいる。


性欲はあるようだ。


私と同僚は仕事が終わり、駅に向かうところだった。


「こいつらはどういうふうに生まれたんだ?」


私が言った。


同僚は首を振る。


ゴジラの誕生については知られていない。


そもそも、彼らには親はいるのか。家族はいるのか。


どこからともなく、寒くなると湧いて来て、全裸であちこち移動している。


「それより伊藤健司のこと聞いたか?ついにクビになったらしいよ」


同僚が眉間に皺を寄せて言った。


伊藤健司というのは私と同僚が所属している会社の商品デザイン課所属のデザイナーだった。


そいつがデザインした「巻きグソをテーマにした商品」の売れ行きがあまりに悪いために責任を取らされることとなったのだ。


伊藤健司は最後まで「売れないのは私のせいじゃない!営業の奴らのセンスがないだけだ!実力がないだけだ!私の商品自体に罪はない!」と叫んでいた。


「それに、あいつには何人もの変態ストーカーがくっついていて、会社にとってかなり迷惑な事態になっていたようだよ」


そうなのだ。伊藤健司のせいで会社内、あるいは会社外に「生命の根源」を見せたいという良くわからない輩が頻出するようになったのだ。


そいつらは「生命の根源を知っていますか?」と気軽な感じで声を掛けて来て、最終的に下半身を露出し、自身の勃起したチンポコを見せつけてくるという。


「貴美子オリエンタルさんがそのことが原因で精神病院に行くことになったのが、実をいうとクビが確定した最大の原因らしいけどね」


「へえ。売上悪化は建前ってことか」


「うん。」


「伊藤健司、どうしてんのかな。生きてんのかな」


「知らね。あいつのことなんてどうでもいいよ」


「確かに。どうでもいいな。女でも買いに行くか?」


「行こうよ。女を買っておまんこしたいよ」


「おまんこいいね」


「俺、生でやらせてくれるとこ知ってるよ」


「え?マジで?行こうよ」


「うん。行こう行こう」


「あー勃起してきたよ。楽しみだなあ……」


「とろけるようなおまんこの中に生でチンポコ入れてえよなあ……」


オフィスをでた由美子はさっそく伊藤健司に電話した。

「伊藤健司?あたしだけど、今駅前に向かってるからね!」


数分後、賑わう午後6時過ぎの駅前広場に、小笠原由美子26歳と伊藤健司35歳が現れたのだった。


小笠原由美子は身長が170センチ以上ある長身で髪を短くカットしていて、非常にクールな印象を与える女性である。


一方の伊藤健司は35歳にしては若々しさがなく、ほうれい線が深く刻まれ、頭髪は後退しつつあり、やや太っていた。


「それで?伊藤健司は何を食べたいの?」

由美子はキツイ口調で言う。

伊藤健司はおどおどしている。由美子に暴力を振るわれるかも知れないと、終始怯えているように見える。

「ぼくは何でもいいよ、あの、あんまり脂っこいものは避けてほしいけども……」

「何でも良いとはなんなの!はっきりしなさい!伊藤健司!この!!伊藤健司!!!」

由美子はハイヒールで伊藤健司の足を思い切り踏みつけた。

アギャーという叫び声をあげ、伊藤健司は蹲り、靴を脱いで、靴下も脱いで、足の状態を確認した。

足の甲に穴が開いていた。

ヒール部分は足を貫通したのだ。

足裏から大量の血が流れだしていた。

「酷いよ!」

伊藤健司は泣きだした。

由美子は軽蔑するような目で伊藤健司を見下ろしている。

「あたし帰るから。あんたは所詮は伊藤健司なんだわ。だからダメなのよ」


由美子は、甲高い音を鳴らして、足早に去って行った。


「いてえよお、血が、血が止まんねえよお、どうしよう、どうしよう!!」

伊藤健司は足に開いた穴を、手で必死になって押さえてみるが、血が止まる気配はまったくない。

「死んじまうよお、どうしよう、どうしよう!!」

わざとらしく涙と鼻水で濡れた顔をぐしゃぐしゃに歪ませて、通行人にアピールしてみるが、通行人は無視した。


現代社会の荒廃した人々の心に対し、善良な思いやりの心を期待するのは間違いなのだろうか、そのように、伊藤健司は思った。


「でも死にたくねえんだ、俺は、生きるんだよお……」

血の止まらない足を引きずりながら、伊藤健司は歩いていく。人が、軽蔑したように伊藤健司を見て避ける。


「誰にどう見られようがこの際どうでもいいんだよお、俺は、生きるんだよお……」


由美子と同じようにオフィスから颯爽と出て来た綺麗なスーツを着た数人のスマートな男性たちが、伊藤健司の横を通る。


その時、そのなかの1人が舌打ちをして「おっさんきめえんだよ!」と言い、伊藤健司の背中を押した。


「あっ!!」


そこは下りの階段だった。階段は数十段あり、伊藤健司はバランスを失い、転がり落ちた。


伊藤健司は階段を転がり落ちて倒れた。大量の血を吐いた。

「うぐおっ、うげ、うごぐげご」

そんな発音しか、できなくなっていた。言葉がでてこないのだ。


血だまりに倒れた伊藤健司は藻掻いていた。

「うぐおっ、うげ、うげげご、がごん」

そのように述べながら血だまりのなかで腕や脚を動かしていた。


そこに、先ほどの綺麗なスーツを着たスマートな男性数人が現れた。

「まだいんのかよ!おっさん!きめえんだよ!」


スーツの男性たちは所持しているナイフを器用に用いて、伊藤健司の肉体に傷が付かないよう慎重に、着用している衣服を全て切り裂いた。もちろん下着もである。


結果、ぶよぶよの肉体の35歳、全裸の伊藤健司が出現したのである。


うつ伏せ、ケツだけ持ち上がった状態の伊藤健司。


毛深いケツ穴が、はっきりと見える。


少し、トイレでの拭き方が甘いのか、ウンチが、付いている。


「臭そうな奴だな。お前みたいのは生きている価値がないんだよ!」

「さっさと死んじまえよ!生きようとすんな!息をするな!お前が吸って吐いた息で俺たちのような美しい存在が汚染されるだろ!!」

「どこかの外国の少女が環境問題について熱心に叫んでいるが、環境問題において最も優先すべきことはお前のような生きる汚物を殲滅することだろうな」


散々な言葉を、血まみれで、全裸で藻掻き続ける伊藤健司にぶつけると、また彼らは颯爽とその場を去って行った。


風は冷たい。


12月の風だ。


伊藤健司は、完全に死んだようだ。


持ち上げられたケツ穴は、全く動かず、停止している。


だが……。


ビキ、ビキキ……。


そのような、何かがひび割れるような音が、静かで冷たい空間に、しばらく響いた。


そして、完全に機能を停止したかに見えた伊藤健司のケツ穴から複数の真っ黒な長い毛が出てくる。


その毛はどんどん出てくる……。


ビキ、ビキキ……。


ケツ穴がパックリと開いて、毛深い頭が出て来た。


ジジイ……つまりゴジラが出て来たのだ。


寒い街中にいくらでもいる、徘徊しているゴジラ。


死体のケツ穴から、にゅるん、という感じで、ゴジラは出て来た。


「寒い!寒いぞ!」


彼は叫び、両腕で自分の体を抱きしめるようなポーズをする。


「誰か!寒い!寒いんだ!」


叫びを続けていると、どこからともなく全裸の毛深いジジイたちが小走りにやってきて、寒いと連呼していた、その生まれたばかりのゴジラの体を一生懸命に擦る。


「ああ!寒い!ああ!俺たちは寒いぞ!」


1人だけで叫んでいたのが、集まって来たゴジラたちも叫び出す。


「寒い!寒いぞ!俺たちは寒いぞ!」


寒い夜が深まっていくなかで、剛毛なジジイたちの裸体が、路上で、お互いの体を擦り合っている。


ゴジラたちはどこにでもいて、彼らは死体のケツ穴から、みんな生まれた。


彼らの体臭が凄まじいことについては、この事実から、かなりの納得感が得られるだろうことは、間違いがない。





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ゴジラたち(短編) モグラ研二 @murokimegumii

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