きつねとたぬきの縁結び
黒羽カラス
第1話 接点のない二人
「雪が降るかも」
緩んでいたマフラーをしっかりと首に巻き直す。肩に掛けたトートバッグを引き上げると麻芙由は俯き加減で歩き出した。剥き出しの両手は擦り合わせた程度では改善されず、ダウンジャケットのポケットに突っ込んだ。
「……パンツルックで良かった」
今夜は特に冷える。昨日とは季節が違うと思わせた。突然の寒波の襲来に人影も疎らであった。
道端にぽつんと置かれた自動販売機の前を通り掛かる。横目で見ると温かい飲み物がずらりと並ぶ。態度で関心を見せるものの立ち止まることはなかった。
予備校からバス停までは徒歩で十五分。十分の道程を歩いたところで麻芙由は僅かに顔を上げた。コンビニエンスストアの眩い光に目を細める。不平を言うように小さく腹が鳴った。手で摩って
日用雑貨の棚を何となく見ながら進む。突き当りを左手に曲がって飲み物コーナーに意欲のない目を向けた。
目当ての物は棚に並んでいる。どんぶり鉢を模したような容器がひしめき合う。丸眼鏡の中央を中指で押し上げ、陳列された商品に顔を近づける。
涼しげなチャイムが鳴った。騒々しい足音が店内に響く。不穏な空気を感じ取った麻芙由は音のする方に顔を向けた。
茶髪の若い男性がジャケット姿で走ってくる。いきなり右手が伸びた。麻芙由は軽く仰け反った姿で固まった。覆いかぶさるような形で男性はカップ麺を掴み、レジへと直行した。
「な、なんなのよ」
取り残された麻芙由は赤い顔でカップ麺を引っ掴む。怒りの目は菓子に向けられた。荒々しい手付きで数個を纏めて掴み取る。その間に男性は会計を済ませて外に飛び出していった。
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