第348話 出入り業者と仲良すぎ
「なんっ…瞬さ……! っだよ、あの動き…!?」
特対本部の大会議室では、今まさに実力判定テストの様子が中継されていた。
モニターを見て特に自分の受け持ちの班がある職員は、担当候補生の出来不出来に一喜一憂することになるのだが…
開始早々に班員が全滅してしまった職員が、悔しそうに目を瞑っていた。
「おー、駒込さんとこ凄いね。さっきのブリーフィングでしっかりしてたから、態度だけ直させたのかと思ったけど。動けるじゃん」
「いや、まあ…」
3課の、駒込と同じく今回候補生の担当となった男性職員が火実たちの活躍を見て、班長に直接感想を告げる。
それを受け駒込は、少しバツが悪そうに愛想笑いで返した。
「? あんま嬉しそうじゃないね。どったの?」
「いや、それ―――」
「ズルいぞ、そっちの班は!」
駒込と男性職員の会話に割って入るように、先ほど担当する候補生が全滅した職員が強めの語気で訴えてくる。
急な絡みに何事かと顔を見合わせると、3課の職員が疑問をぶつけた。
「ズルいって?」
「そうだろう! だって、才洲みたいな強い能力者がいて…」
「いや、この前までまともに戦えるような状態じゃなかったじゃん」
「…っ」
以前の才洲の精神状態は、少なくとも班を受け持つ者は全員知っている。
班決めをした際は”強力な戦力“だとか、“不公平”と評する者は誰一人居なかった。
男の指摘はただのやっかみであることを、3課の職員がズバッと断じた。
「…じゃあ、駒込の縁故で引き入れた【
「なんもしてなかったじゃん、今」
そう。
中継を見ていた彼らは皆、戦闘中卓也だけは近くの木に寄りかかって時計型デバイスを見つめていたことを知っている。
確かに卓也の引き入れは、その事実だけは彼の実力を知る者からすると不公平と感じることもあるだろうが、こと直近の戦闘においては何もしていないため関係なかった。
彼の治療を頼りに特攻を仕掛けたわけでもなく、やはりこちらも見苦しい言い訳となってしまう。
ちなみに男が述べた卓也の二つ名は、彼の大規模作戦での活躍を知る職員が方方でした話に尾ひれが付き好き勝手に作られたあだ名の一つである。
「…作戦会議に―――」
「担当決めの時に駒込に問題児を押し付けていたのは貴様らだろう」
「え、衛藤さん!?」
「いい加減醜い責任逃れは止めろ」
突如現れた衛藤の一瞥に怯む男。
派閥意識の高い職員からしたら鬼島派閥の駒込を衛藤が庇うことにも驚いたが、何より衛藤派閥の自分が責められたことにひどく動揺した。
そのまま意気消沈した男は『頭を冷やしてきます』と言いその場を去り、3課の職員も軽く挨拶をして離れる。
必然的に駒込と衛藤が残される形となった。
「心を入れ替えた…なんてレベルじゃない変わりようだな」
「…ですね」
「才洲以外もアイツがなんかやったのか?」
ダメ職員と候補生たちの変わり様に皆が驚く中で、衛藤は一昨日の才洲と卓也のやり取りを見ていたので『候補生たちの変化も何かやったんだろう、どうせ』と、ある意味達観していた。
しかしその事を本人に聞いても、きっとハイスクール△ウォー(ドラマ)やビギナーズ(ドラマ)といった青春スポ根ドラマに例えてあしらわれてしまうだろうと思った衛藤は、ターゲットを真面目な駒込にしぼる。
しかし…
「さぁ…?」
駒込から返ってきたのは、とぼけるような答えであった。
「何も知らんのか? それとも隠しているのか?」
「どうなんでしょう。ただ塚田さんからは…」
答えを言わない駒込からヒントのようなものが飛び出しそうだったので、衛藤は口を挟まず静かに待つことに。
「お前らゼロの人間か。悔しくないのか。といって火実さんたちを殴って更生させたらしいですよ」
卓也の入れ知恵により、原作を知らないであろう駒込の口から予想したパロネタが飛び出し思わず衛藤も
「ふっ。お前は元ネタ知らんだろう(塚田も世代じゃないだろうし)」
と、笑って返した。
駒込は卓也のキャンプの内容を勿論聞いているが、新見兄妹の能力や関係性を自分から漏らすわけにもいかず一旦黙秘することにしている。
それに今は試験中に来るかもしれない刺客に集中したいので、長話を避けるように運んだのだ。
そんな思惑など知る由もない衛藤だが、卓也に入れ込む駒込を見て思うところがあった。
実は今回の“インターン生の指導係”というのは、特対が期待している若手職員に管理職経験の一端を担わせるという側面があったのだ。
そしてそれはハッキリと口にしなくとも、選ばれた本人たちに薄っすらと伝わっているであろうことは上も理解していた。
だからインターン生のみならず選ばれた職員も皆気合を入れて今回のテストに臨んでいるし、そうであって当然だと多くの上役も見ている。
そんな中、駒込だけが”別の使命“を帯びていることが衛藤には分かった。
ハズレ候補生を掴まされて自棄になっているというワケではなく、何か…二人で悪巧みをしているような予感が衛藤に纏わりついている。
薬と毒
これらは同じもので、違うのは用量だけ…なんて事を聞くが、衛藤にとっての卓也はそんな風に感じた。
鬼島に付きっきりの駒込や、他人に興味を示さなかった志津香が、今や卓也を最優先だ。
おそらく四十万は…多分適切な距離感で接することが出来るだろうが、外部の人間に接する機会がそれほど無かった…耐性の弱い二人には、卓也という
特対でなくとも、例えば一般企業の社員が組織や自分よりも出入り業者に傾倒していれば管理職の人間は心配するだろう。衛藤は正にそんな心境であった。
衛藤自身も、重傷者が身近に出れば真っ先に卓也を頼ろうとする自覚はある。
今は卓也の進む道と特対の志す正義に大きな乖離はない。
しかしネクロマンサーの件のようにほんの少しのズレが、途中でお互いが歩み寄れなければ、両者は交わることのない道を進むことになる。
その時、駒込や志津香は、そして自分はどうするのだろうかと強く感じていた。
「…衛藤さん? 塚田さんたちの様子を確認したいのでそろそろいいですか?」
「ん? ああ…そうだな。スマンな」
「いえ…」
駒込の呼びかけに考えから引き戻される衛藤。
今は釘を刺したりしても仕方ないことにこれ以上脳みそを使ってもと思った衛藤は、この場を離れ別の職員の様子を見に行くことにした。
「さて…………あ」
卓也たちを映し出す画面にようやく目線を戻した駒込に、ある光景が飛び込んできた。
_______________
「どうでした、副班長!」
「ああ。21点だ」
ひと班全員を倒すと、観察していた卓也のもとに駆け寄る駒込班の面々。
それに対し卓也は腕時計型デバイスに目線を落としながら淡々と獲得ポイントを告げた。
21点。撃破のポイントに加え6点を積むことが出来ている。
その内訳は…
「火実が空に駆け上がった段階で2点入ったのは見えた。が、後の4点は一通り片付いてからまとめて入ったから分からんな」
「そうですか。まあ、入ったとしたら才洲さんと私でしょう」
「そうだねぇ。僕と火実くんは襲撃の時は特に目立ったことはしてないし」
お互いがしっかりと結果を分析し次に活かそうとしている。
キャンプでの教えが活きていた。
そして新たなターゲットを探すため中央拠点を目指し森を歩くこと十数分…
「…ストップ」
一番前を歩く火実が立ち止まると、班員全員の動きを手で制した。
そして今度は言葉を発さずに、指で空中をさす。
「……あれは」
才洲が漏らした言葉と同じ心境を皆も持っている。
空中には、”2つの目“と“10”という謎の数字が表示されていたのだった。
(作戦開始だ)
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