第139話 学校へ行こう
「というわけで、なんか稼げる案件ない?おっちゃん」
家を購入する事に決めた土曜日の、次の水曜日の昼休み
俺は飯を食いに来がてら、宝来のおっちゃんに戸建てを購入した事を話し、これから税金等で色々と金が必要になるので何か割の良い仕事が無いかと聞いたのだった。
幸いにも新居では前の人が残していった物が色々と流用できそうだったので、ゼロから家具を揃えなくてはならない事態は避けられた。
それでも家を一括払いで購入した事で手持ち資金が減り、将来かかるであろう費用を考えると早めに準備をした方がよいと考え、こうしておっちゃんの元へ来ているというワケだ。
「計画性ねぇなぁ…」
「いやいや、お買い得だったんだよマジで。早く買わないと他の奴に買われてたかもしれないし」
「でもよ、曰く付きなんだろ?その家。大丈夫かよ」
「それは…まあ、大丈夫」
「ホントかよ…」
まさか『死神代行が居たけれど、もうあの家からは離れたから平気』と言うわけにもいかず、そこは伏せて説明した。
もう今は"かつて三十人亡くなっただけの家"なのだ。何の心配もない。
そして営業さんからも事前に税金云々の事については教えてもらっている。
今回取引した金額とはまた別に算定される事や、それがかなりの金額であることも。
琴夜の件が解決したのであの家に拘る理由も特に無かったのだが、これも何かの縁かなと思い購入させてもらった。後悔はしていない。
将来的に首が回らなさそうだったら、一部を駐車場にするなり売却するなりしてしまえば良いだろうと考えている。
何せあんな一等地だ。心理的瑕疵さえ無ければ引く手数多の好立地である。
俺がしばらく住んで何もなければ、やがて近所の悪い噂なども風化するだろう。
「まあいいや。仕事なら、丁度オメーに頼もうと思ってたのが1件あるんだよ」
「お、マジか。ありがたい。どんなヤツ?」
これもまた縁か。
「実はとある学校で、生徒が次々と行方不明になっているっていう事件があってよ。その調査の依頼が来ているんだ」
「え、結構な事件じゃん」
「そうなんだよ。既に警察は動いているんだが大した進展もなく、捜査資料の不可解な点からどうやら一連の犯行が"能力者によるもの"である可能性が出てきてな…」
「はぁー…それでココに依頼が来たと」
「ああ。特対も能力者が関与している可能性があるからと言って、いきなりしゃしゃり出て来るワケにはいかねえからな。まずはウチで様子見…というのが依頼人の要望だ」
「なるほどね」
依頼した人は、宝来の能力者で解決できるならそれがベストだと考えたわけか。
まあ一般の警察じゃ分からない謎も、能力者なら案外すぐ解決なんてことはありそうだもんな。
そうなれば特対の人員を割かずに済む。流れとしては納得だ。
しかしおっちゃんはさっき『俺に』頼みたいと言ったよな。
「それで、その事件を解決するのに、なんで俺に頼もうとしてたんだ?俺の能力は調査や人探しにゃ向いてないと思うけど」
「ああ…それはな、その事件が起きている学校っつーのが、【聖ミリアム学園】だからだよ」
「…マジか」
「マジだ。ちなみに、調査に向いている能力者には既に断られている。報酬が安いからって」
真里亜やいのりの通う学校、聖ミリアム学園。連続行方不明事件の舞台はそこだったのか。
そしておっちゃんには、俺がその案件を断りづらいと踏んで声をかけてきたんだな。
情報も、俺の性格もよく分かってるじゃないか…俺だってそんな安い仕事はイヤなんだけど。
「手付金は10万円。そこから内容によって増えていく契約になっているが…どうするよ?」
少し…いやかなり報酬は物足りないが、真里亜といのりの二人が通う学校で起きている事件なら見過ごすわけにはいかない。それに今後の依頼の事も考えると、ここは受けておくべきだな。
頼ったつもりが、頼られたのは俺の方だったか。
「…………わかった。やるよ」
「へへ、そうこなくちゃな」
満足そうにカウンターの奥に引っ込むと、おっちゃんは手続きに必要な書類を取って来た。
聖ミリアムで起きているという【生徒連続行方不明事件】の調査が今、始まるのだった。
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【聖なる地獄門】編
「初めまして。私は学校法人 聖ミリアム学園の理事長をしております、【
「ご丁寧にどうも」
宝来のテーブル席に座る初老の男性は、聖ミリアムの理事長と名乗ると、俺に名刺を渡してきた。
受け取るとそこには学園のロゴと法人名、役職と男性の名前、そして顔写真が印刷されている。
正真正銘、聖ミリアムのトップが来たというワケだ。わざわざ、この宝来まで。
ちなみに裏面には関連組織の名前がズラリと並んでいる。
「貴方が、調査をしてくれるという凄腕の探偵さんですね。お名前は?」
「申し遅れました。私立探偵をしております塚田 卓也です。凄腕かどうかは、結果で示して見せますので…」
「そうですか。それは頼もしい」
「ふふ…」
何が凄腕の探偵だ…!なんだこの設定…!
理事長の方が余程名探偵みたいな名前してるぞ。
俺は"昨日"依頼を引き受けることにした。それを告げるとおっちゃんがどこかへ連絡し、そして尋常じゃない速さで今日のこの場がセッティングされた。
どういうルートでどのようにしてこんな早くトップを来させることが出来たのかは不明だが、俺は探偵という設定で警察とは別口で調査をすることになっている。
このような打ち合せが開かれたのは、俺が調査で学園内を動き回っても問題無いようにするために必要な手順だった。
トップに話を通しておけば、学園内での多くの行動が許可される。
警察が動いている中で"私立探偵"なんて存在がどこまで教職員や生徒に信頼されるかは不明だが、最低限立ち入る許可が無いと話にならない。
なので今から行う打ち合わせは、調査のずっと前の段階。俺がようやくスタートラインに立つためのものである。
「いやぁ、昨日突然古い友人から電話がありましてね。学園の事件の事を聞いて心配してくれたらしく、私に探偵を一人紹介すると言ってきてくれたんですよ。しかも無償で」
「あー…そうでしたか」
「その友人も警察の人間なんですが…っと、これは言わない約束なんでした。聞かなかったことにしてください」
「はぁ…」
「まあその友人が『もしかしたら本件では警察の人間より役立つかもしれない』なんて言うもんですから、すぐにでも調査を頼みたいとお願いしたところ早速このような場を設けて頂いた、というワケです」
「なるほどですね…」
流れは分かった。
おっちゃんの連絡を受けた依頼人がこの人に連絡をし、早期解決のため急がせてこんなに早く会う事になったというワケか。
まあ理事長からしたら、いつまでも事件が解決しないのも、警察が学園内をうろちょろするのもイヤだろうしな。
であればこの迅速さも納得だ。
「それで、早速事件についての情報なのですが…」
「そうでした。…こちらを」
話を本筋に戻した直後に、服部理事長は一枚の紙を出してきた。
そこには名前と性別、そして『中等部一年』や『高等部二年』といった情報が記載されている。
人数は四人。
これはおそらく…
「…被害にあった生徒の名簿でしょうか」
「ええ…その通りです。ここ2週間で四人の生徒が被害にあっています」
「一見すると、共通点は無いように思えますが…」
学年も性別も、当然名前もバラバラだ。
「はい…それぞれ部活や委員会も異なります。共通点と言えば"寮暮らし"という部分だけですが、寮暮らしの生徒は他にも沢山おりますので…」
「ふむ…」
流石にリストからだけでは全く分からないな。
これは早々に、現場を見させてもらう必要がありそうだ。
「やはり現場を見せてもらわないと、何ともですね」
「そうですよね…。分かりました。手配しておきますので、いつ頃来られるか教えていただけますか」
「それでは…」
俺は次の金曜日、有給休暇をとって美鷹にある聖ミリアムに向かうことにしたのだった。
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