第126話 ヤンデレラ その1
【好奇心は猫を殺す】ということわざがあるが、今回は正にそんな話だ。
俺があのとき、あんな話さえしなければ……
はぁ………
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「なぁ…清野」
「んー?」
「お前が出会った『能力』の中で………一番『弱い』能力って………どんなヤツだ?」
深夜のファミレスの店内。
その一角にある四人席に、俺と清野は座っていた。
テーブルにはドリンクバーから持ってきた飲みかけのウーロン茶とコーヒーが、それぞれの目の前に置かれている。
そしてグラスに結露してできた水滴は、テーブルの所々に水たまりを作っていた。
中華レストランチェーン【
【現庵】と同じ会社が経営する中華料理チェーンであり、普段飯を食べに来たときは【油淋鶏】や【担々麺】などを好んで食べるのだが、今はドリンクバーだけ。
というのも俺たち、今日はしこたま飲んで来た後だったからだ。
もちろんお互い能力を使えば帰るのは容易いが、そんなくだらないことで能力がバレるリスクを冒したりはしない。
だから電車が動き出すまで時間を潰すことに決めた。
それに、始発待ちのファミレスのひとときもまた、飲みの醍醐味と言えるだろう。
お互いそう思っているから自然とファミレスを探し出し、そしてここに落ち着いた。
「どんな者だろうと人にはそれぞれその個性にあった適材適所がある。王には王の………料理人に料理人の。それが生きるということだ。能力も同様、『強い』『弱い』の概念はない」
俺の質問に対して返答をする清野。
実は俺が聞いたのは人気漫画に出てくる有名な質問で、清野もそれが分かって漫画の中と同じような返しをしてきた。
まさか自分がおふざけでもこんな質問をすることになるとは思わなかったが…。
そしてこんな事を堂々と聞けるのも、深夜のファミレスという人のほとんど居ない空間だから故の行動だと言える。
「まあ、しいて言えば……実際に見たわけじゃないが、和久津のヤツが前に探知した中に【
「【ヤンデレラ】か…どんな能力なんだ?」
「かけた相手の周囲の異性がヤンデレになるって能力だそうだ」
「はぁ…?」
内容を聞いて驚く。
なんてしょーもない能力なんだと。
だって、そんなんされても…ねぇ…?
てか近しい異性の知り合いがいなかったら意味ないってことだろう。
攻撃も防御も補助も出来そうにない。
「はぁ…?だろ。こんな能力あったからって何になるんだって感じで、開泉者と変わらねーじゃんってのが俺らの中での評価だったな。当時は」
「そりゃそうだろうなぁ…」
「だからそれが質問の答えだ」
「なるほどねぇ…」
ノリで聞いた質問だったが、面白い内容ではあったな。
世の中には色々な能力があるもんだ…。
どんな人間ならそんな力に目覚めるんだろうとか色々興味は尽きないが、そろそろ電車も動き出す時間だ。
店の大きな窓から見える空が白んできたのを確認した俺たちは、どちらともなく帰る準備をし、レジへと向かった。
「ありがとうございましたー」
「ごっそさん」
「お客さんたち、ヤンデレに興味がおありで?」
「えっ…」
「いいジャンルですよねぇーーーーー」
俺らの会話を聞かれていたのか…
だが幸いにも店員さんにはヤンデレの部分だけが拾われたようで、能力に関して触れてくることはなかった。
まあ、普通に考えたら漫画とかアニメの話だと思うよな。
良かった良かった。
少しだけヤンデレの良さを語る店員さんの話に耳を傾けた俺たちは、晴海庵をあとにしたのだった。
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月曜日 20:45
少し残業して遅くなった俺は、最寄り駅の近くの牛丼屋で夕飯を簡単に済ませ家へと帰って来た。
「ん…?」
家に入ろうと鞄から鍵を取り出した俺だったが、何故か中から人の気配がし、慎重にゆっくりとドアを開ける。
鍵を持っていて、かつアポ無しで来そうな七里姉弟は今日は来ないというのを事前に知っていたので、中の人物には全く心当たりが無かった。
ただの泥棒に遅れを取ったりはしないだろうが、それでも知らない人物の存在というのは緊張する…
「あら、お帰りなさい卓也さん♪」
「……………美咲」
ドアを開けてすぐのところにある台所で、エプロン姿の美咲が笑顔で俺を出迎えてくれた。
輝きのない瞳で俺を見ながら、空の鍋をグルグルとかき混ぜている。
「遅かったですね卓也さん。お留守だったので、失礼だと思いましたが上がらせて頂きました♪」
「ああ…」
だからドアノブがくりぬかれてたのね。
泥棒だったらどうしようかと思ったよ。
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