第89話 真実の入り口 (大規模作戦2日目)
「さて、どうしたもんか…」
俺は古森屋の部屋の前まで来て、考えていた。
何と言って話を切り出していこうかと。
まず確認しなければならないのが、この古森屋が敵かどうかだ。
それとも和久津を殺した犯人が居て、そいつがなりすましているのか。
後者なら戦闘は避けられないだろうから、黒瀬の件に続いてまたしても問題を起こすことになってしまうな。
まあ、そんな危険人物を放っておくほうがコトだからいいのだが。
前者なら、和久津は自分を死んだことにしてまで何がしたかったのだろう。
相当な覚悟で実行したハズだ。
恐らく見た目も変えているから、面識のある人物に聞いても無駄だろうし、何より"謎の認識阻害"が働いているので他の連中の反応はアテにならない。
清野から秘策を授かっているが、少なくとも古森屋が敵か味方かは自分だけで判断をしなければならない。
うだうだ考えても仕方ないか。
ここは相手の虚を突いて、リアクションを見極めよう。
俺は全身を強化し、不意打ちにも対応できるよう準備した。
そして
「すみませーん」
ドアをノックし、古森屋を呼び出した。
不在でなければいいのだが…
少しして、開錠音と共にゆっくりとドアが開かれ、中から女性が顔を出した。
「…誰だい、こんな時間に」
中から少し覗かせているのは、ダウナーな感じの女性だった。
気だるそうにこちらを訝し気な目で見ている。
初対面の人間がこんな夜にアポなしで訪ねてきているのだから、当然の反応だ。
先ほどリーダーに聞いた話では彼女は4課に所属しており、特に目立った印象の無い普通の職員だということだが。
さて、先手必勝(?)といこうか。
「夜分遅くにすみません。アナタが和久津さんですか?」
「………表のプレート見えないのかい?私は古森屋…」
「今は、でしょ?」
「…………」
特に動揺はしていない。
というか、反応自体薄いな。
予想していたか、この展開を。それとも頭のおかしいヤツだと思われたか?
だが僅かな沈黙の後、彼女が動いた。
「……まあ立ち話も何だし、入り給えよ」
彼女は不敵に笑うと、俺を部屋に招き入れた。
「お邪魔します」
さて、これから先どうなるかな。
先の読めない展開に、気持ちが高まる。
(何かあってもあたしがご主人を守るぜ!!)
(頼りにしてるぜ?)
仮に即死攻撃が来ても、まあ大丈夫だろう。
ウチのユニちゃんが居れば…
(ユニちゃんっていいな!)
気に入られた。
「さ、どうぞ」
「どうも」
本日二度目の、女性職員の部屋のリビングへご招待。
中々無いぞ、こんなことは。
彼女の部屋も水鳥の部屋と同じような作りだった。
1課と4課で部屋の広さに差は無い様だ。差があるのは一時滞在用の部屋とだけか。
「適当にかけてくれ。何か飲むかい?」
「いや、止めておくよ」
「正しい判断だね。敵か味方かもわからない人間から、口にするものを貰うもんじゃない」
彼女は正面の椅子に座りながら、俺の心を言い当てる。
「先に言っておくと、私はキミの敵ではない。私はキミの言うように、和久津沙羅本人だ。もちろん姿は変えているが…。と言っても、言葉だけでは信じてもらえないかもしれないがね」
「そうだな」
「しかし証明しようにも、そもそも和久津沙羅の事を知らないだろうキミに和久津沙羅しか知り得ないような事を今ここで述べてもどうしようもないね。キミと秘密の共有をした事もないし」
「そりゃあな」
「困ったね…逆に、和久津沙羅の事でキミが何か知っている事は無いのかい?」
「そうだな…1年前に自殺した能力探知能力者、ってことくらいしか」
「そうだ!ならキミの能力を言い当てて見せよう。それなら口で言うよりもキミの中の和久津沙羅に一歩近づくんじゃないのかい?」
姿は変わっても能力は変わっていないよと言い、彼女は早速俺の能力を探るべく集中した。
彼女の体を泉気が纏っている。
そして探知が終わったのか体の泉気が霧散し、彼女は俺の方を見て話し始めた。
「キミは…何なんだ?」
「…?藪から棒になんだ?」
「……いや、済まない。キミの能力が分からないんだ。開泉者ではない事は分かるのだが、詳細が入ってこないんだ」
「俺の治療系能力が分からないってか?」
「治療系…?そんなハズはない。それなら私にも分かる。キミはもっと…別の能力だ。だがそれが何なのかまでは分からないんだよ。こんなことは初めてだ…」
俺が開泉者でも治療系でもない事は分かっているようだが、"数値を操る"能力である事までは分からないようだ。
調子が悪いのかな?まあいい。嘘は言っていない様子だし、そろそろアレを試すか。
予め清野から聞かされていたアレを…
「じゃあ一つ俺から試してもいいか?」
「…何だい?」
自分の能力が効かず意気消沈気味の彼女に提案する。
「今から俺が言う言葉を聞いて、俺に古森屋夏美の事を"調べるよう頼んだ依頼人"を当ててみせてくれ」
「…わかった。それじゃあ、始めてくれ」
俺は清野から、もし和久津沙羅本人が生きていたら本人かどうか真偽を確かめるのに聞いてみろ、と言われていたワードを彼女に投げかけた。
「俺の依頼人は『2年前に食っちまった桜餅の借りを今返すぜ』と言っていた」
この言葉を聞いて、もし依頼したのが清野だということを当てたらそれは紛れもなく本人だと言われた。
清野曰く、誓ってもいいとのことだ。
清野と和久津だけが知る、あるいざこざの原因らしい。
「…ふっ…くっくっくっく…」
俺の言葉を聞き、笑い出す彼女。
そして
「そうかそうか…キミに古森屋夏美を探るように言ったのは清野誠か…まさか彼が私の事を探っているとはなぁ…くくく」
俺の依頼人を見事言い当てたのだった。
「当たりだ。俺はアンタを和久津と信じよう。清野はアンタが自殺する時に残した遺書を見て違和感を覚え、俺に特対に潜入し探るよう頼んだんだ。清野自身はどういうワケか遺書の事を考えると思考がまとまらないらしく、俺が代わりに遺書に隠されていた名前を頼りにここに来たんだ。全部アンタが仕組んだ事だろ?」
「…ふむ、そうだな。順を追って説明しなければならないが、全てを話すには"もう一人"ある人物の存在が不可欠だ」
「ある人物…?」
「ああ。そしてもう既に呼んである。たまたま話をする予定でね。そろそろ来る頃だが…」
ちょうどその時、この部屋のドアがノックされた。
「来たようだ」
そのある人物とやらを出迎えるべく、和久津は玄関へと向かっていった。
そして一人の女性を連れて和久津は俺の居るリビングへと戻って来た。
「紹介しよう。彼女は【
「…沙羅さん。この人は?」
「これから説明するよ」
和久津が紹介してきたのは、同じく4課に所属しているという葛西と言う女性職員だった。
片目を髪で隠し、一見するとおとなしそうな印象を受ける容姿だが、目の奥に闘志が宿っている。
この子が不可欠と言っていたが、それは一体なぜだ…?
「葛西というのは警察に入るために作った偽名でね、彼女の本名は【
「偽名…?」
「彼女は世間では『警官殺しの女子高生』として指名手配されているのだよ」
「はぁ?」
情報量が多すぎて、頭の中が既に渋滞してきた。
死を偽装した職員と、指名手配中の女子高生…この二人が組んで、一体何をしているというのだ…?
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