23 霊感のある人から見た霊能者


 夢は受動的なものだ。


 気づいたら舞台に立たされている状態で、自分の役がみんなから尊敬される無敵の勇者という設定ならいいけど、ゾンビに追われる役もある。


 ストーリーが勝手に展開されていき、夢を見てる本人は夢だと気づいてなくて現実だと思っている。自分でシーンを選ぶことができない夢――。ヒーローになれる良い夢ならいいけど、悪夢だと恐怖を現実のように感じるから最悪だ。


 夢にアヤカシが現れる恐ろしい経験をしても、俺の友人はひょうひょうとしている。



 夜のビジネスホテルの一室で、俺――紫桃しとう――は悪夢の体験を聞いてびびっている。室内には友人・コオロギ――神路祇こうろぎ――とコオロギのイトコ・もりさんがいる。今はいいけど、部屋に戻ったら一人になる。怪談のあとにホテルで一人なんて死亡フラグ立ってないか?


 俺のたくましい想像力が恐怖劇場を創り出そうとしていたところ、杜さんが断ち切ってくれた。



「悪夢なんて嫌だわ。夢はコントロールできないじゃない。しかも目が覚めるまで現実だと思っているからとても怖いわ」


「ツバメは怖がりだなあ。悪夢が嫌なら、寝る前に楽しいことを思い浮かべるといいらしいぞ」


「映画を観ると夢の中に映画に関連する内容が出てくることがある。夢は心理状態が反映されるらしいから、寝る前に楽しいことを考えるのはアリだな」


「夢ってふしぎよね。見た夢に意味を求める夢占いもあるじゃない」


「そういや東京では夜になると駅の近くに占い師が出没してた……。

 コオロギ、今でも占い師はいるのかな?」


「自分が使っている駅では見かけないけど、いるんじゃないかな?」


「コオロギは占いとかに興味はなさそうだな」


「そんなことないぞ。参考にしている」


「「参考って?」」


「おみくじと似たような感じだよ。

 おみくじに書かれている内容を読んで、気持ちを引き締めるのと一緒で占いも参考にしているぞ」


「格言やことわざみたいな感じか」


「占いは統計という人もいるらしいわ」


「……俺は占い師は詐欺師みたいなものだと思っています」


「なんかトゲのある言い方ね」


「占いから霊感商法にはまった人を知っているので」


「ニュースにもなることがあるわね。人の弱みに付けこむ人もいるから気をつけないとダメね」



 超常現象的な出来事はあると思う。占い師の中には真摯に取り組んでいる人がいるとしても、俺は信用できない。占いの過程で不安をかき立て、人をだましている詐欺師のように見えてしまう。


 占いにのめり込んでしまい、人が変わってしまった友人を思い出して、いらいらし始めたところ、コオロギが口を開いた。



「統計という説もあるけど、そうでもない場合もある」


「なんか含みのある言い方だな」


「本人しか知らないことをピンポイントで言い当ててくる人もいるんだよ」


「えぇ!? そんなことができる人がいるの?」


「『変なニオイがしなかった?』と職場で体験したことを言い当てて、詳細を話す前に『あまりよくないから離れたほうがいい』と忠告されたことがある。

 その職場では、アヤカシからちょっかいを受けたり急に火薬のニオイがしたりと、変なことが立て続けに起きて気になっていた。

 話す前に当てられたから驚いたよ」


「それって……前に俺に話した体験のことか?」


「うん」


「なんのことなの? 話が見えないわ」


「コオロギが働いていた派遣先での体験です。

 そこでは霊体に声をかけられたり急に火薬のニオイがしてきたりと、アヤカシ系の現象が頻発していた。

 嫌な感じがしてコオロギは辞めたって言っていたけど……」



 続きを聞くため、コオロギに視線を投げてバトンタッチすると、お菓子を食べながら話し始めた。



アヤカシ系の現象が起きていた時期に、知人と雑談していたら流れで知り合いに占い師がいると知ったんだ。

 占い師なんて珍しいからいろいろ質問すると紹介してくれた。それで会って話をしたことがある――」



 ✿


 占い師は年配の男性で、書道や剣道などを指導する先生のような風貌をしていた。


 和服姿で身なりを整えており厳格な面持ちだ。目に力があって、気圧される雰囲気があるけど包容力も感じた。


 自己紹介を済ませると、自分の名前や生年月日、住所を聞いてきて占い始めた。


 本を参考に数字を引き出して判断するようで、計算しつつ本のページをめくって確認する作業を繰り返している。邪魔すると悪いので黙って見ていたら、ふと動きが止まった。怪訝な顔つきになり本から目を上げた。


 占い師は、自分をじっと視たり自分の背後へ視線を移したりと何かを視ている。しばらく沈黙していたけど自分と視線を合わせると、ニオイのことを言い当ててきたんだ。


 勤務先で変な現象が起きていることは、占い師には話していないし、紹介してきた知人にも話していない。それなのに、いきなり言い当てられてびっくりした。


 占い師は、職場のことが気になるようで住所を聞かれて答えると、しばらく黙りこんで『あまりよくない土地』と言い、離れたほうがいいとアドバイスをもらった。


 ✿



「その職場では、派遣を続けようか更新終了しようか悩んでいたから、いい機会となったよ」


「そんな裏話があったのか」


「レイちゃん、その人って霊感があるんじゃないの?」


「なんらかの異能はあると思う。

 ツバメや紫桃が自分に『霊感がある』って言うだろう?

 霊感がある人ってさ、この占い師みたいな人に対して言う言葉じゃないのか?

 話してないことを言い当てられると、びっくりするよ」



 自分ができることには驚かないのが人間だ。

 右利きの人なら右手で文字が書けるのをふしぎとは思わない。でも左利きの人からすれば、すらすらと文字が書けるさまはすごいと感じるだろう。


 これは異能に対しても同じで、ゼロ感の俺から見れば、アヤカシに声をかけられたり腕を引かれたりするコオロギは「霊感のある人」に分類され、とんでもない異能の持ち主に見える。そんなコオロギが『霊感がある人』と呼ぶ人物は、さらに異質な能力の持ち主に視えているのか……。



「レイちゃんだって、私から見れば『特別』な人よ」


「本当にそうだよ。

 アヤカシからラブコールを受けたり、予知みたいなことをするなんて、超人の域にいると思う」


「まさに超人ソレよね。

 前にレイちゃんから夢に出てきたオフィスと同じ風景の派遣先に就職したら楽しかったと聞いたわ。

 レイちゃんは偶然で片づけてたけど、そんな予知夢的な夢なんて見たことないわ」


「コオロギが『変わっている』と思っていないのが、一番の問題なんだよな。

 こっちが質問したり、引き出してやらないと気づいていない」


「そこよ!」


「だよな!」



 意気投合して顔を向けると杜さんと目が合った。そこで気づいた。


 俺は独り言をこぼしていたのに、いつの間にか杜さんと会話していた。しかも敬語ではなく、ため口で!


 ……認めたくないが、コオロギの指摘どおり俺と杜さんの思考は似ているのかもしれない。


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